111話 巻き込まれて異世界転移する奴は、大抵チートっぽい
すみません!遅れました!
「ふふっ、そうか……見たのか……見てしまったのか」
イザナギはゆっくりと強斎に歩み寄りながら肩を震わせている。
「お前……笑っているのか?」
「笑っている? そうか……笑っているのか……」
イザナギは確かに笑っていた。
だが、雰囲気が尋常ではなく不気味だ。
「気持ちわりぃ……気でも狂ったか?」
「いや、ちょっと違うね……そうだな、言葉にするならば『楽しみ』とでも言っておこうか」
「は?」
イザナギは歩むのを止め、深く息を吐いた。
「ああ、やっぱりあの話し方は疲れるわ……。おい小鳥遊強斎。お前は自分の体に疑問を持ったことはないか?」
「……」
口調が若干変わったことについては触れずに、この質問の意図を探る。
「そんなに身構えなくてもいいさ。俺はただお前と話したいだけだからね」
「はっ、信用できるか」
「おいおい……そんな気を張り詰めていると疲れるよ? とりあえず『座れ』よ」
――――バチッ!
「っ!?」
突然目の前に火花のようなものが散り、強斎は反射的に距離を取る。
イザナギはイザナギで心底驚いている。という表情だ。
「……俺に何をしようとした?」
「驚いたな……今のを弾いたのか……」
「おい、何をしようとしたのかと聞いている」
イザナギは強斎の質問には答えず、その代わりに指を鳴らした。
神殿内に音が鳴り響き、その数瞬後に変化が訪れた。
二人はとある建物の入口に立っていたのだ。
「……ここは、学校?」
「懐かしいだろう? 異世界に来る前までお前が通っていた学校だ。ああ、質問は後でまとめて受け付ける。先ずは俺の質問に答えてもらうからな」
そう口にしたと同時にイザナギは校舎の中に入っていった。
「ちっ、調子狂う」
強斎はそんなことを吐き捨てながらイザナギの後についていく。
………
……
…
「それでさっきの質問だけど、お前は自分の体に疑問を持ったことはないのか?」
「特にないな」
「ふーん……でも、鈴木優華が死んでから急激に身体能力は上がったんでしょ?」
「……お前はどこまで知っている」
「知っているものは知っている。知らないものは知らないね。全知全能じゃないから」
イザナギは鼻で笑った後、再度口を開く。
「小鳥遊強斎。お前は異世界を信じるか?」
「信じるもなにも、ここが異世界だろ」
「そうだな、ここが異世界だ。だが、ここ以外にもあると言われたら?」
強斎にはイザナギの考えていることが全く理解できなかった。
だが、ここで何かを言ってもどうせ聞く耳を持たないということだけは予想がつく。
よって、今だけはイザナギの質問に答えることにした。
「信じる」
「……ほう。理由を聞いても?」
「優華と勇志だ。あいつらは魔王と勇者の子供らしいからな……。ここの魔王と勇者って感じもしないし」
「なるほどね」
イザナギは階段をひたすら登り続ける。
どうやら目的は屋上のようだ。
「そうだ、ここで一つ言っておこうか」
「なんだ」
「優華を殺したのは俺だ」
「っ!?」
強斎は目を見開き、同時に拳をイザナギに向けて放っていた。
だが、その行為は予想されていたようで軽く避けられてしまう。
「何故だ……何故そんなことをした!?」
「質問には後で答えるといったが……いいだろう、その質問には今答えてやるよ」
二人は歩むのを止め、お互いに対峙する。
「鈴木優華。あいつは転生者なんだよ」
「……それはお前が殺したから――――」
「いや、『鈴木優華』という存在が既に転生した後の人間だ。そして、転生前は――――――俺の恋人だった」
「……」
「今の鈴木優華とイザナミの顔が全く一緒なのに疑問を持たなかったか? あれはな、俺が『創生』したんだよ。俺の恋人の形にな。だが、戻ってこなかった。何度鈴木優華を殺しても、魂は戻ってこなかったよ」
「だから……殺し続けたのか?」
「ああそうだ。俺は俺の恋人ともう一度逢えるなら何度でもやる……つもりだった」
イザナギはそこまで言うと、踵を返し階段を再度登り始めた。
「そこで思ったんだ。『魂をつなぎ止めている何かがあるんじゃないか?』ってな。調べたら直ぐにわかったよ。原因はお前だ。小鳥遊強斎」
「心当たりないな」
「だろうな。お前は鈍感だ。鈍感すぎるからこそ罪だ。鈴木優華はな、お前に恋心を抱いていたんだよ」
「……は?」
強斎は立ち止まってしまう。
(優華が……? 俺に……?)
