月夜霊(27/74)縦書き表示RDF


月夜霊
作:小夜



26、雇い主


 その後も、アレンは勢い良く喋り続けた。
 アレンの話しによると普段は店の主人は拠点の街から動かず、商いは自分が見込んだ使用人に任せているそうだった。
 しかし、大きな取引や、大事なお得意様など、特別な理由があると主人も動く。
 そうなると、扱う物も高価な分、襲われた時の損害も大きくなるため、しっかりと自衛団を作って行くという。
 それ以外の時には、店からも腕の立つ者を何人か連れていくが、商人仲間で隊を作って旅をする。
 貧しい商人達や、旅芸人達もこの隊に混ざり、なんとか旅をしていくという。
「うちは、それなりに大きい店だから、こうやって親父が動く時にも店の者だけで護衛は間に合うんだけど、さすがにこの当たりは数が多くて困ってたんだ。あぁ、ここだったな」
 そう言ってアレンは木彫りのお椀亭の看板を見上げる。
 店の中に入ると、昨日の部屋の前までジャンを連れて行く。
「親父、入るぞ」
 ノックをしながらそう言い、アレンは返事を待つ事もなくドアを開ける。
「アレンか。ご苦労だったな」
「おう。んで、こいつ合格。文句なし」
 男は呆れた顔でアレンを見る。
「お前は、全く…。口の聞き方と礼儀ぐらい何とかしないか」
 そう言って男はジャンに向き直る。
「誠に申し訳ない。本当にどうしようもないせがれで…」
「仕方ないだろ。親父の育て方が悪かったんだから」
 そう言って反論するアレンを、男は目で黙らせる。
「さてと、改めてだが、私はウィリアム・コールダーだ」
「ジャン・ジードです」
「さっそくなんだが、私達は明日この街を発つ予定だ。だが、今日の商談次第で延びる場合もあるので、滞在先を知りたい。連絡は息子のアレンがする。それと、前金の金貨二枚だ」
 そう言ってウィリアムは懐から金貨を取りだし、ジャンに手渡した。
「ジャン、そんじゃ、宿泊先まで安内してくれ」
「わかりました」
 そう言うジャンにアレンは顔をしかめる。
「おい、敬語なんか止めてくれ。息がつまる」
「え、でも…」
 一応間接的にとはいえ、アレンはジャンの雇い主である。
 そう反論しようとしたが、途中で遮られた。
「雇ったのは親父で俺じゃあない。それに年も変わらないのに、そんな言葉で話されたら堪らない」
「はぁ…じゃあ、止める」
 そんなものなのだろうか、と首を傾げつつもジャンは言葉遣いを改める。
「すまないね…こんなので…」
 そう言ってウィリアムは溜息をつく。
 そんな父親の様子を気にした風もなく、アレンは部屋の外へとジャンを連れ出した。
「ほら、さっさと行こうぜ。なぁ、ジャン、これから暇?」
「え、っと…」
 暇と言えば暇なのだが、クレアが部屋で待っている。
 確か服を買いに行こうと話した。
「何だ?何かあんのか?」
「え、いや、ちょっと服を買いに行こうと思ってたから」
「ああ、確かに酷いな…良し。んじゃ、俺が案内してやる。ケイネには時々来るから、少しは知ってるぞ」
「いや、連れが…」
 嬉々として街へと繰り出そうとするアレンを、ジャンは慌てて押し止めた。
「連れ?いたのか?じゃあ、そいつも連れて来いよ」
「えーっと…」
「何か不都合でもあんのか?」
「いや、不都合と言うか…」
 不都合はないが、クレアが今日初めて会う人と親しく話すなど考えられない事だ。
「ないなら良いだろ?」
 そう言うアレンの顔を見て、少し考える。
 護衛が始まれば顔を会わせる。
 それが、少し早まるだけだ。
 たいした違いはないだろう。
 結局そう思ってジャンは、部屋を教えるついでに、アレンを部屋へと案内して行った。
「ここが滞在先だから」
 そう言ってジャンは部屋を示す。
 同じ宿屋内なのだから、場所を教えるのも、大して面倒な事ではなかった。
「じゃあ、呼んで来るから、ちょっと待ってて」
 そう言い残して、ジャンは部屋の中へと入って行った。
 あまり、話さなくても悪気はないから気にしないで欲しい、と言っていたジャンの言葉を思いだしながらアレンは扉を見つめた。
「ごめん、アレン」
 そう言いながらジャンが扉を開けたのは、それから少したってからだった。
「え、女の子…?」
 ジャンの後に続いて出てきた人影を見て、アレンは何故か連れは男だと自分が思い込んでいた事に、始めて気がついた。
「クレアって言うんだ。クレア・シャノン。クレア、こっちはアレン・コールダー。護衛に雇ってくれた人の息子さんだよ」
「よろしく」
 そう言って軽く頭を下げるアレンに会釈を返すも、少女は微笑の一つも浮かべない。
 その様子に少し戸惑いを覚えながらも、アレンは宿の外へと二人を連れ出した。

 †††††††††

「さすが、商人の息子だけあるね」
 午前中だけで、服や靴、その他の必要な物の買い出しを全て終え、昼食を食べながらジャンがそう言った。
「別に。ちょっと顔見知りがいるだけさ」
 そう言ってアレンは肩を竦めるが、実際アレンのおかげで、大分安く買い物がすんだ。
「充分才能あるんじゃないの?」
 ジャンの言葉にアレンは露骨に顔をしかめた。
「やめろよな。冗談じゃない。性にあわねーんだよ」
「ジャン、私先に戻るね」
 会話を遮るようにして、突然そう言い席を立つクレアに、分かった、とジャンは慣れた様子で返事を返す。
 立ち去るクレアを何も言わずにフォークをくわえ、肘をついたままアレンは見ている。
「ほんっとに喋らねーんだな…」
 特に怒った風でもなく、アレンはそう言った。
「いつもと比べたらよっぽど喋ってたよ」
「な…そんなにか?」
「うん。だってアレンが何か聞いたりしたら一応答えてたし」
「…普段は無視?」
 ジャンが頷くのを見て、ヒュウッと口笛を吹いてアレンは椅子の背もたれにのけぞる。
「なぁ、二人は兄弟?…ではないか。名字が違ったな」
「うん。でも、家族みたいな感じだよ。ずっと一緒に生活してきたから」
「家族…ね。何でまた一緒に暮らしてたんだ?」
 アレンの問いに、ジャンは簡単に経緯を説明する。
 もともと流れ者で、それぞれの親に連れられてセレサに行った事、孤児になり、一人で生き抜くのは難しかった事、だから助け合いながら一緒に生活してきた事…。
「…どうやって使い手になったんだ?親がそうだったのか?」
「いや、力の使い方を教えてくれた人が、セレサに居たんだ。だから…」
 それを聞いてアレンは、そうか、とだけ答えた。
「…じゃあ、俺そろそろ行くな。親父や明日の事もあるしな。今日の夜か明日の朝に一度お前らんとこに行くから」
 アレンがそう告げたのはそれから少したった頃だった。
 アレンを見送った後ジャンも席を立ち、半分勘だったが、良い雇い主に恵まれた、とジャンは小さく笑みを浮かべて宿屋へと向かった。


本来は、ここでやっと二章が終了です。
と、言う事で一応次から三章。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう