75話 本気で怒った勇志っぽい
いくつか質問があったので
前話の二人のステータスは隠蔽してあります
ですので、一部ステータスが低下しています。120万→99万みたいに
一部内容を変更しました
「なんなのよ……あのステータス!?」
鈴は目の前の二人のステータスを見て、本能的に後ずさってしまった。
「ほう……私達のステータスが見えるのか」
「くっ……!」
レイアの不敵な笑みに対して、鈴は戦闘態勢を取った。
「リン。あの二人のステータスってどんな感じ?」
「スキル、属性は共になし。でも、ファイじゃ絶対に勝てない」
「……?」
「HPMPは999万。残りは99万よ。不自然に『9』が並んでいるから、超隠蔽で隠されているか……もしかしたら――――」
「超解析の限界ってところか」
その先の言葉を大地が遮った。
「ええ、どちらにせよあれ以上のステータスを持っていることに変わりはないわ」
「何をブツブツ言っている。もう一度問うぞ、誰だ? お前たちは?」
レイアは少しだけ苛立っているのか、先程より口調が強い。
「……僕が話をつけてくる」
「ユウシさん!?」
「大丈夫だよヴェレス。見た感じ魔族じゃないから」
戦闘は不可能と考えたのだろう。
勇志は二人に近づいて話を付ける気だった。
「初めまして、ドレット王国の勇志と申します。ミーシャさん、レイア・アンジェリークさん」
「私達の名前がわかるってことは、解析持ちですね?」
ミーシャが無礼のないように接する。
「はい」
「それで、ユウシさん達は何をしに魔界へ? 今魔界に来られると困るのですが」
「……その口ぶりから推測すると、お二人共魔界側の住人ですか?」
「私もミーシャも人間界で産まれて育ってきた人間界の住人だ。魔界なんかに興味はない」
「……では、なぜ?」
「命令だからな」
「それは魔王の?」
「はっ、私たちが魔王の命令を聞くと思うか? ご主人の――――」
「レイア、喋りすぎですよ」
ミーシャがレイアを手で制して、話を止めた。
「ユウシさん、そろそろこちらの質問にも答えてくれますか? あの魔物の大群を突破してまでこの魔界に来た理由を」
「……」
勇志はこの二人が暗黒騎士の仲間ではないことを祈って、本当の事を話す決意をした。
だが、それがいけなかった……。
「僕たちは……暗黒騎士を殺しに来た」
「いい度胸だ」
いつの間にかレイアは剣を勇志の首筋に当てていた。
「!?」
慌てて後ろに引き下がり、皆に謝る。
「ごめん、失敗した」
勇志は冷や汗を流しながらも冷静に状況を把握する。
先ほどの殺気は怒気だ。
一瞬だけだったが、それでもわかる。
――――この二人には絶対に勝てないということ。
「ご主人を殺す……か。何回目だろうな、その言葉」
「そうですね。でも、何度聞いても聞き慣れません」
「同感だ。絶対に不可能だが……それでも気に食わんな」
レイアとミーシャは完全に殺る気満々だった。
(これは……詰んだかな)
勇志が死を覚悟したその時――――。
「ユウシさん、6秒あればこの場から逃げられますか?」
「えっ?」
ヴェレスが突然に呟いてきた。
「どうですか?」
「まぁ、いけないことはないけど……」
今の勇志達なら、6秒で一キロぐらいなら離れられる。
「……では、6秒間時間を止めます」
「時間を……止める!?」
ヴェレスがやろうとしていることに、勇志は驚きを隠せなかった。
小さく頷いてから苦笑いを浮かべる。
「使った後は気絶しそうになるので使い物になりませんが……。その時はユウシさん、その……抱っこしてくださいね?」
「え、あ……うん……?」
この状況で冗談を言えるヴェレスを不思議に思っていたが、それが強がりだと直ぐにわかった。
だが、あえてそこには突っ込まずに他の勇者に指示を出す。
「今から6秒間だけヴェレスが時間を止める。その間に奥の森に逃げよう」
「ザ・○ールドかな?」
「澪は随分と落ち着いているね……もしかしたら死ぬかもしれないんだよ?」
「んー……確かに怖いけど……なんでだろ? 何故か落ち着くことができる」
その落ち着きっぷりは凄かった。
喋ることさえ困難なこの状況で、唯一自然体で笑っているのだから。
「本当に不思議な人だ」