そんなことを考えている強斎をイザナギは鼻で笑った。
「確かに当時はお互いに幼かったからな。そんな感情を理解していたのかもわからん。だが、確かに抱いていたのは恋心だ。本当に罪作りだよな、お前は。小鳥遊強斎という人間に出会ってしまったことによって、数え切れないほど殺されてしまったのだから」
「俺の……せいだと?」
「お前のせいだ」
そう言ったと同時に、イザナギは歩みを止めた。
「さて、屋上についたな。俺から言うことは後一つだ。それを聞く覚悟が貴様にあるか?」
「……」
「今ので心が折れたのか? その程度の心で俺と戦おうとでもしていたのか?」
「……」
「……そうか。それがお前の答えか。なら俺は帰る。戦う価値もないやつと戦っても意味がないからな」
深い溜息を吐き、強斎の横を通り――――
――――過ぎる前に階段が崩壊した。
「……おいおい。ただの足踏みで階段を崩壊させるなよ」
「俺が悪い……か。そうか、そうかもしれんな」
「なんだ? 開き直りか?」
「いや。なら謝らなくちゃってな。お前を倒し、俺を起こす。そして、ゼロに謝る」
「謝って済むとでも?」
「それをお前が言うか?」
イザナギはほんの少しだけ笑みを浮かべると、後ろに数歩下がり屋上への扉を開けた。
「俺は謝るなんて質じゃないんでね。謝るならお前一人でやるんだな」
「そんなこと言えないぐらいにボコボコにしてやるから安心しろ」
そして、強斎も屋上に足を踏み入れた。
「で? 最後に俺に言いたいことってのは?」
屋上に足を踏み入れた……と思ったら着いたところは別の場所……。
強斎達が転移した大きな木の下だった。
強斎も強斎でこの場所で戦うことに納得してしまい、特に突っ込むことはなかった。
「あれれ? 驚くと思ったんだけどな? 屋上に行ったと思ったらこの場所に着いちゃったんだよ?」
「今更驚くことでもないだろう。まさか、言いたいことってのはこのどうでもいいサプライズのことか?」
「ははっ、そんなわけないだろ? もっと重要なこと……そうだね、お前の思っていた事を根本から否定することだよ」
「根本から?」
「そう。お前は今までこう思っていたはずだ。『勇者召喚に巻き込まれて異世界に来てしまった』とな」
「今の話を全部信じるとしたら、そうは思えなくなってきたけどな」
「ああ、だから敢えて言おう」
「――――――――巻き込まれたのはお前じゃない。勇者と言われている方だ」
「……」
ある程度予想はしていたことだが、やはり強斎は内心驚愕していた。
「転移ものの小説でよくあるよね? 勇者召喚や転移に巻き込まれちゃってチートを手に入れるっての。確かにそれと一緒だけど……。小鳥遊強斎、お前は自分の力がチートの範疇に収まっているとでも思ってる? そんなわけないよね? 普通の人間を圧倒するレベルで成長する勇者たちの方がよっぽどチートだよ。お前はチートでも何でもない。ゲーム上にない別のシステムだ。だからこそお前をこの世界に呼んだ」
イザナギは空を仰ぎ、強斎を思いっきり睨めつけた。
「ラストバトルにはこれ以上ない相手だからな!!」
「はっ、お前もただの戦闘狂かよ」
「今はそれでいいよ。……そういえば、お前からの質問に答えていなかったな。俺は言葉に力を入れることによって、物事を動かすことが出来る。それを弾くお前はやっぱり異常だよ」
「異常……ね」
強斎はその場で軽く背伸びをして、戦闘態勢に入る。
「俺はお前の芝居に巻き込まれたってわけかよ」
「ラスボス役だぞ? そこは喜ぶべきだな」
「お前は俺を巻き込んで異世界に連れてきた時点で間違っているんだよ」
「お前こそ、俺を巻き込んで存在で恋路を邪魔するんじゃねぇよ。どれだけ異世界を渡ったと思っていやがる」
小鳥遊強斎。星川樹。
二人はお互いに微笑んだ。
「聞いたことあるか?」
「聞いたことあるだろ?」
「「巻き込まれて異世界転移する奴は、大抵チートってな!!」」