39、習得
まだ昼時の街は賑やかな喧騒に包まれ、真っ白な大理石の町並みは、昼間の陽光に照らされ目に痛いほどだった。
そのためなのか心なしか色彩も明るく、豊かに思える。
「休まなくて平気?」
窓から外を眺めるジャンに、クレアはそう声をかけた。
「うん。ちょっと休めたしね。どう?」
ジャンはどう、としか聞かなかったが何を問い掛けたのかはクレアにも伝わった。
クレア自身もその事を話したかったため、意を汲む事はなおさら容易だった。
「分かった」
クレアはただ一言だけ、そう言った。
その表情と口調から嬉しそうな響きを感じジャンも笑みを零す。
だが、嬉しさよりも驚きの方が多かった。
たった数日で分かるようになるとは、ジャンも考えてはいなかった。
「早かったね?腕をあげたりも出来た?」
それに頷くクレアを見てジャンは早いね、ともう一度そう口にした。
やはり、司として選ばれただけあって力の強さだけでなく、それを扱う才能にも恵まれている、という事なのだろうか、と思いながら、クレアにやって見てと伝える。
クレアは目を閉じ雑念を心から締め出した。
昨日よりは簡単に力と自分とがどこかで繋がった。
繋がれば腕を上げるのに、その方法の選択肢が二つに増えただけのような感覚である。
その様子をジャンは静かに見守る。
その中でゆっくりとクレアの腕が床と平行になるまで持ち上がった。
クレアは少し安心したようにして目を開け、腕を下ろしてジャンを見た。
ジャンはそれを見返し、口を開く。
「こんなに早く出来るなんて、思わなかった」
そう言って笑顔を浮かべるジャンに、クレアもかすかに笑みを返す。
もちろんそれは本当に微かで、それと分かる者以外には笑みどころか、表情を変えた事すら判然としないものではあったが、幼い頃から知っているジャンにははっきりそれと分かるものであった。
「後は慣れだね。出来るだけ早く力を使えるように、体を動かすのと同じくらい自然に出来るくらいまで」
その言葉に頷くと、ジャンはそれから、と言葉を続ける。
「それから、ちょっとづつで良いけど、物を力だけで持ち上げる練習」
そう言って、ジャンは手の平をたまたま隣にあった椅子に向ける。
ジャンが腕を上げると、それに連れて椅子も床を離れ宙に浮く。
少しの間椅子は空中にとどまっていたが、ジャンが腕を下ろすとそれに連れてまた元の位置に降りた。
「こんな感じに何かを持ち上げるんだ。あ、別に腕とかはつけなくて良いけど、あった方がやり易いかな。何となく、力の動きを頭の中で、創造しやすいから」
クレアを見てジャンは小さく笑みを浮かべる。
「力の使い方なんて結局は本人にしか分からないし、言葉に出来る種類のものじゃないから、教えられるものじゃない。一番効率良く力が使えるようになるための練習法しか俺は教えられないよ」
そう言ってジャンは前にも言ったっけ、ともう一度笑う。
クレアは小さく溜め息をついて頷く。
「分かった。じゃあ、私部屋で練習するから」
そうジャンに言ってクレアは部屋に入っていった。
ジャンはそれを見送ると、もう一休みしようと部屋に向かった。 |