51話 鈴の仮説っぽい
(全く……動揺させてくれるわね……)
鈴は刺さっている剣を目の前にして、先ほどの緋凪の言葉を思い出していた。
(強斎を思い出して泣きそうだったなんて、恥ずかしくて言えるわけないじゃない……)
そう、鈴も澪と同じく、剣の魔力を感じ取った時に涙腺が緩みかけたのだ。
(でも、これで私の勘違いじゃない事がわかったわ……。この剣は間違いなく――――――)
「強斎に関係しているな」
「っ!」
一瞬心臓の鼓動が跳ね上がるが、鈴は直ぐに冷静さを保つ。
「まさか……私の思考を読んだの?」
「それこそまさかだ。いくらなんでも出来るわけないだろう。ただの勘だ」
「大地の勘は鋭すぎるのよ」
いつのまにか鈴の隣にいた大地は、小さく鼻を鳴らした。
「デタラメに言ってみたが、図星だったようだな」
「……」
鈴は少し頬を膨らませ、大地を睨む。
「まぁ、そんなに睨むな。少し嫉妬するが、鈴が強斎の事を好きだってことは知っている」
「……マジですか」
「ああ、流石に俺はあいつ程鈍感じゃないからな。反応を見れば大体はわかる。そして、この剣を見て懐かしむような顔をしていれば、大体は察することができる」
「デタラメなんかじゃないじゃない……それに、私は――――」
と、鈴がそこまで言ったところで、大地が人差し指を鈴の口元に当て、言葉を防いだ。
「そこから先はまだ言わなくていい。今はこの剣についてだろう?」
鈴の顔は真っ赤になり、一歩下がってから小さく頷いた。
すると、後方から声がかかる。
「おいそこのリア充。爆発するかここに連れてきた説明するかどっちかにしやがれ」
さっきまで、鈴にカップルは生暖かく見守れと言った緋凪であった。
そして、鈴は今までのやり取りを聞かれていたと理解した途端、更に顔を赤くした。
「あっ、ちがっ、違うの!これはその……違うのっ!」
「何が?」
緋凪は真顔で鈴に質問する。
真顔だが、内心ニヤニヤしていることは容易に想像できる。
「あぁ!もう!説明する!説明するわよ!!」
鈴は大きく深呼吸をして、自分自身を冷ます。
「まず、この剣の装備条件なんだけど……STRが2000以上と超人外レベルに設定されているわ」
「STR2000以上といえば、人間界では……数える程度しかいませんね……。そのどれもが人間族ではありませんし……」
ヴェレスの解説に、鈴は頷いて言葉を続ける。
「ええ、そして……緋凪、ちょっとこっちきて」
「え?私?」
鈴は緋凪を手招き、剣の前に立たせる。
「ちょっと、この剣を引き抜いてみて」
「別にいいけど……」
鈴の指示に従って緋凪は剣を掴んだ。
しかし……。
「きゃっ!」
突然バチバチッと鳴り、緋凪の手を弾いた。
緋凪は驚きのあまり、尻餅をついてしまう。
そんな緋凪を一瞥し、鈴は口を開いた。
「と、こんな感じに条件を満たさないと弾かれちゃうの」
「鈴ちゃん知ってたの!?」
緋凪は鈴に訴えるような目で訊く。
そんな緋凪を見て鈴は小さく鼻を鳴らし……。
「ええ、知っていたわ」
ニッコリと天使のような笑みで言った。
「酷い!鈴ちゃん酷いよ!鬼!悪魔!」
「さて、それで試したい事だけど……」
「スルーされたぁぁぁ!!」
うるさい緋凪を無視して、鈴は勇志に確認する。
「勇志って、確かSTR1000超えたよね?」
「まさか……」
勇志はそれで全てを察して苦笑いする。
「さっすが勇志。理解が早くて助かるわ」
ポニーテールの悪魔は、先ほどと変わらない笑みで平然と言ってのけた。
そんな鈴から勇志は1歩下がるが、逃げられないと悟り諦める。
「はぁ……。わかったよ」
「よろしい」
勇志は鼻を鳴らし、剣に近寄った。
そして――――――。
「『限界突破』」
そう呟いて、剣を掴む。
先ほどのように手を弾くことなく、しっかりと剣を握ることができた。
「あっさりと掴めたわね」
鈴はそう言っているが、どこかほっとしたような感じだった。
「じゃあ、引き抜くね」
勇志は一言入れてから剣を引き抜く。
今度もあっさりと引き抜くことができた。
しかし、勇志はそんな事はどうでもよかった。
「……凄い」
そう、勇志は自分自身の変化で手一杯であったのだ。
「どんな感じ?ステータス1.5倍って」
「ああ、凄いとしか言えないね」
鈴の問に少し嬉しそうに勇志は答えた。
鈴は勇志のステータスを確認する。
「殆どが3000超えとか……ほんっとチートね」
