9、真実の手前
「いや、何でもない。こんな時に考えるような事じゃなかった…ただ、俺達は何をしたのか、と…」
「?何の話しだ?」
「ほら、あいつ、ジャンだったか?そいつが言ってただろ“自業自得だ”って」
「ああ、…確かにこの街では良い目は見なかっただろうな。…俺達は流れ者や孤児に良い顔はしなかったし…」
だが、それは死ななければならない程の事なのだろうか。
加害者側が決める事ではない、とはカイとて分かってはいる。
しかし、街の住人全員の命をもってして償わねばならない程の事なのか、と思ってしまうのもまた当然の事であろう。
「いや、それだけじゃない…」
エーミルの言葉にカイは顔を上げる。
「勘、だけどな。あいつ、ジャンの表情」
そこで言葉を切るエーミルをカイは先を促がすように見る。
「いや、悲しそう、だったんだ」
「そうだったか?」
むしろ、憎んでいるような、怒っているような表情の印象しかなかったカイは首をかしげる。
「司様が感情を露わにされてから、何と言うか悲しそうだったんだ。普通共通の物を憎む同士だと同調しないか?」
思い返すと確かにそうだったかもしれない、とカイは思った。
少女の方ばかり見ていたが、少年は、始めこそいきり立っていたが、少女が感情を出し始めてからは静かだった。
「それがどうしたんだ?」
エーミルの言わんとする所を測りかねて、カイはまた問い返した。
「確かにあいつもこの街で良い目は見なかっただろうし、好いてはいなかっただろうな。でも、司様にはもっと何かある、そう思う。あいつは、その原因を知ってるんじゃないか?それで、その事を怒りもするし、司様の気持ちも理解してる。でも、司様がそんな感情を抱かざるをえない事が悲しいんじゃないだろうか…」
半ば独り言のように、考えを整理するように、エーミルは語る。
同じく考え込みだしたカイを見て、エーミルは自身の思考から抜け出し軽く息を吐く。
「まぁ、俺の勝手な推測だ。憶測でしかない。変な事言って悪かった」
そう言いながらカイを見ると、カイはまだ眉根を寄せて考え込んでいる。
その様子に軽く肩を竦め、エーミルはカイを放っておく事に決めたのか、カイから目を離し前を見据えた。
「…エーミル」
その声にエーミルは振り返るとカイは何かを思い出そうとするかのようにまだ眉を寄せている。
「…何年か前、八年前、か?ほら、…“Bloody Day(血塗られた一日)”」
カイの言葉に、エーミルもまた眉をひそめる。
既にカイの顔は青ざめ目は血走っている。
“Bloody Day”、その可能性にエーミルも顔が青ざめるのを感じた。
「…あの女に子供はいたか?」
エーミルのその問いに、カイは首を振る。
「分からない。でも、年齢的にはいてもおかしくないと思う…」
「司様が、あの女の子供…」
「ああ……あくまでも可能性にすぎはしないが、もし…もし、あれを目の当たりにしていたなら…」
カイは言葉を濁し、顔を俯ける。
二人共足を止め、行く手に広がる漆黒の暗闇をみつめる。
「…それが…本当なら、俺達に司様を連れ戻す事など…そんな事、できる訳がない…」
エーミルの言葉にカイは何も答えず、再び歩き出した。
エーミルもまたそれに続きゆっくりと歩き始めた。
街はさらに静けさを際立たせ、月も黒い雲に隠れ、まるで街の行く末を暗示するかのように闇は深くなっていった―……。 |