57話 それぞれの不安っぽい
最近、書いていると一瞬で書き方を忘れる時が……
「今ならお前が魔神様と言われても信用できる気がするな」
キャルビスは目の前の光景を見て、吐き捨てるように言った。
「安心しろ。俺は魔神なんかじゃない」
強斎は頑として否定しているが。
「『人間だ』……と?」
「ああ」
「いい加減そういう冗談はやめてくれないか?」
キャルビスは本気で強斎を人間だと思っていないらしい。
そう……なぜなら――――。
「こんなでたらめなオリジナル魔術を使う生物がいるってだけで驚きなのによ……」
――――新たな小国を作ってしまったのだから。
………
……
…
時刻は数時間前を遡る。
強斎が自らの失言を後悔していた頃だ。
「おい貴様」
キャルビスが無謀にも、椅子に座っている強斎の頭を鷲掴みにした。
その時眷属たちがピクリと反応したが、強斎が視線で制した。
「どうした。俺は今やっちまった感が半端ないんだ。戦闘は極力やりたくないんだが」
「お前と一戦交えるなんてこっちから御免だ。私はそんな話をしに来たのではない」
「じゃあなんだよ」
「……やり過ぎだ」
「は?」
鷲掴みから解放された強斎は、座ったまま頭だけ振り向く。
すると、キャルビスはピクピクと拳を震わせていた。
そして――――――。
「確かに私は山一つぐらいなら破壊してもいいと言った! だが、山地一つを消し飛ばすなんてやり過ぎだ!!」
キャルビスはそうビシッと強斎を指差して叫んだ。
その後、直ぐに脱力しへなへなと地面にへたり込む。
「ああー……もうお前が魔王やれよ。もう疲れたよ……」
魔王も魔王でやはり大変らしい。
「嫌だよ面倒くさい」
「その面倒な事を私に押し付けるな!!」
キャルビスは「うがー」と両腕を上げてへたり込んだまま強斎を襲おうとするが、その両腕は強斎に届く事はなく、地面に寝そべる形になる。
「魔王が地面に寝そべるなんて見られたら大変じゃないか?」
「ここにはお前ら以外誰もいないからいいさ」
確かに、この部屋には強斎達とキャルビスの六人しかいない。
「それと、お前女だろ? いいのか? 清潔面で」
「ははっ、愚問だな。私は魔王だぞ?」
「だからどうした。それと、そんな格好だと全く魔王に見えんな」
「私の心も既に汚れているということさ」
キャルビスは『も』と言ったが、強斎には理解できなかった。
(髪は毛先まで整えられていて、体臭も女性特有の匂いもある。服装もショートパンツにインシャツと少し露出が多いが、目立った汚れもないな……まぁ、一応王だし当たり前か。それと、見た感じ怪我もしていないしな……。後、汚れるといったら……)
強斎は立ち上がってキャルビスの前に移動し、しゃがみこむ。
そして――――――。
「お前、非処女か?」
「処女じゃボケェ!!」
キャルビスはガバッと起き上り、強斎の顎めがけて音速を超えた速度のアッパーする。
しかし強斎はそれを軽く避け、その後にくる衝撃波もものともしなかった。
ついでに眷属たちは見て見ぬ振りだ。
流石にさっきのは強斎が悪いと思っているのだろう。
「で、一体何の用だ?」
強斎は何食わぬ顔で仕切り直す。
「ああーそうだった。お前、土魔術使えるか?」
キャルビスはスッと立ち上がり、服に付いた汚れを叩きながらそう言った。
「まぁ使えるが?」
「闇属性と光属性だけでなく土属性もか……お前、どこの種族だ?」
この世界は種族によってステータスだけでなく、持っている属性までもが偏っている。
例えば、魔族には闇属性持ちが多く光属性持ちが少ない。
逆にエルフは光属性持ちが多く、闇属性持ちが少ない。
その点人間はそのような偏りはないが、重複属性が少ない。
「その質問何回目だ?」
「表向きでは同盟になっているが、実際は違うだろ? その黒幕ぐらいの種族ぐらいは把握しておきたい」
「黒幕って……敵視する気マンマンだな」
「敵視もなにも敵だろう」
キャルビスは「何を言っている?」と言わんばかりに首を傾げた。
「じゃあ、敵にあんな無防備な態度取るなよ……」
「無防備だろうが戦闘態勢だろうが、お前相手には変わらんだろ」
強斎はそう言われると何も言えなかった。
「あー……もういいや。話が脱線した。で、俺の土魔術をどうしたいんだ?」
「ふん、まぁいい。貴様が消し飛ばした山地の埋め合わせだ」
キャルビスは強斎を全力で威圧する。
「……ついでに訊くが、どれだけ酷い?」
「更地より酷いな。直径数十キロメートルの底の見えない穴があると言えばいいか?」
キャルビスはどこか遠くを見て小さく笑った。
「実はな、これを金と時間で解決しようとしたら黒金貨100枚と30年はくだらんのだ」
日本円で約1兆円である。
