55話 強斎の勝手な考えっぽい
さて、久しぶりの主人公視点……
「な、なん……だと……?」
強斎は唖然としていた。
なぜかと言うと……。
「なんで……。なんで、この文字が読めたんだ?」
そう、ゼロは強斎が持っている本……。
――――――日本語で書かれた本を読み上げたのだ。
当の本人のゼロは、その日本語をじっと見続けていた。
「おい、ゼロ。一体どういう――――」
「わからないわ」
強斎が答えないゼロにもう一度訊くが、言い切る前にゼロから答えが返ってきた。
そして、ゼロは強斎から数歩離れ、本を持っていない方の手で頭に手を当てる。
「なんで……? どうして……? こんな字、見たことないのに……。なんで読めるの?」
「ゼロ……?」
「ごめん、主人……。少しの間一人で考えさせて」
ゼロはそのままフラフラと本棚にもたれ掛かる。
そんなゼロを強斎は無言で見守っていた。
いや、ゼロの正体を考えていたと言ったほうが適切だろう。
しかし……。
(ダメだ……情報が少なすぎる……)
いくら考えても、ゼロと日本では接点がつかなかった。
(もしかしたらゼロが行った異世界ってのが日本なのかもしれんが……。それだったら、直ぐに思い出すはずだ。あいつはああ見えてかなり頭がいいからな)
そう思ってゼロの様子を改めて見る強斎。
その時、ちょうどゼロがため息をした。
「はぁ……ダメだわ。いくら考えても思い出せない。改めてこの字を見ても、全然読めないし……。無意識に読み上げるなんて本当にあるのね」
そう言って苦笑い気味に本を強斎に返した。
「はい、これ。ごめんね、勝手にとっちゃって」
「別にいいが……」
「ああー……さっきの事は質問しないでくれると嬉しいんだけど……」
強斎の表情から質問されると予測したであろうゼロは、強斎が質問する前に言った。
「……そうか」
「うん……本当にごめんね」
強斎もゼロがこんなふうに弱々しく笑っているのを見るのは初めてなので、引き下がった。
「ところで、あいつらの調子はどうだ?」
強斎の言う『あいつら』とは奴隷のことである。
「ああ、うん。そのことなんだけど――――」
「ゼロさん、魔界語の復習終わりました」
「あ、ルナ。お疲れさま」
ゼロが言いかけたところで、ひょこっとルナが出てきた。
「ほう、ルナはもう覚えたのか……」
この短時間で魔界語の復習が終わったルナを、強斎は素直に驚いていた。
「あ、いえ。私なんてまだまだですよ……。ミーシャさんとレイアさんなんて、もう次の精霊界語が終わりそうで……。最初はなんとか二人のスピードについていったのですが……」
「急に喧嘩になっちゃってねぇ……。まぁ、早く正確に覚えてくれることには越した事ないんだけどね」
ゼロが苦笑い気味に付け加えた。
「まぁ、そういうことなので……。あ、でも今日中には全て終わりそうです!」
「そうか、頑張れよ」
強斎は、生き生きとしているルナの頭を優しく撫でた。
「っ! はい!」
そう言ってパタパタと去っていった。
ルナが去ったのを確認した強斎は、ゼロの方に向き直った。
だが、その時のゼロの雰囲気に強斎は違和感を感じた。
「どうした?」
ゼロの頬が少し膨れていることから、ちょっとご機嫌斜めのようだ。
「別に」
と、言っときながらも、何かを訴えるような目で強斎を見つめているゼロ。
強斎はさっきのルナとのやり取りに原因があると考えた。
(あ……まさか……)
強斎は無言でゼロに近寄り、ルナと同じように優しく頭を撫でた。
「えへへ~」
すると、ゼロの機嫌は一気に元通りになり、気持ちよさそうにおとなしく撫でられている。
そんなゼロの変わりように、強斎は微笑する。
「そう言えばゼロ」
「ん?」
強斎はゼロを撫でるのをやめ、話をしようとする。
「あっ……」
しかし、ゼロは名残惜しそうな顔で強斎の手を見ていた。
だが、これ以上撫でていると話が進まないので、強斎は話を続ける。
「俺に用があったんじゃないのか?」
「あ、そうだった」
ゼロはいつもの調子に戻って……いや、いつもより真剣な顔つきで強斎に質問する。
「ありえないとは思っているんだけど……。ルナに戒を埋め込んだのって……主人?」
「いや、違うぞ」
強斎はゼロの目をしっかりと見ながら答える。
そんな強斎を見て、ゼロは脱力したように苦笑いをした。
「あはは、そんなにじっと見なくても、ちゃんと信用してるわよ。一応訊いてみただけ」
そうは言っているが、ゼロは少なからず安堵していた。
