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月夜霊
作:小夜



21、木彫りのお椀亭


「おお、ほら、もう城門だ」
 ウィルのその言葉に、行く手に身体を向けると、見上げる程高い城壁がそびえ立っていた。
 城門も装飾が施されており、セレサの質素な城門とは、全く違った物だった。
 それを見上げて驚いていた二人だったが城門をくぐると、現れた街並にさらに驚き口を空けたまま辺りを見回した。
「どうだい?セレサは、まぁ豊かだが小さい街だからな。ケイネは大分違うだろ?」
「はい…こんなに人がいて、大きな街だとは思わなかったです…」
「俺はセレサには行った事はないが、街道から外れているし、豊かだが、小さく、華やかな感じはあまりないと聞いたが…」
「はい。城門に装飾をつけたりなんて、誰も考えませんよ」
「城門は、外から来た人間が初めて目にする所だから、余裕のある街ならどこでも派手だぞ。城門の豪華さである程度街の格が決まるからな」
「へぇー…」
 物珍し気に行き交う人々や露店、家を見回しているクレアを見てウィルが話し掛けてきた。
「嬢ちゃん、どうだい?華やかだろう?」
 それに黙って頷くクレアを見て、ウィルは苦笑する。
「何だい、まだだんまりか?ちょっと表情が柔らかくなったから、話してくれるかと思ったんだがなぁ…」
 そうぶつぶつと呟くウィルを気にする風もなく、クレアは通りを眺めていた。
 通りの両端には、何店もの露店は折り重なるように立ち並び、店からは客寄せの声が響いていた。
 通りを行き交う人々も華やかに着飾り、露店を物色している。
 道路も綺麗に石で舗装されている。
「それで、お前さん達どうするんだ?うちの所に泊まるってんならこのまま乗せてってやるが…。ああ、夕食と朝食は別で、一泊一部屋で銅貨五枚で良いぞ」
 一泊銅貨五枚なら、ジャンたちにも出せない事はない。
 宿屋としては破格の値段、相当負けてくれたのだろう。
「…じゃあ、一泊お願いします」
 そう言ってジャンは軽く頭を下げた。
「よし、じゃあこのまま行くぞ」
 そう言って、ウィルは雑踏の中へと荷車を進めていった。
 荷車を走らせて少したった頃、ウィルは行く手を指差し口を開いた。
「ほら、あれがうちの宿屋だ」
「“木彫りのお椀亭”…」
 ウィルが指差した先にあった看板に書いてあった文字を、ジャンは読み上げた。
「ああ、うちは何代か前には木からお椀やら何やらを作って商売をしてたからな。坊主、字読めたのか?孤児だと言うから、てっきり読めないものだと…」
「はい、教えてもらいました」
 普通、文字が読めるのはそれなりの生活をしている者だけだ。
 貧しい者は、ほとんどが読めない。
 さらに孤児で字が読める者はいないに等しい。
 ジャンが字を読める事は、クレアも少し不思議だったが、今にして思えばウルに教えてもらったのだろう。
「そうか…。ああ、裏にこれを置いてくるから、ここで少し待っててくれ」
 二人が荷車から降りるのを確認すると、ウィルは店の横にある戸を開け、裏手に馬を引いていった。
「…信用して良いの?」
 クレアはウィルが行った事を確認すると、ジャンにそう聞いた。
「さぁ…でも、今の所平気そうだし。何かあった所でたいした事ないさ」
「うん」
 確かに、使い手相手に何か出来る人間がいるはずもない。
 ウィルが戻って来た事に気付き、ジャンが後ろを振り向いた。
「待たせて悪かったな」
 戸を開けながらそう言うウィルに、ジャンは笑顔で首を横に振る。
「いえ、こちらこそ、いろいろと親切にしていただいて…」
「坊主、お前しっかりしてるなぁ…」
 そう言いながらウィルは店の扉を開け、さらに何かを言いかけようとした時だった。
「あんた、お帰り!おやまぁ、お客さんかい?いらっしゃい」
「あぁ、二名様ご宿泊だ。案内してやってくれ」
「あいよ。さぁ、お二人さんこっちへどうぞ」
 そう言って肉付きのよい、女性が二人を手招きする。
「家内のジルだ」
 おかみさんと二人の後をついて行きながら、ウィルはそう言って紹介する。
「ジル、二人は帰る途中に拾ってね。セレサから来たそうだ」
「おやまぁ、セレサから。そりゃ大変だったねー、あぁ、この部屋を使ってくださいな。さ、どうぞ」
 二人を部屋に通すと、ウィルはドアを閉め、向き直る。
「それでな、ジル…」
「それで、いくらに負けとくって言ったんだい?」
 少し言い辛そうに口を開いたウィルに、お上さんは慣れた調子で、半ば呆れたようにして聞いた。
「メシ代抜きで、一部屋一泊銅貨五枚」
「そうかい、お二人さん、悪いんだけど、今払ってくれるかい?こういうのは他のお客さんの目につくと、何かと面倒だから」
 唖然として、二人のやり取りを見守っていたクレアとジャンだったが、突然話しを振られ、慌てて銅貨を取り出し、数えるとジルに手渡した。
「はいよ。確かに頂戴したよ。あぁ、蝋燭はそこにあるから暗くなったら勝手に使っとくれ。火は階段とこにある燭台から勝手に貰ってくれて良いから」
「はい。ありがとうございます」
 ジャンは軽く頭を下げて礼を言った。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ。何かあったら私らは下に居るから。」
「いろいろとすみません…」
 ジャンの言葉にジルは笑って手を振る。
「あんた達が気にするこたないよ。この人は時々こうやってたまたま会った人を連れ込んで来るからね。慣れたもんだよ」
 そう言って二人は部屋を出ていった。
 急に静かになった部屋を改めて見ると、掃除の行き届いた小綺麗な部屋だった。
「晩御飯どうする?」
「どうしよっか…でも泊まっといて外で食べるのもね…」
「そうだよね。大分安くしてもらってるみたいだし。お金は…何とかなるかな。そうだ、これからの事なんだけど…」
 ジャンはそう話しを切り出した。
「うん?」
「商人達の護衛をやろうと思うんだ。使い手なら、きっと子供でも雇ってくれるだろうし、お金を稼ぎながら移動も出来るし…ほら、最近物騒だって商人達がぼやいてたっておじさんが言ってただろ?」
「うん…いいんじゃない?いくら追っ手が来てなくてもセレサの近くに長い事いるのは嫌だし…」
 クレアが同意したのに、少しほっとしたような表情を浮かべてから、ジャンは笑顔になった。
「良かった。じゃあ、まずはどうやって雇ってもらうかだよなぁ…取りあえず明日は商人がいそうな所を探して当たってみるか…」












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