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月夜霊
作:小夜



29、襲撃


「おい、君が今回旦那が雇った使い手さんだろ?」
 そう声をかけられたのは、ケイネの周囲に広がる農地を抜ける頃だった。
 声をかけてきたのは馬に乗り武装した男だった。
「そうですけど」
「あぁ、やっぱりそうか。昨日会ったんだが覚えてるかな…」
 そう言われ、改めて男を見る。
「あ、袋小路のとこに居た人達の一人ですか?」
「そうそう。まぁ、結構いたから、一人一人覚えてるはずはないよな…」
 男を見上げながらジャンはもう一度記憶を探るが、やはり、あの男達の中に居たという事しかわからなかった。
 男の名はフランツと言った。
 コールダー家の店の使用人だと言う。
「使い手さんが来てくれたおかげで、俺達は楽ができそうだ。来る時は大変だった」
「そう、ですか…」
「もう、ケイネの領域も抜けて森に入ったしそろそろ来るかもなぁ。使い手さんはケイネの人?」
 フランツの微妙に丁寧な言い回しに、ジャンは苦笑する。
 それを見てフランツは頭を書く。
「いや、俺は護衛専門の使用人だから学もねえし、口のきき方もなってなくてな…」
「いや、そうじゃないですよ。俺はジャンです。そんなに気を使わないでください」
 そう言うと、フランツは笑顔を見せる。
 ふと思ったよりも若いのかもしれない、とジャンは思った。
 体格が逞しく、どちらかと言うと厳つい印象を受けるフランツは年が大分上のように見えたが、笑うとまだ、二十歳前後の若者のような雰囲気を持っていた。
「そりゃ、俺としてもありがたいな。丁寧な言葉は、使い方がいまいちわからねえ」
 それに軽く笑って、ジャンはフランツの問いかけに答える。
「俺達はケイネの者じゃないです。もともと流れ者だし…」
 ああ、そうか、とフランツは答える。
「ん?そういや若が見当たらねえな。どこに行ったんだ?さっきまでここに居たよな?」
「ああ、コールダーさんのとこに行きましたよ」
 ジャンの答えにフランツは目を見張る。
「そりゃ珍しいな。仲が悪い訳じゃねえんだが、価値観のあわねえお二人だからな。まぁ、妙なとこで頑固ってのは似てるがな」
 それにジャンは苦笑する。
 確かに価値観は全くといって良いほどあわないだろう。
 興味の方向が違いすぎる。
「お、噂をすれば、だな」
 その言葉に前を走る馬車を見ると、ちょうどアレンが飛び降りた所だった。
「駄目だったみたいだね」
 そう声をかけると、アレンは渋い表情で頷く。
「でも、絶対説得してやるさ」
 それにジャンは溜息をつく。
 フランツによるとコールダーさんは頑固だと言う。
 それに折れて、アレンが諦める事にこした事はない。
「何を頼み込んでたんで?」
 フランツは二人の様子にそう尋ねる。
 何でもないとアレンは首を振り、その様子にフランツは肩を竦める。
「まぁ、あんまり旦那さんに無理なお願いはしないでくださいよ」
「ああ、分かってるさ」
 上の空、と言った様子でアレンはそう受け流す。
「…どうかしたのか?」
 急に顔を上げたジャンに、アレンはそう声をかける。
「盗賊だ。人数は…十二…いや、十三だな。まだ少し離れてるけど、こっちに向かって来てる」
 その言葉に、アレンとフランツは表情を引き締める。
「ジャン、俺達は何をしたら良い?」
「別に何もしなくて良いよ。俺で何とかするから」
 フランツの問いにジャンはそう答える。
「分かった」
 フランツは了解の意を示し、アレンは周囲を見回す。
 まだ特に不審な点はない、そう思いながら、もう一度視線を巡らせた時だった。
 木々の間で、何か金属のような物が光を反射して小さく光った。
 はっとして、そこに集中するも、やはり何も見えない。
 隊商の中にも気付いた者はまだいない。
「来るよ」
 前を見据えて歩いていたジャンが、小さくそう言った。
 その言葉にやっと、側を歩いていたクレアが周囲を見た。
 それに気付きアレンはクレアの隣へと移動した。
「盗賊だって」
 小さくそう声をかけ、クレアが一瞬アレンを見て頷いた瞬間だった。
 辺りから下草を掻き分ける音や足音が響き、武器を携えた男達が隊商を囲むようにして姿を現した。
 それにやっと、隊商の者達は盗賊の存在に気付き慌てて武器を取り、構えるが当然敵の方が早い。
「放て」
 そう号令がかかると、一斉に矢が放たれる。
 何かの影に隠れようとする者や、その場に頭を抱えてしゃがみ込む者達で、隊商は騒然とする。
 しかし、どこからも矢に当たった者の悲鳴は上がらない。
 不審に思い恐る恐る顔を上げた者達の目に映ったのは、やはり何が起きたのか分からずに怒声を上げる盗賊達の姿だった。












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