45、Bloody Day2.
「ねぇ、お母さん、それなぁーに?」
そう聞いたのは、穴を探し終わって、母が繕うのを座って待っている時だった。
「これ?」
クレアが聞いたのは、いつも服の下につけているネックレスの事だった。
銀のチェーンだけが、わずかに首筋から覗いている。
「これはね、お母さんの大切なお守りよ」
「宝物なの?」
「そうね。宝物」
見せて、とせがむと母は手を止めてネックレスを首から外した。
「…綺麗…」
それは、無色のほぼ透明と言って良いほどの、光を反射して青白く光る石と真っ白な綺麗な珠からできていた。
「綺麗でしょ?それはね、お父さんがくれたのよ。結婚する時に」
「お父さんが?」
「そう」
クレアにとって、父は遠い存在だった。
記憶には全くなく、母もまた、多くを話してはくれなかった。
このネックレスが父にまつわる物だ、と言うだけでクレアにとってはとても大切な物に思えた。
「綺麗だねぇ…」
もう一度そう口にしてクレアはネックレスに視線を注ぐ。
「クレアが十五歳になったらあげようね。これは、六月生まれの人のお守りなの。クレアも六月生まれだものね、だから、十五歳になったらこれをあげようね」
そう言って微笑むと、母は針仕事を続ける。
「え?良いの?」
「良いの。お父さんだって、自分の娘も守りたいでしょ?お母さんは十分守ってもらったから、だから今度はクレアの番ね。十五歳の誕生日にあげようね。クレアがお母さんと同じ月に生まれて良かった」
そう言ってもう一度微笑み、クレアが返したネックレスを再びつけて、服の下に見えないようにすると針を持つ。
「よし、出来た。クレアちょっと、これをカーターさんの奥さんのとこまで持って行ってくれる?」
それに、うん、と笑顔で答えて六歳の女の子には少し多すぎる洗濯物の山を抱えてクレアは家を出た。
それを見送り、母親は残り少ない財布の中身を確かめて溜息をついた。
今夜の食事の分は何とか足りそうだった。
どうにか安く今日の晩御飯の買い物を済ませないと、そんな事を考えながら彼女もまた買い出しに家を出て行った。
カーターさんの奥さんは、頼んだ洗濯物の手間賃を渡すとすぐに扉を閉めてしまった。
いつもより虫の居所が悪かったらしく、不機嫌そうだった。
クレアはもらったお金をなくさないようにポケットに入れると家路を急いだ。
いつもより人通りが多い。
皆何かに追われるかのように急いでいる。
そんな雑踏を掻き分けながら進む。
しかし、何かが違う。
そう気付いたのは、家が近くなった頃だった。
気が付けば周りの大人達の様子がおかしい。
急に不安になって、早く安心したくて大好きな家に向かう。
家に帰れば、大好きなお母さんが笑顔で迎えてくれて不安なんて拭い去ってくれるはずだ。
どうしてこんなに騒いでるのか、クレアには全く理解できず、それが余計に不安を煽る。
周囲はざわつき、時々どこからか、歓声のような、奇声のような大きな声が聞こえてくる気もした。
恐々周囲を見回すクレアには目もくれず、異様に興奮した人々はクレアを追い越して走って行く。
更に不安と恐怖が増してクレアは小走りになる。
そこの角を曲がればすぐだ。
角を曲がった瞬間、急に喧騒が大きくなった。
思わず足を止める。
少し前に人だかりが出来ていた。
何人もの人が群がって騒いでいる。
その中心を横切って行くのは怖かった。
だが、そこを通らねば家には入れない。
どうしようか、と逡巡しているうちに何かが目に入った。 |