23、仕事
「さあ、入ってくれ。適当に座ってくれて構わないから」
そう言って部屋の戸を閉め、男も椅子に腰掛けた。
「いや、さっきは悪かったね。まさか使い手だとは思いもしなかったものだから」
「いえ、お気になさらないでください」
「…確かに外では護衛を雇っていないと、商隊など一たまりもないんだが、この辺りは普通の規模の護衛じゃ乗り切れない程良く襲われる…」
そう言って男は溜息をついた。
「私はあまり良く知らないのだが、使い手が一人いたら他に護衛はもういらないのか?」
「そうですね。武器を持っただけの人なら、いくら襲ってきても大丈夫だと思います」
「それは頼もしい。うちとしても是非雇いたくはあるのだが…報酬はどの位が相場なのだろう?こちらとしても出来る限りは出すが…」
少し考えるようにしてから、ジャンは口を開いた。
「…相場とかは良く知らないのですが、道中の食事などを出してもらえれば、後はそんなにいらないです」
「食事は無論こちらで出すが…そうだな、金貨十枚でどうだろう?」
驚いて目を見張るジャンとクレアを、男は平然と見遣る。
「金貨十枚は護衛三人分の報酬だ。やはり少ないなら、もっと出すが…」
ジャンとクレアが驚いた理由を勘違いしたらしく、男はそう言った。
「いえ、それで十分です」
慌ててジャンがそう答えると、男も笑みを浮かべて頷いた。
金貨十枚と言えば普通の庶民が月に稼ぐ金額より多い。
おそらく、二・三倍にはなるだろう。
「私達の商隊は今日この街についたばかりでね、これから取引をして、三日後にはここを発つ予定なんだが、これほどこの辺りが危険だとは思わなくて、護衛の手配が間に合いそうになかったんだ。いやぁ、良かったよ。君達に会えて」
機嫌良く男は喋り続ける。
「さてと、そちらのお嬢さんも使い手かい?」
「えっと、まだ力の扱い方を修業中です。なので今はあまり力は使えません」
この問いには、クレアの代わりにジャンが答えた。
「そうか。では二人で金貨二十枚のつもりだったが、十枚で良いだろうか?」
「も、もちろんです。それで十分です」
「ただし、こう言っちゃなんだが、一度君の力を試させて欲しいんだ。自分の目できちんと確かめたいからね」
「構いませんよ」
それに男は満足気に頷く。
「では、明日頼むよ。明日の朝、下の食堂に居てけれたら良いから」
はい、とだけ答えジャンは立ち上がった。
「では、明日の事頼むね」
そう言いながら男も立ち上がりクレアとジャンを部屋から送り出した。
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「一発目に当たりで良かったな。これで他を探さなくても平気そうだし」
部屋に戻るとジャンはそう言った。
「うん。護衛ってすごく報酬の高い仕事なんだね。金貨なんて見た事ない…」
「ああ、まぁ、考えてみれば普通の護衛なら命懸けなんだから、割が悪いくらいなのかもな」
「そっか…。明日って私も行った方が良いの?必要ないと思うけど…」
「どっちでも良いと思うよ。どうする?」
「…じゃあ、部屋で待ってる」
それにジャンは頷く。
「ああ、分かった。じゃあ、明日もいろいろあるし、もう寝るか」
「うん」
いつの間にか夜も更けていた。
商人の部屋で思っていたよりもかなり長いこと過ごしていたようだった。
寝る準備をし、ベッドに潜り込むと急に疲れが襲われ、そのまま目を閉じるとクレアはすぐに深い眠りに落ちていった。 |