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月夜霊
作:小夜



37、誕生日


 †††††††††

 クレアが目を覚ますと、既に多くの人々が起き出し、活動を始めていた。
 朝食用のバターを塗ったパンが配られている。
 パンを配っている中の一人がこちらを向き、クレアが目を覚ましている事に気付き、こちらへと歩いてきた。
「おはようございます。どうぞ」
 昨夜と変わらない笑顔でエルシーは言い、パンを差し出す。
 クレアは黙ってそれを受け取った。
「おおい、エルシー。こっちにも二つくれ」
「はい。どうぞ」
 そう言いながら近づいて来た人物を振り返って、エルシーはパンを手渡す。
 笑顔でそれを受け取り、アレンはクレアの隣に腰を降ろす。
「おはよう」
 相変わらず笑みを浮かべたままのアレンにクレアは視線を投げ掛ける事もなく、パンを頬張った。
「うわっ、パンに負けるのかぁ…」
 独り言なのかクレアに向かって発した言葉なのか、アレンはそれでも可笑しそうにそう言う。
「お、ジャン。ほら、お前の分」
 後から歩いてきたジャンを振り返ってアレンは手にしていたパンを渡す。
「ありがとう。クレア、おはよう」
 そのパンを受け取りながらジャンはクレアにそう言う。
「おはよう…」
 クレアは挨拶を返しながら、ジャンの様子に首を傾げる。
「ジャン?ちゃんと休めた?まだ、疲れてる?」
 クレアがそう尋ねるとジャンは笑顔を向ける。
「ちょっとね。大した事ないから」
 そう言ってジャンもアレンの隣に座り、パンを口に運ぶ。
 その様子を見ていたアレンが口を挟む。
「こいつ徹夜なんだよ。夜に襲撃があって。それで疲れてんだ」
 言わなくても良いのに、とでも言いたげな視線を投げかけるジャンにアレンは顔をしかめる。
「別に言ったって変わらないだろ?」
 そう言ってアレンもまたパンを頬張った。


 その日何度目の溜息だろうか。
 隣で喋り続けるアレンにうんざりしながら心中で息を吐く。
 夜の襲撃でさすがに疲れたのだろう。
 ジャンは何かあったら起こしてくれ、と言って前を走る馬車に座り、うとうととしている。
 後少しでマーブルに到着する。
 それまでの我慢だ、と自分に言い聞かせる。
「…まれ?聞いてる?クレア〜、おーい」
 気がつくと、アレンは何かをクレアに尋ねたのだろう、何度も声をかけてくる。
 一度も朝から口を開いていないのに、めげずに喋り続けるのには驚いた。
 迷惑なだけだというのにクレアの態度などおかいまいなし、といった調子である。
「クレアー、いつー?」
 今までと違い、今回は諦めずに答えを聞こうとしてくるアレンに、さすがのクレアも根負けして視線だけアレンに向ける。
 それにアレンは満面の笑みで答える。
「誕生日、いつ?」
 たったそれだけの事を、これほどしつこく聞いてきていたのか、とクレアは呆れた視線を送る。
「いつ?」
 もう一度そう尋ねるアレンから、視線を外し、クレアは口を開いた。
「知らない」
「え、知らないのか?」
 半信半疑、と言った様子でアレンは問い返す。
 それに小さく頷く。
 知らないのは事実だった。
 母が死んだのが六歳の時。
 それまでは、本当にささやかにではあったが、母が祝ってくれたのをかすかに覚えている。
 六月生まれ、それ以外正確な日付までは覚えてはいなかった。
 昔は覚えていたが、生きる事に追われる生活の中で、忘れてしまっていた。
「全く…?」
 もう一度念を押してくるアレンに、仕方なく口を開く。
「六月。日付は知らない」
 出来るだけ短く言うと、再び黙り込む。
「六月ね。よし、分かった」
 何が嬉しいのか、一人嬉しそうに笑ってアレンは確認をとる。












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