月夜霊(32/74)縦書き表示RDF


月夜霊
作:小夜



31、仲間


 初めて成り立った会話らしい会話に安堵しながら、アレンは言葉を続ける。
「ああ。頼んだんだ、力の使い方を教えてくれ、って」
 クレア、隣にいたんだけど、とアレンは苦笑して付け足す。
「…ジャンは何て?」
「駄目だって言ってたんだけど、親父が許したら教えてくれるってさ」
 アレンは少し不満気にそう言う。
 その不満気な様子に、ジャンの弁解をしようと、クレアは口を開いた。
「それは、きっと…」
 そこで、少し言葉を切り、ジャンの言っていた言葉を思い出そうと記憶を探る。
「使い手になったら、街に住めなくなるかもしれないし、使い手の事をちゃんと理解していない人もいて、怖がる人も多いから…そうしたら、商いが難しくなるし…」
「ジャンもそう言ってた。偏見だって、俺の周りにも持ってる奴はいたから、どんなものかは分かってる」
「…じゃあ、何で使い手になりたいの?」
「強くなりたいから」
 アレンの答えは簡潔だった。
 ただ、一言そう言い、目には決意の色が浮かんでいる。
「何で?」
「俺は、親父の敷いた道を歩いて行きたくはないんだ。商いには興味もないし、才能もない。自分の腕で生きていきたいんだ。だから、護衛になって、それで生活をしていこうと思ってた。だから、少しでも強くなりたいんだ」
 そう、とだけクレアは答える。
「でも、何で…使い手になったら街に住めない、と言うけど、それはクレアだって条件は一緒だろ?」
「私は…どの道あの街にいる事は出来なかった。お金も何もなくて、他の街に行った所で結局流れ者。大した仕事も貰えないだろうし、生き抜くためには必要な力だった。それに…」
「それに?」
 何かを言いかけようとして言葉を切ったクレアに、先を促すようにアレンがそう言う。
「…何でもない」
 それに、司に選ばれたのだから結局は、使い手となるはずだった。
 司として街を護る訳ではないにしろ、使い手となるのは自然な流れのように思っていた。
 しかし、そのような事をアレンに言える訳もない。
 アレンは訝しげな表情をしてクレアの顔を見るが、クレアの顔にはどのような色も浮かんではおらず、その表情から何を考えているのか窺い知る事は出来なかった。 
「…まぁ、後は親父だけだし、それは俺の問題だしな。とにかく、やっと話せて良かったよ」
 それ以上、この話しをする事は諦めたように、アレンは笑顔でそう言った。
 クレアは軽く肩をすくめる。
「そうだ、次の行き先知ってるか?」
 突然そう聞いてくるアレンに、クレアは首を横に振る。
「次の街はマーブルって言ってな、名前の通り大理石の産地だから、街は綺麗だぞ。豊かだしな。後、近くに宝石の鉱山も多くて、それがマーブルに集まってくるから、装飾品も多い。マーブルの職人の腕はここらじゃ一番だから、着いたら、少し見て来ると良いぞ……そう言ったのに興味ないか?」
 クレアが期待したような反応を見せなかったため、アレンは少し意外そうにする。
 身を飾る装飾品、普通年頃の女の子なら興味を持つだろう。
「そういう訳じゃないけど」
 興味がない訳ではないが、今までとの差がありすぎて、実感が湧かない。
 装飾品など、自分が持っていてはいけない物、そのように感じてしまう。
「…まぁ、あの街は見ておくべきだな。あれは凄いから。着くのは明後日だな」
「アレン様、旦那様がお話しがあると、呼んでおられますよ」
 使用人の一人であろう、女が隊商の前の方から、こちらへと歩いてきながら、アレンにそう伝える。
「親父が?分かった。すぐ行くよ」
 そう言って、アレンは父親が乗っている馬車へ向かって軽く走って行った。
 それを見送ってから、女はクレアへと視線を向ける。
「初めまして。エルシー・ピットと申します。使い手様のお連れの方とか…何か不都合がおありでしたら、遠慮なく私達におっしゃってくださいね。大抵前の馬車の辺りにおりますので。失礼ですが、お名前は?」
 あくまでにこやかに、エルシーは話しかけてくる。
 それにクレアは気後れを感じながらも口を開く。
「…クレア・シャノン」
「クレア様ですね。では、また食事時にでもお会いしましょうね。私は仕事がありますので、失礼いたします」
 そう言ってエルシーは軽く会釈をすると、小走りに前方へと戻って行った。
 それを見送りながら、クレアは軽く溜息をつく。
 この隊商には、自分から話しかけた訳でもないのに、干渉してくる人が多い。
 それが、居心地が悪かった。
 人とは関わりたくない。
 そう望んでもここでは叶いそうになかった。
 アレンをはじめ次から次へと話しかけてくる。


初め、旅の仲間にしようとして、指輪物語の巻名と同じ事に気付き、止めました。
サブタイトル恐怖症にかかりそうです。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう