12、過去1
「…話さないといけない事は、本当にいっぱいあるんだ…」
ジャンはそう話しを切り出した。
「ウルが守護使いの司に選ばれてから一年後位…今から六年前にウルからの使いが来た。そいつは、俺にウルと会って欲しいと言ってきた。しかも俺がクレアと生活している事もしっていて、クレアには内緒にしてくれと言う。ウルなんて街のお偉いさんだし、孤児に興味なんか普通ないだろ?なのにクレアの事も知ってるし、俺は警戒して、追い返そうかとも思ったんだけど、人が人だから下手な事する訳にもいかないし、とりあえずついて行く事にした。ウルは俺が館に着くとすぐに出て来た…」
ウルは出てくるなり、すぐにジャンを小さな…とは言っても普通の家の居間よりは十分広い部屋にジャンを通した。
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「悪かったね、急に呼び出したりして」
ウルは、意志は強そうだが、どこか柔和な顔立ちをした老人だった。
何も答えないジャンに笑いかけ、椅子に座るように促すと、自分も向かい側にある椅子に腰掛ける。
「…何で俺のとこに使いなんか出した?」
口のきき方を知らない訳ではなかったが、ジャンとてセレサを、ひいては街の司たるウルを好いているわけもなく、礼儀をわきまえて話すような気分にはなればかったのだ。
そんなジャンの様子に表情一つ変えずに、ウルは相変わらず笑っていた。
「そう、本題なんだが…」
ウルはそう言って表情を引き締め、ジャンを見た。
「君はクレア…クレア・シャノンと暮らしている、と聞いたんだが、良く知った仲なのかい?」
「…そうだったら何かあんのか?」
ジャンの様子にウルは何が可笑しいのか軽く微笑む。
「大丈夫だよ。君にも君の友達にも危害を加えるような事はないから」
そう言って、ウルは使用人に持って来させたお茶とお茶菓子を進める。
ジャンはお茶には手をつけたが、菓子には手を伸ばそうとはしなかった。
しかし、そこはまだ八歳の子供。
普段十分に食べる事も出来ないような孤児の生活では、手を出す事など出来るはずもない手の込んだ菓子を前にして、落ち着かな気にそわそわと体を動かす。
その様子にウルは再度菓子を勧めた。
「いい。クレアは食べれないから…」
そうか、とウルは呟き使用人に菓子を下げさせた。
それにやっとほっとした様子をジャンは見せた。
「…仲が、良いんだね」
そう言ってウルは、ジャンを見る。
それにジャンは無言でうなずく。
「君はセレサは嫌いか?」
「…嫌い」
ウルの問いに、少し戸惑ったように言葉を詰まらせたが、ジャンは正直にそう答えた。
「そう…だろうね…」
相変わらず柔和な表情を崩さずに、ウルはそう言う。
その様子にジャンは自然と警戒が解けていった。
この人には何を話しても大丈夫だ、と思わせる何かがあった。
「クレアの方は?」
「クレアは…」
ジャンは言葉を濁し目を伏せる。
「…憎んでいるだろうね…」
ウルの言葉にジャンは頷く。
「すごく、憎んでる…」
「君は、それが嫌なのかい?」
「…クレアが憎むのは当然だと思うよ。でも…それが悲しいから…」
そこでジャンは言葉をとぎらせる。
クレアは、悲しみや、憎しみ、怒り、といった様々な思いに押し潰されてしまいそうにジャンには見えた。
今にも壊れてしまいそうな程の絶望や、悲しみの中で憎しみや、怒りが壊れる事をも許さないで、クレアを縛る。
しかし、怒りや憎しみは、耐え難い程の重圧もクレアに与えている。
まだはっきりとその様な事を意識して考えていた訳ではなかった。
しかし、クレアがそれ程何かを憎まなければならない事が悲しかった。
「悲しい…か…」
ウルはそう言い、何かを考えるかのようにする。
「よし、決めたよ」
突然のウルの発言についていけずにジャンは、瞬きをする。
その様子をウルは、また笑って見た。
―…次の守護使いの司はクレア・シャノンになる、ウルのその発言にさらに状況がつかめなくなり、ジャンは困惑してウルを見る。
「いや、絶対ではない。だが、ほぼ間違いないだろうな…」
「どうして…だってクレアは…」
ジャンの言葉を遮り、ウルは話しを続けた。
「私は、もう年だ。そんなに長くは生きていられないだろう。そうなると、次の司が必要になる。その時神器はクレア・シャノンを選ぶだろう」
そう言って、ウルは首からさげている神器に手をやる。
「使い手は知っているだろう?」
「…不思議な力を使う…」
そうだ、と満足そうにウルは言った。 |