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73話 ルナの変化っぽい

はい、通常盤(三人称)に戻しました。

一人称は読みにくかったようですね……ごめんなさい。

 ファイとの戦闘後、ルナはフラフラと森の中を彷徨っていた。

 ルナの意識は、先ほどの鈴の言葉に持ってかれていた。


『もう充分でしょう!? なんで必要以上にファイを傷つけるの!? ルナさんはこんな鬼畜だったの!?』

『なら……なんでこんな酷いことを? 私に魔術を教えてくれた時のルナさんじゃないよ……』


 この二つの言葉が彼女の思考を占拠していたのだ。


「……」


 右手で左腕を掴み、自らが震えていることを自覚する。

 そして、今まで占拠していた言葉が過去の出来事を思い出させる。


 生まれつき・・・・・呪いがかかった自分にギアスを埋め込まれ、始まった地獄。

 彼女にその地獄を味あわせた元の主人。


 彼女がその主人に抱いていた感情を鈴に言われてしまったのだ。


 それを理解した時には、彼女の手には魔銃が握られていた。

 自らを撃ち抜けるほどの魔力を込め、銃口を右脚……ファイを撃ち抜いた場所に合わせる。

 そして――――。


「うっ……ああっ!!」



 ――――ルナは、自らの右脚を撃ち抜いた。



 ルナの右脚からは止まる様子のない血が流れている。

 明らかにファイに与えたダメージを超えていた。


 それもそうだろう。


 ルナは自分のVITを計算して、ファイの痛みをしろうとしたのだ。

 だが、自らを撃った場所は至近距離。

 しかも、ルナは中学生体型の小柄な女の子だ。


 足もファイより小さいし、撃った距離があまりにも近すぎた。

 苦手な人が見ればそれこそ、失神するか吐くほどに……酷かった。


 だが……。


「ファイ……さんは……泣かなかった」


 今にも泣きそうになっているルナは、そう言って堪えていた。


「私は……あの男とは……違うっ!」


 ルナが思い出すのは、あの地獄の日々。

 そして、その張本人。


 昔の主人と自分を一緒にされたくないために、ルナは魔銃にもう一度魔力を込め、右脚に向けた。


「はぁ……はぁ……」


 だが、先ほどのように簡単には引き金を引こうとしない。

 ただでさえ痛いのに、ほとんど同じ場所に同じ威力の銃弾が着弾したらと思うと、恐怖で引けないのだ。


 だが……。


「私は……あんなクズになりたくないから……」


 目を瞑って呼吸を止める。

 引き金を引くための瞑想をしているのだ。


 正直、ルナのこの行為に意味はない。

 結果を見ればルナの過剰攻撃になるが、過程を含めるとファイの勝手な行動と鈴の制御不足が招いた自業自得だ。

 だが、ルナは過剰攻撃した自分に非があると勘違いしている。

 なぜなら……彼女には一般常識というものがほとんどないのだから。


 どのような過程なら悪いとか、そういうのがまだ把握できていないのだ。

 そして、彼女が知っている常識と言えば……。


 ただただ痛めつけられるだけの非常識だけだった。


 彼女にとって、強斎と出会ってからの日々は毎日が非常識だった。

 強斎が人を殺したという事実を知ったときは少し驚いていたが、ルナにとってはそんなもの嫌いになる理由には全く含まれなかった。

 そもそも、どんなことをされても嫌いにはなれないだろう。

 常識から非常識へ……。

 強斎のためなら何でもする。そんな気持ちになれるのだ。


 ……だが。


「っ!! っ!!」


 彼女は引き金を引くことができなかった。

 恐怖で指に力が入らず、ピクリとも動かない。


(リンさんの言ったとおり、私はあの男と……同じ……)


 すると、今まで我慢してきた涙腺が崩壊した。

 今の主人への裏切り……そう思い込んでしまったのだから。


「ルナ! あんたなにやってんのよ!?」

「ゼロ……さん?」


 ゼロに気づいたルナは、急いで目元を拭う。


「どうしたんですか? 今は自由時間のはずですよ?」

「どうしたんですか? じゃないわよ! 主人が物凄く心配してたわよ!?」

「主様が? ……ああ」


 強斎は自らの奴隷の状態を遠く離れてても把握できる。


「ルナの体力が急激に減ったって……主人なんて、用事を中断してまでここに向かおうとしてたんだから」

 強斎はルナの異変に気づき、ゼロをここに向かわせたらしい。


(やっぱり、主様は優しいなぁ……)