「今更だね」
お互いにしか聞こえない声量で言葉を交わしたあと、ヴェレスに合図を出す。
「じゃあ、行きます……よ!」
ヴェレスが言葉を発した瞬間。
辺りが灰色に染まった。
「よし! 今のうちに行くぞ!」
風がピタリと止まったことから、時間が完全に止まっていることを認識した。
そして、勇志達は二人を通り過ぎて森に向かう。
――――だが、それも叶わなかった。
時間は止まっている。
辺りは灰色に染まり、動いている物体は魔術をかけた勇者一行しかないはずだ。
そう、動けるのは勇者一行だけのはずなのだ。
「嘘……でしょ?」
一番驚いているのはヴェレスだ。
たった6秒とは言え、この時止めは完璧だったはずだった。
「どこに行くつもりですか?」
悠然と動くミーシャの姿を捉えるまでは。
そのまま6秒間は過ぎてしまい、ヴェレスは脱力してしまう。
「はぁ……はぁ……なん……で?」
時止めの反動なのか、ヴェレスは倒れかけてしまう。
勇志が慌てて支えた。
「まさか時を止められるとは驚きですね。あなたたちは本当に人間ですか?」
「ん? お? ミーシャ。いつの間に動いていたんだ?」
「レイアは黙って」
レイアを一喝し、小さなため息をつく。
「まぁ、そんなことはどうでもいいですね。人外な力なんて今更ですし」
「答えて……ください。なんで、時間が……止まっているのに……」
「それが最後の質問になりますけど、よろしいですか?」
「……」
ヴェレスは下唇を噛んで、再度口を開く。
「……ショクオウさんを……殺したのは、本当に暗黒騎士なんですか?」
「言っている事が理解でき――――ん? あ、あの時に……」
「あの時?」
「ええ、確かにショクオウ(という名前)を消したのは、私達のご主人様である暗黒騎士ですよ」
「っ!!」
勇志がピクリと動き、続きを質問する。
「その時……暗黒騎士はどうやって殺したんだ?」
「どうやって……?」
ミーシャが返答に困っていると、隣にレイアがやってきた。
「あれじゃないか? 高笑いしながら山脈を破壊した時の」
「ああ、あの時ですか。笑いながら(山脈を)消し飛ばしましたね」
その会話で勇者たちは察してしまった。
暗黒騎士は狂人の魔族だと。
一番最初に動いたのは澪だった。
回復職には数少ない攻撃魔術をミーシャに目掛けるが……。
「『インヴァリデイション』」
ミーシャのその一言だけで充分だった。
「な、なんで!?」
澪は急に魔術が使えなくなり、かなり戸惑っている。
ショクオウの死因を聞く前の落ち着きっぷりは既に消えていた。
ファイや緋凪も同様に魔術が使えないようだ。
「だいぶこの魔術にも慣れてきましたね」
「なんでミーシャはその魔術使えるんだよぉ……」
「才能……ですかね」
超ドヤ顔でレイアに自慢し、ブチ切れ寸前になるレイア。
そんなコントにしか見えない二人を見て、遂に勇志が動き出した。
「ユウシ……さん?」
勇志の変化に気がついたのはヴェレスだった。
そっと地面に寝かされ、囁かれる。
「ごめんヴェレス。ちょっとだけ待ってて。俺が直ぐに終わらせてくる」
「えっ」
初めて聞く勇志の俺口調。
ヴェレスは戸惑うことしかできなく、勇志は二人と対峙する。
「すまないな、やっぱり俺たちはここで死ぬわけにはいかない」
「勇志!?」
口調に対して皆疑問を感じていたが、澪だけは違った。
今までにない焦りを見せている。
「勇志! それは――――」
澪が呼び止めるが、その前に動き出してしまった。
「はぁ、ここはレイアに任せます」
「はいよ」
襲いかかってきた勇志をレイアが剣で受け止める。
軽くなぎ払い、怯んだところを突こうとするが……。
「なっ!? 避けられた!?」
常人では見えるはずのない速度で突き刺したはずだが、それは虚しくも外れてしまった。
レイアに隙ができてしまい、勇志は剣を薙ぎ払う。
直ぐに離れて勇志に襲いかかろうとするが、レイアは急に動きを止めた。
ほんの少し……ほんの少しだけ髪の毛が切れたのだから。
それを見て、レイアは不敵に笑い始める。
「ふふっ……面白い……面白いぞ!」
ステータスは毛の一本一本にまで反映される。
流石に本体よりは劣るが、どう考えても普通の人間に切れる耐久度ではない。
