月夜霊(29/74)縦書き表示RDF


月夜霊
作:小夜



28、頼み


 孤児だ、とジャンは言っていた。
 クレアもおそらくそうなのだろう。
 だが、クレアの表情には、そう言った事だけでは片付けられない何かがあった。
「何なんだろうな…」
「何が?」
 返ってきた返答に驚いて、背後を見るとジャンが立っていた。
「あ、話し終わったのか?」
「うん…、で、何の話し?」
「いや、…何でもない。ただの独り言」
 ふーん、と少し首を傾げながら言うと、ジャンはクレアに視線を向ける。
「終わった?」
「うん。一通りね」
 ジャンはクレアの問いにそう答える。
 いつの間にか、クレアは農作業をしている親子から視線を外し、こちらを向いていた。
「で、どう?分かった?」
「分からない。でも、もしかしたら分かったかも…」
 ジャンの唐突な問いに、何とも聞かずにクレアは答える。
「何が分かったんだ?」
 アレンが横から口を挟むと、二人は顔を見合わせる。
「力の感覚」
 ジャンがそう答える。
「力?」
 使い手の力、とジャンは言い直すのを聞き、アレンはあ、と声を上げた。
「そうだ、ジャン、使い手って、普通じゃありえないような運動能力持ってんのか?」
「え?…あぁ、あの事か」
 自分の力をアレンが試した時の事に思い当たり、ジャンは簡単に説明する。
「じゃあ、つまり、力を扱えたら皆ああいう動きが出来る訳だ?」
「そういう事になるけど」
 確認をとるアレンに、ジャンは肯定の意を伝える。
「その力は、特別な人しか持ってないのか?」
「そんな事はないよ」
「じゃあ、俺もあんな動きが出来るようになるのか?」
 急き込んで聞くアレンを、ジャンは少しの間黙って見た。
「出来るよ」
「ほんとか?」
 喜色を浮かべるアレンを、少し困ったようにジャンは見る。
「でも、俺は力の使い方、アレンには教えないから」
「はぁ?何で!?」
 ジャンの言葉にアレンは一瞬固まる。
「使い手の力は守護使いの司と同種のもの。だから、使い手は司に良く思われない。たくさん集まれば足をすくわれかねないから。街で定住する事は、使い手と知れれば出来ないかもしれない。そうなれば、商いにも支障をきたすだろ。だから、止めた方が良い」
 ジャンの真剣な表情に、アレンも固い表情で聞いている。
「俺は、商人にはなりたくない。本気で、いろいろな所を放浪して、街から街を渡り歩く人達の護衛として生計を立てる事も考えてた。だから、使い手として、そうやって生きていく事も厭わない」
 アレンの目は真っ直ぐとジャンを捕らえ、真剣な光を湛えている。
「…アレンが真剣な事は分かったよ。でも、本当に良いのか?もっと良く考えなくても本当に良いのか?」
 アレンは少し顔をしかめ、ジャンを見る。
「俺は本当に真剣に良く考えたんだ。そりゃあ、俺はそれなりに裕福な家に生まれた。周りからすりゃあ、世間を知らないお坊ちゃんだろうさ。でもな、周りを見てればどんな苦労があるかくらい分かる。こうやって外に出れば、商隊に流れ者が安全を求めてくる事もあった。それなりに、街で生活している者よりは、そんな人の苦労も知ってる。知ってるのと体験するのとは違うだろうさ。でも、その事だって、ちゃんと考えたんだ」
 アレンはそう言ってジャンを見る。
「…コールダーさんは、何て言ってるの?了解をもらってる、訳はないよな。大事な一人息子だし」
「親父は何とか説得するさ。…そうすれば教えてくれるのか?」
 アレンは諦める事なく食い下がる。
「もし、もらえたらね…。でも、本当に使い手である事がその街の司に感づかれたら、そこに住む事は出来なくなる。後戻りは出来ないからな」
「分かってるさ。…親父は説得する」
 アレンの目に宿る強い決意を見て、ジャンはやっと頷いた。
「分かったよ…」
 それにアレンはやっと笑む。
 アレンは早速ウィリアムを説得するつもりなのか、三人の前を走る馬車へと向かう。
 それを見送って、ジャンは横にいるクレアに視線を向ける。
 クレアはアレンとジャンが話している間中我関せず、と言った様子で力の感覚を探る事に没頭していたようだった。
 邪魔をするのも悪いと思いジャンは声をかけずに、歩き続けた。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう