第三章「独りの騎士・孤独の姫」・2
結局、梓の記憶を消さなかった。
正しくは彼女から言い出した。
別段気にした様子もなかったのだが、それは表面上だけで、心のどこかでは先日のできごとが残っているはずなのだ。
それでも彼女はいいと言った。
普通ならあの惨殺と呼べる死体を見た時点で気が狂いそうになっても仕方のないはずなのに、彼女は普段通りであった。そこで改めて彼女の強さを感じたりもした。例えそれが上辺だけの無理をしている結果だとしても。
それにシェイドの件で真咲との信頼は深まった、気がする。
正直、怒鳴り散らしただけだったのだが、どうやら彼女なりに解釈して、納得してくれたらしい。これで少しは彼女の言う契約者らしくなっただろうか?
あと、今日は寮から電気代の請求があった。
なぜかうちの寮は電気・ガス・水道は自腹なのだ。ほとんど寮じゃないという生徒が多い。まぁ、べつに大してかかるというわけでもないのだが。バイトも許可制で認めているわけなので。ある意味社会の厳しさというものを教えてくれる。
それと、まだ肉が食えない。
よく考えたらあれほどの死体(ほとんど原型がなかったが)を見たのだから、あの時点で吐いていてもおかしくなかった。なんで俺は平然としていられたのだろう。思い出しただけでも気持ち悪くなるというのに。梓も同じはずなんだが。
ま、そんなわけであれからだいぶ時間が経っていた。
真咲はすっかりクラスに馴染み――馴染むどころかアイドル的存在で、速攻でファンクラブが結成されたらしい――先日のことが嘘のようだ。
前に、真咲の転校初日以来、警察から彼女を逮捕しに来ることはなく、平穏そのものだった。
でも、期限が迫っていることは確かだ。 |