30、圧倒的な差
圧倒的な力の差、そうとしか表現出来ない状況だった。
盗賊の放った矢は途中で止まり、空中で静止したかと思うと地に落ちていた。
それを呆然と見ていたのは、盗賊達だけではなく、隊商の者達もそうであったが、先に動いたのは盗賊の方だった。
「おい!ボーッとすんじゃねー!行け!!」
その一喝で、盗賊達は我に返ったように武器を構え、隊商に向き直った。
しかし、今回も目的が果たされる事はなかった。
「な、何だ!?」
「うわ!」
「くそっ!!」
突然の出来事に為す術もなく、盗賊達は声を上げる。
手から武器が勝手に飛び出そうとするのに、抵抗して引きずられる者、武器と共に宙に浮く者、既に武器が手から離れてしまった者は、武器を追いかけたり、その様子を呆然と眺めている。
次の瞬間ボッ、と小さな音がして武器が火に包まれた。
武器を追いかけていた者は驚いて足を止め、武器にしがみついていた者は慌てて手を離し地面に落ちた。
「何だってんだよ…」
火は消え、地に落ちた原型をとどめていない武器を眺めて、盗賊の一人がそう呟いた。
それを合図にしたように、じりじりと盗賊達は後退を始める。
中々その場を離れようとはしない盗賊達に、先ほど放たれ地に落ちた矢が再び浮き上がり矢尻が盗賊達の方へと向く。
それを見て、盗賊の一人が叫び声を上げて森の中へと駆け込んでいった。
初めの一人が逃げ出すと、後に続いて他の者もその場から逃げ出していった。
それを確認し、ジャンは矢を再び地に落とした。
「…あっけないもんだな…」
地面に転がる矢や、武器の残骸を見てアレンはそう呟いた。
時間にして物の数分、一人の死傷者を出すこともなく、今までの旅を思うと拍子抜けするようなやり取りだった。
隊商の者達も気が抜けたようにその場に座り込んだり、武器を仕舞ったりしている。
逃げて行った盗賊達の姿は、うっそうと茂る木々に隠れて既に見えなくなっていた。
盗賊にしても、得体の知れない攻撃を受ければ、手傷は負わずとも逃げたくなるのも当然だろう。
隊商は少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと前に進みだしていた。
ジャンは隊商を仕切っているハーンに呼ばれ、何か前の方で話している。
襲われた時の対応を話し合っているのだろう。
「ジャンってやっぱ強いな…」
既に見えなくなった、先ほどの現場を確かめるように振り返ったクレアに、アレンはそう声かけた。
「うん」
クレアは小さくそう答える。
「商人連中が、こぞって使い手を護衛に欲しがる理由、良く分かったよ」
「本当に…」
そのアレンの言葉に答えたのは、クレアではなくフランツだった。
「こんなに簡単に終わるなんてなぁ。あ、俺盗賊が次に現れたら何も手を出すな、って他の奴らに伝えてくるんで」
そう言ってフランツはすぐにその場を離れ、護衛役の男達のもとへと向かった。
「何でクレアは使い手になろうと思ったんだ?」
「え?」
聞かれてクレアは返答につまった。
何故だろう。
使い手になろうと決心した訳ではなかった。
ただ、司に選ばれ街から逃げ出し、その中で当然の流れのように、ジャンから力の使い方を教えてもらおうと思った。
ジャンも、初めから教えるつもりだったようだった。
改めて何故と聞かれるとこれだ、と言う答えにはなかなか行き着かなかった。
「なんでって、流れで?」
「流れ?」
流石にこれまでの経緯を全て話す訳には行かずに、そう答える。
「それだけ?」
驚いたようにアレンはそう聞き返す。
「何だよ。ジャンの奴、俺が教えて欲しいって言ったら駄目だと言ったのに」
「え?頼んだの?本当に?」
アレンのその言葉にクレアは驚いて聞き返す。 |