20、荷馬車
「嬢ちゃんとそっちの坊主は外から来たのか?」
「はい」
男の質問には、ジャンが答えた。
「そうか…二人だけで?お父さんやお母さんは?兄弟なのかい?」
「親は死にました。俺達は兄弟じゃなくて、幼なじみみたいな感じです」
「それは、大変だったね。そっちから来たって事はセレサから?」
「そうです」
「セレサは司様が亡くなられたって聞いたが…次は選ばれなかったのかい?」
「…そういう訳じゃないです。そういえば、ここまで来る途中たくさん、山賊とかが居て…」
ジャンはどう答えようか少し迷ったように言葉を詰まらせたが、すぐに当たり障りのない答え方をして、すぐに話しをそらした。
「ああ、セレサの司様が亡くなられたってのを聞いて最近集まってきてたからなぁ。物騒だと商人達がぼやいていたな。お前達、良く無事だったな」
「何にも持ってない子供ですし、盗られるような持ち物なんて、本当に何一つ持ってないから」
実際、一番始めに襲ってきた男達の後にも何組かに襲われたが、子供で何も持っていないのを見ると何もせずに手を引く者がほとんどだったため、正確に真実を言っている訳ではないにしろ嘘ではなかった。
「そりゃ幸運だったな。何で坊主達はセレサを出て来たんだい?物騒なのに…」
「もともと親が外から来たから、外の世界も見てみたくて…それで良い機会かな、って」
ジャンは詰まる事もなく、すらすらと言葉を紡いでいく。
「そんなものなのかい?いや、こう言っちゃ悪いが、外に憧れる奴は結構いるが、実際に行動に移す奴はもっとどうしようもない理由がある奴だけのように思ってたんだが…」
後半は半ば独り言のように言い頭を振る。
「俺達は孤児だから、街は街で大変だったから…」
軽く付け足すジャンに男はそうか、と頷き再び口を開いた。
「それで、これからどうするんだ?」
「さぁ。何か仕事でも見つけられたら…」
「そうだろうな…。それにしても嬢ちゃんは大人しいな。しゃべれない訳じゃないんだろう?」
今まで一言も発しないで、ジャンと男の会話を聞いていたクレアに、男は突然話しをふってきた。
クレアは硬い表情のまま頷き、しゃべれる、と伝えた。
男の方は冗談で言ったのだろうが、クレアのその様子を見てまた笑った。
「ハッハッ、嬢ちゃんは本当に無口だな。まぁ、喋りたくないんならそれはそれで良いがな」
「おじさん、さっき商人達が物騒だってぼやいてたって言ったよね?」
「ん?ああ、言ったがどうかしたか?」
「ううん。何でもない」
そう言って首を横に振るジャンを、男は少し不思議そうに見た。
「…そういえば、お前達いくつだ?おお、それに名前も聞いてなかったな。俺はウィル・テイラーだ」
「俺もクレアも14歳です。俺はジャン、こっちはクレアです」
「そうか、14、か…」
少し言葉を濁すが、ウィルはすぐにまた喋り出した。
「そうだ、お前さん達、宿は決まってないんだろ?うちは街で宿屋をやってるんだが、泊まってったらどうだ?ここで会ったのも何かの縁だ、負けとくよ」
ニヤッっと笑って、ウィルはそう言う。
「宿屋さんだったんですか…」
ジャンの言葉にウィルはまた笑う。
よっぽどの笑い上戸なのだろう。
「いやいや、坊主、俺は別に客が欲しくてお前さん達に声をかけたんじゃないぞ」
「はぁ…」
少し間の抜けた返事を返すジャンを再び笑ってウィルはその後も他愛ない会話を続ける。
相変わらず、しょっちゅう豪快に笑うウィルは、言われてみればいかにも宿屋の親父と言った風貌であった。
世間話は尽きる事なく、ジャンは軽く相槌を打つだけ、クレアに至っては一言も喋らないが、気にする風もなくウィルは話し続ける。 |