86話 漆黒の騎士っぽい
更新速度上げたい…
今回は後書きで色々とお伝えしたいことが!
「ベルクさん! ベルクさん!」
勇志が倒れているベルクを何度も呼びかけるが、起き上がる気配は全くない。
恐る恐るステータスを覗き、状態を確認した。
そして、同時に後悔をする。
「勇志……これって……」
「澪も……か」
――――解析不可。
ベルクの状態どころか、何一つステータスを確認することができないのだ。
「一体何があったんだ……!」
勇志は思考だけは冷静を保ちながら、ほんの少し前の異変を思い返した。
*
「いよいよ……だね」
昼食中、鈴がボソリと呟いた。
たったこれだけの言葉だが、しっかり意味は通じている。
「でも、参加者って勇志だけで良かったの?」
「この中で最も強いのは勇志だ。特化型の俺たちと違い、バランス型の勇志の方が何かと対応できる」
鈴の問いに大地が答え、そのまま話を続けた。
「出場停止のベルクさんより強いお前なら、優勝はまず確実だろうしな」
「……」
「どうした?」
「あ、いや……。すまない」
勇志は力なく微笑み、話に加わった。
「確かにベルクさんにお墨付きはもらったけど……目的は優勝じゃないしね。出場者の中に暗黒騎士がいないか確認することが目的だよ」
「でも、やるからには優勝しなさいよね」
大地の言葉には少しだけ語弊がある。
「私、人間最強ってどんなものか興味あるから」
そう……この中で最も強いのは勇志ではない、ファイだ。
「だったら自分で出たらいいんじゃないか?」
「言っとくけど私、その辺の竜や上級魔族より強いわよ?」
人間同士の戦いに精霊であるファイが加入してしまっては、話にならない。
勇志もわかっていることなので、冗談交じりの返答に少しだけ微笑んでしまう。
だが、その微笑みも直ぐに消え、雰囲気がガラリと変わった。
「ファイ」
「わかってるわよ。暗黒騎士が来たら私も加わるつもり。多分、魔王クラスだし」
その雰囲気から察したのか、先ほどとは打って変わり冗談の気配など一切感じさせない重い声で返ってくる。
そんな雰囲気が続くと思ったそのとき――――。
『――――――桁外れな力を持っていてもな!』
「ベルク……さん?」
先程から席を外しているベルクの怒鳴り声が、全員の耳に届いた。
『じゃあなんでだ!? なんで悪魔に魂を売る真似なんてしたんだ!? まだ人間の心は残っているんだろ!?』
今度ははっきりと聞こえる。
明らかに普通じゃないことが誰にでもわかった。
「悪魔? 魂? 人間の心?」
「どういうことなんでしょう?」
澪とヴェレスは揃って首をかしげた。
「とりあえず行ってくるよ。大人数で行くのもあれだし、僕が見てくる」
勇志は焦りを隠すように早々と立ち去った。
嫌な予感が当たらないよう、心の底から願って。
しかし、その願いは叶うことはなかった。
*
「息はしている……だけど」
鈴は力一杯歯を食いしばり、苦しげに言う。
「息遣いも体温も瀕死の状態に限りなく近いわ。魔力の自然放出なんて全くないと言っていいわね」
「それって……」
「ええ。いつ死んでもおかしくないわ」
息が詰まるとはこういうことだろう。
重々しい空気が勇者たちを包み込んだ。
「……? 勇志?」
この空気の中で言葉を発したのは鈴だが、注目を浴びたのは勇志だ。
ベルクを抱き抱え、この場を立ち去ろうとしたのだ。
「どこへ行くのですか?」
「ベルクさんの部屋で寝かしてくる。別にいいよね?」
「え、ええ。問題ありませんが……」
ヴェレスの質問に振り向きもせずに答え、一人で行ってしまった。
残された勇者たちはその場に立ち尽くすことしかできなかった。
………
……
