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109話 デバッグモードっぽい

「ほらほら、強斎君? 私に仕返ししたいんでしょう? 何へばってるの?」

「ゴホッゴホッ! うるせーな……そんな感情とうの昔に捨てたっつーの」


 強斎は『衝撃』を受ける既のところで防御を施し、何とか致命傷は避けることができた。


(これがゼロの本気ってか。さすが魔神だな……)


 息を整え、服についた汚れを軽く払ってから先ほどの言葉を思い出す。


(デバッグモード……ね)


 デバッグの意味はもちろん理解している。

 地球にいた頃はゲームを沢山やっていたし、そういう系列の職業に就こうかと考えたこともあった。


(正直、このまま戦っていたら確実に負けるだろうし……やるしかないか)


 強斎はゼロを睨みつけ、口を開いた。


「おい、ゼロ」

「んー?」

「人間が、精霊より劣っているなんて……誰が決めつけた?」

「あら、強斎君が自分で言ってたじゃない。私を置き去りにするときに」

「はっ、聞き間違えるなよ。俺が言ったのは『実力差』があるって言ったんだ」


 強斎はステータス画面を開き――――。


「デバッグモード……オープン!」

「なっ!?」


 ゼロが驚愕している隙に目的の項目を探す。


(ちょっと多い気もするが……今の処理速度なら……あった! 『法則無効』……これが俺の特殊能力か……)


 迷わずそれを選択――――。








 ――――世界が、変わった。




「……は?」


 最初に声を上げたのは強斎だった。

 黒、黒、黒。

 視覚で捉えられる全てが真っ黒だった。


「バカ! バカ!! ほんっとうにバカ!! なにやってんのよ!!」

「うお!? ゼロか!?」


 どうやら聴覚は生きているらしい。


「おい! ゼロ! どこにいるんだ!!」

「……どこにもいないわよ」

「……? どういうことだ?」

「そのままの意味。この世界に……私は……いえ、強斎君以外の全ての存在が存在しないわ」


 意味がわからない。それが強斎の感想だった。


「はぁ……やられたわ……まさか、私以外にデバッグモードに入れる人がいるだなんて……ただでさえバグレベルの特殊能力とステータスなのに、デバッグモードの特殊能力が使えるとか……なんなのよあんた」

「そんなこと言われてもな……。というより、俺以外の存在が存在しないってどういうことだ?」

「……強斎君の特殊能力、『法則無効』だっけ? それがどういう意味かわかる?」

「今までどおり物理法則を無視するんじゃないのか?」

「違うわ。それは『法則無視』であって『法則無効』とは異なるの。んー……簡単に説明すると、今まで私たちがいた世界が消えて、新しく強斎君が作った世界になったってところかしらね」

「は?」

「あ、私がこうして話していられるのもデバッグモード画面を開いている最中だからよ? まぁ、後2、3分もすれば存在そのものが消滅するんだけどね」


 ゼロは笑いながらそんなことを言っているが、声は震えていた。


「こうなってしまえば私はお手上げ。もう死ぬしかないわね」

「いや、すまん……理解が追いつかないんだが……」

「もう、強斎君は馬鹿だなー」


 ケラケラと笑い声が聞こえるが、その中にある感情を読み取ろうとするとひどく心が痛んだ。

 これは本格的にやばいのかもしれない。


「あ、強斎君。私が君を止めに来た理由を話すよ」

「止めに来た……?」

「そ。実は強斎君はね、夢の中にいるんだよ? 覚えてる? 魔界で神に喧嘩売ったときのこと。あの時からずーっと向こう側の時間は止まっているの」

「は? え? どういう――――」

「もう時間がないから、詳細は話さない。そして、強斎君と接触したことがある高位神、『イザナミ』と『イザナギ』なんだけど、そのうちの『イザナギ』のほう。あいつが強斎君をこの夢の世界に固定し、私を生と死の輪廻に追いやった挙句封印した本当の黒幕。イザナミは記憶を改ざんされて、存在しない敵を探し回っているわ」


 強斎は聞くことに専念している。

 視覚が頼りない今はそれしかやることがないのだ。


「ついでに、魔界にあった本だけど……あれ、私が書いた本なのよ」

「魔王と勇者の物語は?」

「……あれは、私の先祖の話よ。この世界に来たとき、『あらゆる情報』が私の中に入ってきた。今思えば記憶の貯蓄量とその記憶が私のチートだったのね……で、異世界に飛ばされたその魔王と勇者は結婚して魔王の血を引いた私と、勇者の血を引いた勇志が産まれたってわけ……残念ながら強斎君に関する情報はわからないわ……ごめんなさいね」


 ゼロの言葉が段々と早くなってきている。そろそろ時間なのだろう。


「ああ、そうそう。ラグナロクだけど、実はもう始まっているの。強斎君は最初の標的としてこの世界に飛ばされちゃったってわけ」

「……」


 ゼロの微かな笑い声が聞こえる。


「まぁまぁ。そんなに落ち込まないの。それとね、属性にある『最強の宿命』。あれを最後の最後まで使わなかったのは正解よ。知っていると思うけど、あれの効果は自分のステータス全てを三乗する代わりに全ての存在から嫌悪されるようになる。強斎君はそれを使って戦争そのものを自分に向ける予定だったんだよね?」


 強斎は無言で頷いた。

 ゼロに伝わっているか分からないが、今はこうすることしかできない。


「でもね、強斎は強すぎるの。だから使ってはいけない」

「……どういうことだ」

「そのままの意味よ。ステータスが上がりすぎて、この世界そのものに負担がかかってしまう。すると世界そのものが崩壊し、こんなふうに真っ暗な世界になってしまう。タチ悪いことに一度使ってしまったら壊れたまま世界が固定されて、元に戻らないことよ。私みたいに……ね」

「……」

「あはは、もう時間だね。この世界は特殊能力で作られた世界だから元に戻るかもしれないけど、これに巻き込まれた私はどうだかなー……」

「……」


 ゼロは最後まで笑っていたが、強斎はその笑っている顔をどうやっても想像できない。


「ねぇ、強斎君……ううん。主人――――私を、忘れないでね?」

「……安心しろ。ゼロも、優華も……俺のもとに戻してやる」


 返事は聞こえない。


「今まで起こったことが全て夢なのか……?」


 残ったのはそんな疑問だけだった。

 強斎はゼロが本当に消えたのだと思えない。

 嘘はついていないだろうが、まだ隠していることも多そうだ。


「なら、それを聞くまでだな」


 強斎はステータスを脳裏に浮かべる。


「『限界突破』『超越者』『覇者』『聖騎士』『竜騎士』『万能騎士』『竜殺し』『神殺し』『世界を破壊する者』『神を超えた者』『神を殺した者』『神々の敵』――――」


 次々と自身を強化するスキルや属性を並べていく。


「人間をやめることになりそうだがしょうがない……『無双』『創生』――――」


 『創生』はイザナギからもらったものだが、この際これで人間をやめて神にさせてもらった。


『種族が神に変更されました。ステータスが変動します』


 そんなアナウンスが脳内に響くが、構わず最後の仕上げを進める。



「『最強の宿命』」



 崩壊した世界が崩壊し、強斎の意識はそこで途絶えた。





キョウサイ・タカナシ


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