その場にいた全員は苦笑いをするしかなかった。
………
……
…
勇志の『限界突破』が終わったところで、勇者一行は解散した。
勇志とヴェレスはホルスに王国の安全を伝えに行き、それ以外は街の住人に安全を伝えに行った。
「…………」
そんな中、鈴は人通りの少ない物陰の椅子の様なところに座っていた。
「はぁ……」
鈴はため息をして、考え事をしていた。
そんな時、自分以外の気配がしたので一瞬警戒をする。
しかし、警戒も本当に一瞬だった。
「鈴。サボっていると澪に怒られるぞ?」
その相手が大地だからだ。
「あはは……ごめん」
「……」
そして、大地は無言で鈴の隣に座る。
「……大地?」
「大丈夫だ」
「え?」
「澪はその考えに至っていない」
大地がそう言うと、鈴は苦笑い気味に空を見る。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……なんでわかったの?また思考でも読んだの?」
「だから、俺は思考は読めない。……俺も、ヴェレスに訊いたからな」
「そう……」
すると、鈴は上に向けていた顔を俯かせ、力強く拳を握った。
「……本当にこの世界は狂ってる」
弱々しく鈴は呟き、さらに続ける。
「人間すら道具の一部にできるなんて……人の命をなんだと思って……!」
「鈴、落ち着け」
「でも!」
「落ち着くんだ」
「……わかった」
鈴が落ち着いたのを確認し、大地は口を開いた。
「別に、この世界の誰もが人を材料にしているわけじゃない」
「そう、ね」
「それに、あの剣が強斎で作られたと決め付けるのは、まだ早いんじゃないか?」
「……」
「鈴?」
今までとは明らかに違う雰囲気に、大地は思わず声をかける。
「……あのね、大地」
すると、鈴は少し震えた声で話し始めた
「以前、澪が夢をみたの」
大地は黙って話を聞く。
「その夢の内容はね…………強斎が殺される夢だったらしいの」
「強斎が殺される?」
「うん。強斎の死に方は誰も知らないはず……。でも、澪はそう言っていた……。私は、この夢は何か関係があるのかと思っていたけど……これって……」
その続きは言わずとも大地に伝わった。
「考え過ぎだ。澪がみたのも、ただの夢なんだろう?」
「そうだけど……そうだけど……!一度考えちゃったら、この考えしか出てこないの!!」
鈴は俯きながら叫ぶように言った。
「わかってるよ、この考えもただの仮説に過ぎないって……。でも……この仮説が一番有力なの……!それ以外の仮説をどれだけ考えても、この仮説が一番現実味があるの!!そう、この狂った様な仮説が!!」
鈴は顔を上げ、大地を睨むように見る。
そして、言葉を続けた。
「ねぇ、なんで私はこんな狂った仮説しか立てられないの!?なんでこんな考えしか出てこないの!?この狂った世界に来たせいで、私自身まで狂っちゃったの!?」
そこまで言うと鈴の目元に涙が溜まり、泣きそうな顔になる。
大地は無言で話を聞いている。
「なんでこの世界に来ちゃったんだろう……。私達、何か悪いことでもしたの?今頃、高校2年生最後のテストの点数を見せ合って、強斎にからかわれて、私が殴って、澪に止められて、大地に共感されて、勇志に意見求めて……そんな楽しい生活を送っていたはずなのに……それなのに……」
そこまで言ったところで、大地は優しく鈴を抱きしめた。
鈴も何の抵抗もなく大地に身を寄せる。
そして、大地が口を開いた。
「確かに、俺たちは不幸に巻き込まれてしまった。だけど、鈴は狂ってなんかいない。少し焦っているだけだ」
「でも……」
「俺は気の利いたことは言えない。だけど、今の鈴に同情はできる。だから……、今は強斎を生き返らせることだけを考えよう。あの剣の出処とかは考えずにな」
「……うん」
大地は鈴が落ち着いた事を確認し、鈴から離れようとする。
しかし、鈴は大地を離さなかった。
「……鈴?」
「もうちょっと、こうさせて」
「……」
この時、二人の顔は互いに赤かったが、その事を知る者はいない。
やっと伏線が回収できました。
前回に続き、今回も強斎抜きのイチャイチャリア充でした。
鈴の場合、大地とじゃなく強斎とイチャイチャさせろって声がきそうですね。
そろそろ、現時点での主な登場人物のステータスと、その主な武器防具のステータスを公開しようと思います。
さて、大量の武器防具の名前を考えるか……。