強斎はここでようやく事の大きさに気がついた。
「ああー。そこで俺の土魔術ってわけか」
「まぁ、そういうことだ。どうせお前のことだ、神級魔術も使えるんだろ?」
キャルビスも随分強斎の扱いに慣れてきたようだ。
「まぁ使えるが……」
「ならいい。神級土魔術なら半日で終わるだろう」
そう言ってキャルビスは部屋の出口に向かった。
「怪我人が出る前にさっさと終わらしたい。ついてきてくれ」
その言葉に強斎は反応した。
「なぁ」
部屋を出ようとするキャルビスを強斎が呼び止める。
「どうした?」
「お前って何で魔王になったんだ? 少なくともお前が戦闘好きには見えんが」
強斎がそう言うと、キャルビスは小さく笑う。
「その話は歩きながらでもできるだろう?」
「……そうか」
強斎は眷属たちに一言言ってからキャルビスに続いて部屋を出た。
強斎とキャルビスが部屋を出たのを確認したゼロは、静かに本を閉じる。
「さて、どんな感じに拷問しようかしら」
「ゼロさん!?」
ゼロの狂気じみた発言にルナが思わずつっこんだ。
「いや、だってあれ完全に主人に心許してるじゃん」
「まぁ、確かにそう見えましたが……だからって拷問までは……」
「そうですよゼロ。キョウサイ様はかなりモテていましたから。これはしょうがないことなのです」
「独占欲を否定するわけではないが、もう少しご主人を信用したらどうだ?」
「むぅ……」
全員から口々に言われ、ゼロは頬を膨らませる。
だが、その可愛らしい仕草は直ぐに終わってしまった。
「どうしたの?」
ミーシャがいつもと違うゼロに少し真剣に声をかける。
「……怖いのよ」
「怖い?」
ゼロには似合わない言葉に、レイアとルナまでもが驚いている。
「私は主人が大好き……。だから捨てられるのが怖い」
「捨てられるって……キョウサイ様に限ってそんな事――」
「それはわかってる。主人がそんな事をする人じゃないって。でもね……」
ゼロは強斎のいない部屋を見渡す。
「最近、何となく……。本当に何となくだけど……。主人が本当に愛する人は私じゃない気がして……」
「……ゼロもですか」
「え?」
ミーシャの予想外の答えに、ゼロは一瞬硬直する。
「実は、私も最近そう感じるようになったのですよ。最初はキョウサイ様が私たちと壁を造っている事が原因かと思っていましたが……」
「あー……それ、私もです」
「認めたくないが私もだ」
ルナ、レイアまでもがそう思っていたらしい。
「ちょ、ちょっと待って!? え? ここにいる皆そうなの!?」
「……そのようですね」
「……主人に限って恋をしたことがないって事は……ありえるわね」
「それはありえますね。恋というもの自体知らないかもしれません。……ですが」
ミーシャは一つ大きな呼吸をして、再度口を開いた。
「もしかしたら、気になっている女性が既にいるかもしれません」
………
……
…
「くしゅんっ!」
「意外と可愛らしいクシャミだな」
「うるせぇ」
強斎は鼻をすすりながら、先ほどの会話の続きをする。
「で、何でお前は魔王になったんだ?」
「いつの間にか?」
「すげー曖昧だなおい」
そんな強斎の答えにキャルビスはクスクスと笑い始めた。
「流石に今のは冗談だ」
「だろうな」
「だが、あながち間違ってはいない。私はな、この魔界でも有名な狂戦士なんだよ」
「狂戦士は他人の安全なんて心配しないと思うが?」
「……そうかもな」
強斎は、キャルビスの事を聞けば聞くほどわからなくなっていった。
(さっきの心『も』ってこともそうだし、一体何なんだ……?)
聞きたいことはあるが、これ以上キャルビスに関して探るのは躊躇った。
「なぁ、一ついいか?」
躊躇ったが、これだけは聞きたいと思い質問をする。
「なんだ?」
「何で敵である俺にここまで晒した?」
「……」
「お前、ここまで他人に晒したことないだろ? 態度にしろさっきの話にしろ……」
「……」
「……」
「……」
「……そうか。わかったよ」
強斎はキャルビスの表情から読み取り、これ以上探るのはやめた。
「……すまない」
キャルビスは、まるで自分に言い聞かせるように小さく言ったのだが、強斎には聞こえていた。
「別に謝ることはない。俺が一方的に訊いていたしな。俺が謝るべきだ、わるかった」
「ふんっ、お前に謝られると調子が狂う。……さて、もうすぐ着くぞ」
そう言ってキャルビスは足を速めた。
はい、ここでこの世界の金銭が出てきました。
随分久しぶりな気が……。
と言うより金銭のこと忘れてましたごめんなさい。
さて、今回も後半は走ってました。
そろそろ主人公の奴隷たちも不安定になってきたかな?
え?勇者PTの女性?
どうなっているんでしょうね?(ニヤニヤ