33、見張り
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焚き火の周りには既にほとんど人影はなくなっていた。
先ほどよりも小さくなった火に照らされて、暗くなった周囲の様子が浮かび上がっていた。
街道のすぐ隣に出来た少し開けた場所。
おそらく、こうやって街から街へと移動する人々が、ここで野営をしていたのだろう。
周りはうっそうと茂る木々に囲まれていて見通しはほとんどきかなかった。
「アレン、見張りはどこ?」
まだ、火の側に座り込んでいたアレンにジャンはそう尋ねた。
「見張り?あそこと、それにあっちにも一人づつ」
そう言ってアレンは場所を指し示す。
「交代は夜中に一回」
そう付け加え、アレンはジャンの顔を覗き込む様にする。
「何かあんのか?」
「ここは見通しが利かないな、と思って…」
それにアレンも顔をしかめる。
「ああ、ここは良く襲われる。夜になると暗いし、木が邪魔で見えないしな」
「…今夜は俺も起きとくよ」
それにアレンは頷く。
「大丈夫か?疲れてないか?」
「…少しはね。でも、ちょっと嫌な予感がして…」
それにアレンは少し表情を厳しくする。
「何だ?使い手ってそういう力もあるのか?」
「いや、ただの勘。何となくだけど…」
ジャンは軽く苦笑しながらそう答えた。
何となく悪い予感がする、それだけだった。
信用のおけるようなものではないが、どうせ明日にはマーブルに着く。
今夜ぐらい徹夜した所で、明日は何とかなるだろう。
一日歩き通しで、盗賊達とやりあいはしたが、おそらく大丈夫だろう。
「よし、じゃあ、俺も付き合うよ。話し相手もなく夜通しはきついだろ?」
ジャンはそれに少し驚いたが笑って頷き、その申し出をありがたく受ける事にした。
ジャンとアレンは焚火から少し離れ、隊商が野営をしている開けた場所の一番端にあった倒木に、もたれかかるようにして座った。
薄い布を一枚かぶって夜の冷気から身を守る。
「なぁ、ここじゃあ、見張りの意味ないだろ?」
見張るべき方向は背後の暗闇。
見えるのは焚火の明かりに照らされた隊商の様子とその向こうに広がる木々が成す暗がりだけだった。
「良いんだ。別に目で見張ってる訳じゃないし」
そう言われ、アレンも昼間の事に思い当たった。
確かにジャンは目では分からないような時から、いつも先に盗賊に気付いていた。
「じゃあ、どうやってんだ?」
「…コールダーさんの許しをもらって、本当に使い手になる事に決まったら教えてやるよ」
「何だよ、別に今でも後でも変わんねーじゃん。使い手の魔法か何かか?」
「言っとくけど、使い手は魔術師じゃないよ。出来る事には限度があるし、ちゃんと理論だって説明も出来るものだ」
アレンの言葉を軽く訂正する。
実際の所、ジャンの見張りの方法は風を起こす方法と同じ種類のものだった。
自分の力を空気の中に混ぜ込む。
そうすると、空気の流れが分かるのだ。
半ば自分の体の延長線上のようなものだ。
空気に混ぜる力が多ければ多いほど、空気の流れがはっきりと分かり、それによって空気を動かしたものを把握する事が出来る。
人間と動物の違いは、慣れれば手に取るように分かる。
二足歩行と四足歩行では、空気の流れは決定的に違う。
動いている人間がいれば探し当てる事は容易だった。
だが、逆に言えば動かなければ分からない。
しかし、完全に空気の流れを起こさずにいる事は出来ない。
呼吸による空気の動きも、力を多く割けばわかる。
勿論、力そのものを、空気に混ぜる事なく使えば、それで表面をなぞるようにして、物の形も、どこに何があるかも、手にとるように分かる。
どちらにしろ、相手が何らかの行動を起こそうとすればすぐに分かるのだ。
ただ、問題点もある。
使い手の力量と、力の消耗だった。
力量に関しては人それぞれであるし、力の大きさも人によって差があるが、これは個人によって配分を考えてやれば、よっぽどの事がない限りそうそう力を使い切ってしまう事はない。 |