髪切り専用のマジックアイテムでなければ、髪など切られるはずなかったのだ。
「以前の私だったらお前に惚れていただろうな!」
レイアの攻撃を避け、攻撃を加える。
その動作一つ一つが音速を遥かに超えていた。
見た感じ互角な戦いを見ている他の勇者達は唖然としていた。
「あのユウシって男……何者なのよ……」
精霊であるファイでさえ驚きを隠せていない。
その中でただ一人、澪だけは驚きではなく焦りを見せていた。
「どうしたの?」
「ダメ……早く止めないと……!」
鈴の声が届いていないようで、澪は二人の戦いに突っ込もうとしている。
「ちょっ、何しようとしてんのよ!?」
間一髪で澪の腕を掴んで、動きを静止させる。
少し落ち着いたのを確認してから理由を問う。
「一体どうしたっていうのよ……?」
「……以前、強斎が生まれる世界を間違えたって言ったよね?」
いつの間にか、全員が澪の言葉に耳を傾けていた。
「勇志は……その強斎に唯一対抗できる人間だったの。武力でね」
「!?」
表情には出てないが、動揺を隠せていない大地。
それもそうだろう、地球にいた強斎の実力を知っているのだから。
「……どういうことだ?」
「あの本気で怒った勇志を見てもわからない? 明らかにステータスを超えた動きをしてるでしょ?」
「……」
「昔、勇志が本気で怒った時があるの。口調が変わって周りが見えなくなる……。今は周りはちゃんと見えているらしいけどね」
「冷静のまま強くなったってこと? ならそれで――――」
「鈴はリミッターって知ってる?」
その一言で、殆どの人は理解してしまった。
「そう、勇志は肉体のリミッターを解除して戦っているのよ。このまま戦い続ければ大変な事になる。……勇志は強斎じゃないから」
「どういうことですか」
突然背後から声がかかり、その正体を確認しようと全員が振り向いた。
「……そのままの意味よ。いずれ勇志は壊れてしまう」
「私が聞きたいのはそこじゃありません」
澪以外は直ぐにその場を離れて、戦闘態勢を取った。
しかし、ミーシャはそれらを無視して澪の話を聞いている。
「あのユウシという男のことはどうでもいいです」
「なら強斎のこと?」
ミーシャはしっかりと頷く。
「私たちと同じ場所で生まれた仲間よ。あんたの主に殺されたけどね!」
「……」
ミーシャは確認するように全員を見回し、戦闘をしている二人の間に入った。
「レイア。そこまでにしなさい」
勇志とレイアの剣を同時に弾いたミーシャは、レイアにそう告げたあとに勇志を確認する。
「……確かに、もう意識がないですね」
そう言った直後に、勇志は倒れてしまった。
ミーシャは一瞥してからため息をつく。
「数ヵ月後に人間界で武道大会がありましたよね? そこに私たちが戦争を吹っかけます。必ず来てください」
「おいミーシャ! 何を言って――――」
「人間界の魔物を一時的に退散させます、その内に帰ってください」
次の瞬間には二人の姿はなかった。
「助かった……?」
誰かがそう呟いたあと、背後から声が聞こえる。
「お前たち! 一体何があったんだ!?」
「ベルクさん!」
鈴が駆け寄って、ある程度の説明をする。
ベルクの方は、急に魔物がいなくなったので急いできたらしい。
「暗黒騎士の手下か……。あの魔物達が急にいなくなったのと関係あるのか?」
「はい、その二人の名前は……ミーシャとレイア・アンジェリークです」
「……そうか」
「?」
「話は後で聞こう。それよりもユウシ達の手当だ。ヴェレスのお嬢ちゃんも疲れているだろうから、とりあえずシッカ王国に向かおう」
「わかりました」
ベルクの不自然な動揺に疑問を持ったが、特に気にすることではないと割り切って行動に移した。
「……武道大会に乗り込むとは……本気で戦争する気かよ」
ベルクのその呟きは、誰の耳にも入ってこなかった。
ベルクさんは無事だった!
ちょっと無理矢理ですが、勇者視点は今回で終わりです。
予定では次の勇者視点で再会です。
誰かミーシャがドヤ顔でレイアを馬鹿にしている絵を描いてください(切実
で、その後レイアが強斎にそのことを暴露してあたふたしている姿が……おっと誰かが来たようだ