35、哀悼
死者への思いと、ジャンの言う自分への哀れみは紙一重だ。
境界線などあってないようなものにも思える。
死者が自分と関わりを持っていたからこそ、その死を悼むのであり、その関わりの喪失をなげく時に、自分がそれを失った事を嘆くのか、その喪失そのものを嘆くのか、もしくは、死者の死そのものを嘆き、死者を懐かしむのか、死者が死によって自分から奪われた事を嘆くのか。
微妙な違いである。
ただ、どちらの場合も後者は失ったものを嘆きながら、それを失った自分自身に哀れみをかけている。
だが、何と言った所で人間は所詮自分大事だ。
死者を悼むのにある程度、自分への哀れみも入ってしまうものではないだろうか。
度を越せばそれは死者に対し失礼であるだろうが、自分に哀れみをかけてしまう事自体が悪い事なのかどうなのかはアレンには判断がつかなかった。
「そうか…」
そうとしか答えられなかった。
「うん。…天寿を全うした、ってそう思える事だけで幸せな事だから…」
「…?」
ジャンが最後に付け足した言葉が理解できずに、アレンはジャンを見たが、ジャンはそれ以上言おうとはしなかった。
「そんなに気にしなくて良いからさ」
最後にそう言って笑ってみせる。
アレンは、どう答えて良いのか分からずにとりあえず小さく頷いた。
「次の街ってマーブルだろ?大理石で有名な…」
急にそう切り出してきたジャンに、アレンは頷く。
「ああ。多分2、3日滞在すると思うから、いろいろ見ると良い。あの街は綺麗だぞ。他にも宝石とかもあそこに集まるな。マーブルには腕の良い細工師が多いから、そういった装飾品の類はマーブルに集まってきて、そこで加工されるんだ」
へー、とジャンは声を上げる。
「お、良い反応」
「…は?」
突然のアレンの言葉に思わずジャンは聞き返した。
「あ、いや、今日クレアにこの話しした時には固まられたから…」
そう苦笑しながら言うアレンを、ジャンは目を見開いて見る。
「クレアと…ずっと話してたの?」
「あ?まあ、俺が暇な時は…」
「会話成り立ったの?」
「そりゃ…ずっとじゃないけど、時々は…」
その返事に、本当に驚いたようにジャンは目を見開いている。
「嫌がられなかった?」
「あー…嫌そうにしてた時もあったかなぁ…」
そう言ったものの、クレアの表情はほとんど変わらない。
実際はどうだったのか…いや、表情が変わらない、という時点で迷惑だという気持ちの現れか。
どちらにしろ、話し掛けられる事を歓迎してはいないようだった。
少し考え込む様にするアレンから視線を外し、ジャンは夜空を仰ぎ見た。
空には無数の星が瞬きを繰り返し、太陽とは違う柔らかな光に包み込まれた世界は昼間のそれとは全く違った光景を見せていた。 |