44、Bloody Day1.
そっくりなの…お母さんの…ネックレスに、その言葉に、アレンはどう反応すれば良いのか分からずに少し戸惑ったが、とりあえず、クレアが倒した椅子を起こし、隣に置くと自分がそこに座った。
「お母さんがいっつもしてたの…どんなに、どんなに生活が苦しくても絶対に手放さなかった。お父さんからもらたって言ってた。私はお父さんは知らないけど、結婚する時にもらったプレゼントだ、って。嬉しそうに言ってた」
クレアは体を起こして、椅子の背にもたれかかるようにして座りそう話しだした。
顔を少し俯け、放心したように淡々と語る。
アレンに向かって話しているのか、誰に向かってでもなく、ただ言葉を紡いでいるのかもわからない。
目は虚ろで、何も見てはいないかのようだった。
「大切にしてたの。六月生まれの人のお守りって言って」
――これは、六月生まれの人のお守りなの……
「私も六月生まれだから、十五歳になったらあげる、ってそう言って…」
――クレアも六月生まれだものね、だから、十五歳になったらこれをあげようね……
自分の中に全てを収めているのが苦しくて、吐き出してしまいたかった。
話すつもりなどなかったのに、気付いた時には話し出していた。
止められなかった。
脳裏に血まみれのネックレスがちらつく。
「…殺されたの…」
「え…?」
突然搾り出すようにしてそう言うクレアを見るが、やはり遠い目をして、彼女は語り出した。
それは八年前だった。
まだ、四歳の幼子を抱えた片親がセレサに来てから、二年がたっていた。
小さな街と言ってもそれなりの広さはある。
その中を転々としながら過ごしてきた。
流れ者で、子供を抱えた女。
雇い手すら中々みつからない。
生活は苦しかった。
だが、親子で細々と何とか暮らしていた。
幸せな日々だった―…。
†††††††††
「ジャン!お母さんがね、家においで、って言ってたよ。ねぇ、おいでよー」
街中に元気な声が響く。
ジャンを見つけて嬉々として駆け寄って来た、クレアが発した声だった。
「うん…考えとく…」
会う度に幾度となく繰り返されたやり取りだった。
初めて会ってから数ヶ月。
同い年で境遇も似ているためか、クレアの母も何かと気にかけてくれて、良く一緒に暮らそう、と言われる。
それを断り続けるのは、確固とした理由があっての事ではない。
孤児の生活が気に入っている訳でも、クレア達親子を嫌っている訳でもない。
何となくその気になれなかったのだ。
まだ、六歳だったジャンは深く考えていた訳ではなかったが、もしかしたら、もう一度家族を作るのが、どこか怖かったのかもしれない。
「あのね、今日ご飯食べにおいでって。それとね、これとっても上手く作れたから食べてみてって」
そう言って、ニコニコと笑いながらクレアはパンを揚げて、少しだけ砂糖をかけた物を取り出す。
それを受け取って、ありがとう、と言うと、またクレアは笑う。
「絶対来てよね。私、これからお母さんの手伝いがあるから、また後でね」
そう言って最後までニコニコと笑いながら手を振って、クレアは走って家に向かった。
「お母さん?ただいまぁ!」
「お帰り。ちゃんと渡せた?」
いつもどおりの穏やかな笑顔で母は迎えてくれた。
暖かな空間だった。
「うん!絶対ご飯に来てね、って言った」
それに柔らかく微笑んで、ありがとう、と言った。
「今日は何したら良いの?」
母親の周りを跳び回るようにしながらそう尋ねる。
何をするのも楽しかった。
母の周りで話しながら、仕事をすると、昔話や、不思議なお話しを母は語ってくれた。
「今日はね、お洗濯と、繕い物のお仕事がもらえたからね。お洗濯はもう終わったから、後は繕い物」
「何したら良いの?」
「そうねえ…まだクレアに針仕事を任せるには早いかしらね…じゃあ、この中から穴の空いてるのを探してちょうだい。それをお母さんが繕っていくから」
そう言って山と積まれた乾いた洗濯物を指差す。
「はぁーい」
クレアは一つ一つ穴が開いていないか、薄くなっている所はないか、探していった。 |