…
結局、ベルクの意識が戻らないまま武道大会当日を迎えた。
澪と鈴は特等席から会場を見下ろし、少しだけはしゃいでいた。
そして、澪がふとベルクの話題を口にする。
「ベルクさん、目を醒まさなかったね」
「ていうか、まだ生きていること自体すごいんだけどね」
ベルクの意識がなくなってからかなりの日数が経つが、一向に息を引き取る気配がない。
そのせいか、勇者たちもだいぶ余裕が出来てきた。
「やっぱり、ベルクさんをあんな状態にしたのって……」
「十中八九、暗黒騎士の仕業でしょうね」
鈴がこう推測するのにはいくつかの理由がある。
「時期が時期だし、声が聞こえたときに戦闘を開始したとしても、あの人を短時間で無力化できる相手なんて早々いないしね」
「確かに、ベルクさんに一体一で勝てる人なんて……勇志しかいないし……」
「あのエルフを短時間で無力化できるのは、上位精霊か魔王ぐらいでしょうね」
気が付けば、ファイが二人の背後に立っていた。
勢いで振り返る二人だが、それを無視して話を続ける。
「つまり、暗黒騎士は魔王かそれ以上の力を持っている。あのエルフ抜きで勝てるかしら?」
ファイは小悪魔っぽい笑みで二人に質問をする。
「……正直、負けるなら負けるでいいかもしれない」
「「え?」」
意外な返答に、二人は目を見開く。
「だって……もう、いないから」
「……」
「……?」
この一言で、鈴は全てを理解した。
ファイはそうでもないようだが。
「えっと……それは前言っていた人間のこと?」
「うん。小鳥遊強斎。私の……大好きな人」
「その人間がいないから死んでもいいって言うの?」
「まぁ、そうかな」
ファイは時々わからなくなる。
澪は誰よりも人の命を大切に扱う人間だが、自分の命は大切にしようと思っていないように見える。
「……わからない」
そんな感情を理解するのに苦しむファイを戻したのは、武道大会開始の合図だった。
「あ、そろそろ始まるね」
同じような状態だった澪も、会場を見下ろして進行の流れ具合を眺めている。
「へー……。裏で予選試合なんてあったんだ」
「そりゃそうでしょ」
そして、その予選試合で勝ち抜いた選手が次々に入場してくる。
巨人から人型でないものまで、様々な選手が入場してくる。
勿論、勇志もその中に含まれていた。
そして、最後の一人が入場した時――――。
「うそ……でしょ……?」
鈴は声に出して驚愕した。
三人は最後に出てきた選手を凝視する。
明らかに雰囲気の違う漆黒の騎士を。
*
「ふぅ……」
勇志は倒れている選手を一瞥してから、大きめの息を吐いた。
予選試合のルールは簡単。
グループごとに固まり、同時に闘う。
最後に立っていた選手が予選突破だ。
開始三十秒で二十人を超える選手を圧倒した勇志は、とあるグループの悲惨な結果を見ていた。
僅か十秒。
勇志よりも早く選手たちを葬っていた。
「暗黒騎士……」
ボソリと呟く。
そう、勇志より早く予選を突破した選手は顔まで鎧で隠されている漆黒の騎士だった。
(超解析を使ってもやっぱり無駄だね……明らかな偽造だ)
そして、漆黒の騎士はその場を立ち去っていく。
1位と2位が本選で戦う事になるのは決勝戦しかない。
(必ず、確かめる)
他の試合を見ることもなく、勇志も立ち去った。
漆黒の騎士の正体はいったい……?
次回もお楽しみに!
さて、知っている方も多いと思いますが、なろうコンで最終選考通りました。
その時、タイトル間違えられましたねはい
巻き込まれて異世界『転生』する奴は、大抵チートって書かれてましたね
これからもエタらないように頑張ります!
感想返しは活動報告でできる限り返したいと思います!