 すると、ルナは手に持った銃を一瞥し何かを決心した。


「ゼロさん、一つお願いがあります」

「別にいいけど、まずはこの脚を治療してからね」


 ゼロは歴代最凶の魔神だというのに、回復魔術に関してはチートである強斎を凌駕している。

 そんなゼロの治癒をルナは手で制して止めた。


「治癒する前に聞いてください」

「はぁ、なによ?」


 ルナはゼロに魔銃を差し出す。


「これで、私の右脚を撃ち抜いてください」

「……どういうつもり?」


 顔には出していないが、ゼロは密かに怒っていた。

 ルナにもわかっているはずだが、全く引く様子はなかった。


「私の……私の過去に決着をつけたいのです。相手を容易に痛めつけ、その痛みをわかろうとしないクズになりたくないのです」

「……」


 ゼロは無言で魔銃を受け取り、ルナに向けた。

 ルナは覚悟を決めてもう一度目を瞑る。


 しかし……。


「バカじゃないの?」

「……へ?」


 ゼロは引き金を引かずに、魔銃でルナの頭を叩いた。

 ルナは目を点にしながら、ゆっくりと口を開く。


「なんで……ですか?」

「なんでって言われても、私はルナの奴隷じゃないのよ? 命令を聞く義理なんてないわ」


 そう言って、ゼロは適当な場所目掛けて魔銃の引き金を引いた。

 あまりにも破壊力がありすぎて、周りの木々が吹き飛んだ。


「こんな威力の弾丸を自分の脚に撃ったわけ?」


 ゼロは完全に呆れている。

 そして、いつのまにか治癒は完了していた。


「私、ゼロさんを軽蔑しますよ?」


 これが冗談だということはゼロにもわかっていたが、それはあえて指摘しなかった。

 その代わり、別の質問をする。


「あなたねぇ……自分の脚を二回も撃ち抜こうとして何がしたかったの?」

「だから、過去に決着を――――」


 ルナが言い終わる前に再度魔銃で頭を叩く。

 どこか不機嫌そうにゼロを見るが、それも一瞬だった。


「決着なら、もう付けたじゃないの」

「?」


 ルナの左肩を指差して、話を続ける。


「さっきの言葉から推測すると、ギアスがあった頃だよね? それなら完全に断ち切ったでしょ?」

「で、ですが――――」


 更に魔銃で頭を叩いてしまったために、ルナは避けることを決心しようとしていた。


「なんの為にギアスを解いたと思ってるの? 過去と決別するためでしょう? ルナの身に何があったのかは知らない。だけど、それを過去と結びつけるのはやめなさい。なにより、主人が望んだことなんだから」

「……なんで主様は私を奴隷にしたのですか? 強くもないし、頭も良くない……容姿だって子供っぽいし、私の長所なんて一つもないです」


 ルナは、無意識にそう質問していた。

 ゼロは少しだけ困った顔になるが、直ぐに笑顔になりルナを優しく包み込む。


「私たちを奴隷にした意味はわからない……だけど、主人たちは私たちを愛してくれている」

「こんな……私もですか?」


「『こんな』じゃない、ルナだからよ。それにルナは、ルナらしい良いところを沢山持っている。頑張り屋さんなところとか、子供っぽいところとか。まだ若いんだから痛みを背負うとか物騒なこと言わずに、主人の愛に甘えていればいいのよ」

「私は……主様と同い年です」


「ふふっ、そうだったわね」

「……ゼロさん。最後に訊かせてください。愛ってなんですか?」


 ゼロはルナから少し離れて、苦笑いを浮かべる。


「難しいこと訊くのね……。まぁそれぞれだけど、私は存在しているだけで充分な相手に贈る気持ち……。そんな感じかしらね?」

「……じゃあ、私も主様を愛していることになりますね」


「あら、言うじゃない? さっきまで泣いていたくせに」

「み、見てたんですか!?」


 ルナの頭を雑に撫で、ゼロは小さく背伸びをしてから微笑んだ。


「私も負けないからね?」


 その微笑みは、魔神の名には似合わないほど美しく、綺麗だった。

 ルナは嫉妬するほど馬鹿らしいぐらいの格差を見せつけられた気がしたが、引き下がらなかった。


「主様に一番歳が近い私のほうが有利ですよ?」

「あ、あら。私が年増とでも言うの?」


「え? だってゼロさんの歳って――――」

「あーあー! きこえなーい!」


「魔神だろうがなんだろうが、私は容赦しませんよ? だって私は――――」


 ルナの中にはいくつもの呪縛があり、容易には解けない。

 今の主に相応しい奴隷なのかは定かではないが、これだけは言いたかったようだ。




「私は、主様が大好きですからっ!」

そろそろ勇者視点が終わります。

さて、結構前に後書きでとあることを書いたのですが、覚えてますか?

そう、この戦争編の見所ですよ!


……あれ?戦争してない……?


あ、ファイちゃんですが身長は普通の高校生程度だと考えてください。

ルナちゃんは小学生でも通じるぐらいの中学生って感じです!

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