41、本心
「とは言ったものの…どうするかなぁ…」
言って、アレンは宿の前の通りを見回す。
どこに走っていったものか。
とりあえず、宿の前で出店を出していた人に話しを聞き、方向を決めて辺りを見回しながら歩きだした。
周囲を見回し、路地を覗き込み、通行人や店を出している人に話しを聞いたりしながら歩き回った。
宿を出た時から紅かった空は、今は紫色へと変化し、陽はほとんど落ちていた。
これ以上暗くなったら厄介だな、と思いながら覗き込んだ路地に、小さくうずくまるようにして座っている人影が見えた。
ゆっくりと近づいていくと、真っ黒だった人影が色を持ち、銀色がかった淡い青色の髪の少女が膝を抱えて座り込んでいるのが見えてきた。
近づいてくる足音に気付いたように少女はゆっくりと顔を上げた。
「…クレア」
そう声をかけると、再びクレアは顔を膝に埋める。
アレンはクレアの隣に座り込む。
「何ていうか…悪い事したみたいだな…」
自分に原因がある事は確かだと思うのだが、それが何なのか分からないため、それ以外に言い様がなかった。
泣いていたのかと思ったが、先ほど顔を上げた時のクレアの顔は涙で濡れてはいなかった。
クレアは顔を俯けてはいたが、膝から顔を離して下を向いている。
表情は窺えなかったが、落ち着いてはいるようだった。
「えっと…暗くなるし、そろそろ帰らないか?」
全く反応を返さないクレアに、もう一度声をかけようか、と迷いながら口を開いた時だった。
突然クレアが顔を上げてアレンを見据えた。
「私に構わないで」
一言だけそう言ってクレアはアレンを見る。
「怒ってる…よな?」
クレアはそれには答えずにいる。
「なんでか、せめて教えてくれないか?」
「…構わないでって言ってるでしょ」
全く表情を変えずにクレアはもう一度そう言う。
口調も静かだが、感情を全く感じさせない声だった。
「迷惑をかけたのは謝る。急に飛び出してごめんなさい。だから、もう私に構わないで」
「…構うな、たってこれからしばらく同じ隊商で過ごす訳だし…それなら楽しく過ごした方が…」
「煩わしいの」
アレンの言葉を途中で遮り、クレアはきっぱりとそう言う。
しかし、アレンは気を悪くした風もなく再び口を開く。
それを見てクレアは少し戸惑いを覚えた。
「煩わしい、か。でも、誰とも関わらずに生きてはいけないだろ?」
「人との関わりなんて、結局は利害関係じゃない。お金があれば誰にだって人は物を売るし、能力があれば雇ってお金を渡す。それだけじゃない。相手にとって不利益なら首にするし、物を売らない」
「でも、友達とかがその中でできるものだろ?ずっと一人でいるのは寂しいだろ?」
「ただの馴れ合いじゃない。そんな上辺だけの繋がりなんて、欲しくない」
クレアは目に強い意志を浮かべてアレンを見る。
徐々に暗くなっていく中、クレアのその瞳だけが浮かび上がるようにしてアレンを見る。
「それだけじゃない…」
「何?友情?信頼?そんなのただの奇麗事じゃない」
クレアは表情を浮かべずにそう言う。
それが、逆に冷たさを際立たせるようにアレンには感じられる。
そんな事はない、そう言いたかった。
だが、開いた口からは声が出なかった。
それを見て、クレアは小さく笑う…、いや、笑みの形だけを唇の端を上げて作った。
「本当にそうじゃないと思うの?」
アレンが言いたかった事を、逆に聞いてくる。
「皆それは違う、って言うでしょ?信じられる人はいる。みんながみんなそんな人ばかりじゃない、って。でも、本当にそうだと思うの?」
そう言いながらクレアはアレンを見る。
アレンは黙っている。
否定したいのだろう。
どこか、困ったような悲しそうな表情をしてクレアを見返していた。 |