110話 っぽい
強斎は冷静だった。
デバッグモードの時間が過ぎ、気が付いたら誰もいない草原にいた。
そう、誰もいないのだ。
「……シッカ王国に行くか」
………
……
…
――――シッカ王国
誰もいない。
建物や植物はそのままだ。
だが、誰もいない。
「シッカ王国……俺が一番世話になった国だな」
まずはじめに立ち寄ったのが――――奴隷商店。
「ここでミーシャとレイアを買ったのが始まりだったな」
………
……
…
――――元雪山
「ここも、前に来た時は雪山だったが、今ではすっかり雪が溶けちゃってるな」
魔物も動物もいない。
物音は全くせず、強斎の足音だけが静寂を破っていた。
「確か、ルナを見つけたのがこの辺りだったかな? あの時、ミーシャが奴隷契約の方法を知らなかったら……いや、考えるのはやめよう」
………
……
…
――――コトリアソビ周辺
「『終焉』」
強斎は何もないところで魔術を使った。
その魔術は『終焉』。虚無属性以外の属性の神級魔術を配合して完成した魔術だ。
強斎はその『終焉』を前方に放つ。
『終焉』はそのまま直進し、ありとあらゆるものを貫通して強斎の目の届かないところまで行ってしまった。
「ははっ、確かにこの魔術は危険だな。ゼロ、あの時お前が霧散してくれなければ大きな被害がでてたかもしれんな」
強斎は空を仰ぎ、小さく、自分に言い聞かせるように……。
「待っていろ。必ず全てを終わらせる」
………
……
…
――――コトリアソビ
「うーん。この辺りに迷宮があったはずだが……しょうがない。次に行くか」
………
……
…
――――ドレット王国
「ドレット王国。俺にとってそこまで思い出はないが、なんだかんだでここが異世界で一番初めにいた場所だったな。帰ってきたらきたで魔人として扱われたっけ」
灯りは点いている。
だが、虫の気配すら感じないこの空間はなんとも不気味だ。
………
……
…
――――魔界 入口
強斎は魔界へと足を踏み入れる。
「今の俺はここで眠ってるんだっけか? んじゃ、ちょっくらキャルビスのいる魔王城に行ってみますか」
………
……
…
――――魔王城
「これ、いつの時間で止まっているんだ? 俺が作った町があるってことは、それ以降ってことなんだろうが……」
強斎は『暗黒騎士』として魔術の実演をした魔王城の最上階にいた。
そこから見渡せる景色はつい最近見たものと何も変わっていない。
「この城に俺はいなかったし、次、行くか」
………
……
…
――――魔王城 中心
「ルシファーはいないっと。まぁ当たり前か」
強斎は直ぐに立ち去ろうとするが、ふと足を止める。
「確か俺が神に喧嘩を売ったのがここだったな……」
そう呟き、次の場所へと向かった。
………
……
…
――――人間界 闘技場
「闘技場……。ここで勇志達と再会したっけ」
闘技場はどこも壊れてはいない。
ということは、強斎がここに来る前の時間で止まっていることになっている。
「さて、龍人界と精霊界も覗いてくるか」
………
……
…
――――龍人界
「龍人界には初めて来るな。と言っても、誰もいないから龍人界かどうかも怪しいが」
………
……
…
――――精霊界
「精霊もいないのか……」
強斎は最後にゼロと別れた場所を凝視する。
「…………」
そして、無言で立ち去った。
………
……
…
―――――シッカ王国周辺
「さて、ある程度の場所は行ったし……最後はやっぱりここだよな」
強斎は何もない草原のど真ん中で寝転がっていた。
「『転移』」
そして、この世界には誰もいなくなった。
………
……
…
ここはとある神殿のとある部屋。
そこには一人の男が寝転んでいた。
名前は小鳥遊強斎。勇者に巻き込まれて異世界転移した男。
そして、全てを変える力を持った男。
「ははっ、やっぱりノートパソコンは健在なんだな」
強斎はパソコンの電源をいれ、立ち上がるのを待つ。
(恐らく、これで全てわかる。俺がこの力を手にした意味、俺たちがここに転移してきた意味も――――)
そう思考を巡らせていると、前方から微かだが足音が聞こえてきた。
その瞬間にノートパソコンが立ち上がり、とんでもないことが記入されていた。
「我の所有物を勝手に触るとはな……愚かな人間だ」
「はっ、残念ながら俺はもう人間を辞めていてね。それより、これはどういうことだ? イザナギ……いや、星川樹」
目の前の元凶……イザナギは元々日本人だったのだ。
大抵チート、今日で二年目となります!
予定では今日で最終話にするはずだったのですが、なんだかんだ書けない時期が……
あと少しですが、気長い目で見守っていてください!