「そう言えば、ゼロは戒を消す事が出来るのか?」
「うん、出来るわよ」
「だったら、消してやってくれないか?」
「別にいいけど……。主人がルナの主人であるり続ける限り、戒があろうとなかろうと関係ないわよ?」
「俺が嫌なんだよ……。戒ってのはこの世界では相当な拷問なんだろ?」
「……ええ。戒を埋め込まれるぐらいなら死んだほうがマシって思うのが大多数でしょうね」
強斎は戒についてほとんど知らない。
だが、ミーシャやレイア、魔神であるゼロがここまで言うのだから、相当なものだと思っている。
「だからな、ルナをその呪縛から救ってやりたいんだ」
「……主人」
ゼロはそっと強斎の頬に手を当てる。
「お、おい……」
強斎は冷静のつもりだが、ゼロの悲しそうな瞳を見て内心少し焦っていた。
そして、ゼロはゆっくりと口を開く。
「主人はさ、演技とか物凄く上手だけど……。目だけは騙せられないのよね」
「どういうことだ?」
「主人ってさ、いつか私たちを解放するつもりなんでしょ?」
「……」
「ほらね。やっぱり目だけは正直だ」
そう言って、ゼロは強斎から離れた。
「ここ最近、若干私たちと距離を置いているのもそうなのね?」
「……」
強斎は何も言えなかった。
距離を置いていると言ってもほんの少し素っ気なく返事を返す程度だったが、それでもわかっていたらしい。
「主人は本当に優しい人……でもね、その優しさは時に人を絶望的なまでに傷つける……。その事を自覚して」
ゼロは強斎の目を見ながら、しっかりとそう言った。
強斎はその眼差しをしっかりと受け止めながら答えた。
「……あいつらはもう強い。そろそろ俺と言う鎖から抜け出す頃合だ」
「主人は鎖なんかじゃない」
「俺はもうこの世界には疎くない。だからあいつらが心配する要素なんてない」
「疎いとかそんなの関係ない。あの子達には主人が必要なの」
「あいつらは元々奴隷じゃない。奴隷生活は嫌に決まっている」
「主人の生活はそこら辺の貴族よりも裕福な生活よ」
「あいつらは……あいつらは――――」
「主人!!」
ゼロは強斎の手を取り、叫んだ。
「いい加減、本音を聞かせてよ……。主人は私たちと一緒に居たくないの?」
「居たいさ……。できれば、ずっとな」
「だったら、なんでそんな事を言うの? なんで私たちを幸せから離そうとするの?」
ゼロは半泣きだった。
そんなゼロを見て、強斎は心が痛くなる。
「嘘でもそう言ってくれるのはありがたいな」
「っ!!」
強斎がそう言った途端、ゼロの頬に一粒の涙が流れる。
「そんな……私は、嘘なんて――――」
「ゼロは嘘なんてついてませんよ」
その時、物陰からミーシャが現れた。
「私たちは皆、心からキョウサイ様と共に居たいと思っています」
暫くすると、ミーシャに続いてレイア、ルナも姿を現す。
どうやらゼロの叫び声が気になって様子を見に来たようだ。
「私は初めて会った時言ったはずですよ? 一生ご主人様についていくと。私が奴隷でも……そうでなくても、一生付いていく覚悟です」
レイアは笑顔でそう言った。
「私はまだ主様のことをよく知りません……。ですが、私は主様が大好きです。主様と離れるぐらいなら、戒なんてずっと埋め込まれたままでいい程に」
恐らくルナはさっきの話を聞いていたのだろう。
その証拠に、ルナの服の胸のあたりはシワになっていた。
ルナが言い終わると、ゼロは掴んでいた手を更に強く握って口を開いた。
「これでわかってくれた……? 私たちには主人が必要なの……。だから、別れを考えるのはもっと先でもいいんじゃない?」
強斎は数秒呆気にとられていた。
しかし、直ぐに我を取り戻す。
「ゼロが結論を急ぐなんて珍しいな」
「私だって、主人と離れるのは嫌だもん」
ゼロだけではなく、ミーシャやレイア、ルナまでもがしっかりと頷いた。
そんな様子を見て、強斎は小さく鼻を鳴らす。
「結論を急いでいたのは俺のようだな……」
「じゃあ……!」
ゼロがキラキラとした目で強斎を見つめる。
強斎は思わず微笑してしまい、そのまま言葉を続ける。
「ああ、これから暫く俺の下にい続けてもらうぞ?」
『はい!』
ここが図書館だということも忘れて、眷属たちは大声で答えた。
更に親密になったのは言うまでもないだろう。
違和感なく話の内容を変えるってのに挑戦してみたんですが……
どうでしたか?
それと、今日でこの小説が半年続いたことになりました!
皆様、本当にありがとうございます!
これからも頑張りますね!