31、仲間
初めて成り立った会話らしい会話に安堵しながら、アレンは言葉を続ける。
「ああ。頼んだんだ、力の使い方を教えてくれ、って」
クレア、隣にいたんだけど、とアレンは苦笑して付け足す。
「…ジャンは何て?」
「駄目だって言ってたんだけど、親父が許したら教えてくれるってさ」
アレンは少し不満気にそう言う。
その不満気な様子に、ジャンの弁解をしようと、クレアは口を開いた。
「それは、きっと…」
そこで、少し言葉を切り、ジャンの言っていた言葉を思い出そうと記憶を探る。
「使い手になったら、街に住めなくなるかもしれないし、使い手の事をちゃんと理解していない人もいて、怖がる人も多いから…そうしたら、商いが難しくなるし…」
「ジャンもそう言ってた。偏見だって、俺の周りにも持ってる奴はいたから、どんなものかは分かってる」
「…じゃあ、何で使い手になりたいの?」
「強くなりたいから」
アレンの答えは簡潔だった。
ただ、一言そう言い、目には決意の色が浮かんでいる。
「何で?」
「俺は、親父の敷いた道を歩いて行きたくはないんだ。商いには興味もないし、才能もない。自分の腕で生きていきたいんだ。だから、護衛になって、それで生活をしていこうと思ってた。だから、少しでも強くなりたいんだ」
そう、とだけクレアは答える。
「でも、何で…使い手になったら街に住めない、と言うけど、それはクレアだって条件は一緒だろ?」
「私は…どの道あの街にいる事は出来なかった。お金も何もなくて、他の街に行った所で結局流れ者。大した仕事も貰えないだろうし、生き抜くためには必要な力だった。それに…」
「それに?」
何かを言いかけようとして言葉を切ったクレアに、先を促すようにアレンがそう言う。
「…何でもない」
それに、司に選ばれたのだから結局は、使い手となるはずだった。
司として街を護る訳ではないにしろ、使い手となるのは自然な流れのように思っていた。
しかし、そのような事をアレンに言える訳もない。
アレンは訝しげな表情をしてクレアの顔を見るが、クレアの顔にはどのような色も浮かんではおらず、その表情から何を考えているのか窺い知る事は出来なかった。
「…まぁ、後は親父だけだし、それは俺の問題だしな。とにかく、やっと話せて良かったよ」
それ以上、この話しをする事は諦めたように、アレンは笑顔でそう言った。
クレアは軽く肩をすくめる。
「そうだ、次の行き先知ってるか?」
突然そう聞いてくるアレンに、クレアは首を横に振る。
「次の街はマーブルって言ってな、名前の通り大理石の産地だから、街は綺麗だぞ。豊かだしな。後、近くに宝石の鉱山も多くて、それがマーブルに集まってくるから、装飾品も多い。マーブルの職人の腕はここらじゃ一番だから、着いたら、少し見て来ると良いぞ……そう言ったのに興味ないか?」
クレアが期待したような反応を見せなかったため、アレンは少し意外そうにする。
身を飾る装飾品、普通年頃の女の子なら興味を持つだろう。
「そういう訳じゃないけど」
興味がない訳ではないが、今までとの差がありすぎて、実感が湧かない。
装飾品など、自分が持っていてはいけない物、そのように感じてしまう。
「…まぁ、あの街は見ておくべきだな。あれは凄いから。着くのは明後日だな」
「アレン様、旦那様がお話しがあると、呼んでおられますよ」
使用人の一人であろう、女が隊商の前の方から、こちらへと歩いてきながら、アレンにそう伝える。
「親父が?分かった。すぐ行くよ」
そう言って、アレンは父親が乗っている馬車へ向かって軽く走って行った。
それを見送ってから、女はクレアへと視線を向ける。
「初めまして。エルシー・ピットと申します。使い手様のお連れの方とか…何か不都合がおありでしたら、遠慮なく私達におっしゃってくださいね。大抵前の馬車の辺りにおりますので。失礼ですが、お名前は?」
あくまでにこやかに、エルシーは話しかけてくる。
それにクレアは気後れを感じながらも口を開く。
「…クレア・シャノン」
「クレア様ですね。では、また食事時にでもお会いしましょうね。私は仕事がありますので、失礼いたします」
そう言ってエルシーは軽く会釈をすると、小走りに前方へと戻って行った。
それを見送りながら、クレアは軽く溜息をつく。
この隊商には、自分から話しかけた訳でもないのに、干渉してくる人が多い。
それが、居心地が悪かった。
人とは関わりたくない。
そう望んでもここでは叶いそうになかった。
アレンをはじめ次から次へと話しかけてくる。 |