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108話 小鳥遊強斎VS鈴木優華っぽい

 精霊界でもっとも高い木『ユグドラシル』。

 そこの枝に、ゼロは腰を下ろしていた。


(強斎君のあの様子だと、恐らくミーシャやレイア、ルナまでも手放すつもりだわ……。いえ、私が眠っていた時間によってはもう手遅れなのかも)


 大きめの舌打ちを鳴らし、目を細めて辺りを見渡す。

 既に戦争の準備は始まっているのだろう。精霊たちが慌ただしく動いていた。


「あと一週間ってところね……。多分、それに合わせて人間界と魔界の戦争も始まる」


 ゆっくりと腰を上げて、とある一点だけを睨み付ける。

 ニヤリと笑い、軽い準備運動をしてから――。


「見つけた」


 ゼロは、精霊界から飛び立った。


………

……


 ゼロが向かったのはシッカ王国……付近の人気のない草原だった。

 これと言って強い魔物もいないはずだが、だれもこの辺りを拠点にしないという謎めいた草原でもある。


「……もう目が覚めたのか」

「ええ、目覚めは最悪だったわよ」


 何もない草原のはずだが、強斎は一人でただ一点を見ていた。


「私以外の女の子はまだ解放してないのね。よかったわ」

「どういうことだ……?」


 ゼロは小さく笑い、ゆっくりと空気を吸った。


「この世界の契約って色々めんどうなのよね。あの子達を奴隷に戻す手間が省ける」


 そう言って指を鳴らし、超広範囲に結界を張った。


「ちょっと本気で戦ってみましょう? 私があなたを止めて見せるから」

「残念ながらゼロ、お前ではステータス的に俺には――――ぐはっ!?」

「ステータスが……なんだって? 強斎君?」


 瞬く間にゼロの拳が飛び、強斎の腹部にめり込む。

 その攻撃に、強斎は思わずよろめいた。


「なっ、どういう……? それに、その呼び方は……」

「あら、覚えててくれての?」

「まさか、お前は……!」

「ふふふ。強斎君、私に仕返しがしたかったんだよね? 私、どんな風に仕返しされるのか楽しみだったんだぁ……ま、その前に死んじゃったんだけどね」

「優華……優華なのか……!?」


 強斎はゼロに向けて手を伸ばそうとするが、ゼロはそれを静止する。


「待って、強斎君。今ここで感動の再会っていうのも雰囲気あっていいと思うんだけど、残念ながら時間がないの。だから――――」


 ゼロは強斎の背後に回り込み、耳元で囁いた。


「――――早くくたばってよ」


 同時に全力で蹴りを強斎の頭部に入れて、地面に叩きつけた。


「っ!?」

「大丈夫よ。この結界の中だったらこの世界は壊れたりはしない。だから全力で私を殺しに来なさい……まあ無理だろうけどね」


 そのまま腹部を蹴り上げ、ほんの少し浮いたところで頭を鷲掴む。


「強斎君は確かに強くなった。けど、強くなりすぎた故に――――」


 掴んでいた頭部を更に強く握り締め、上空に放り投げた。

 その際、自身の魔力を集中させる。


「『死槍デス・スピア』」


『神槍』と同じような魔力をまとった槍がゼロの手に握られていた。

 だが、槍にまとう色は禍々しく、見ているだけでも気分が悪くなる。そんな槍を強斎の心臓めがけて一直線に投げた。


「――――孤独になろうとした。だから、その歪んだ性根を私が正す」


『死槍』が強斎の胸を貫き、そのまま上空の彼方へと消えていった。

 強斎はゼロと離れた場所に落下する。


 ゼロはゆっくりと強斎が落ちた場所へと向かった。


「今の『死槍』は私の出せる魔術の中でもトップクラスの魔術よ? なんで避けなかったの?」

「……遠慮なく殺しにきてるところ。確かに、ゼロにも優華にも共通するところだな」

「!?」


 ゼロは咄嗟に振り返り、迫ってきた拳を腕で受け止める。


「ぐっ!?」

「攻撃力だけじゃなく、防御力まで飛躍的に上がっているのか……。今の攻撃、初めてゼロに撃った魔力弾より強いんだぞ?」


 ゼロは自分の腕の状況を確認し、苦笑いを浮かべた。


(私を縛っていた全ての呪いが解けてもなおこの力量差……。これはちょっとやばいかな)


 強斎から一旦距離を置いて自分のステータスを確認する。

 レベルや数値、スキルは変わっていない。属性に多少変化はあるが、今は気にしている暇などなかった。


「デバッグモード……オープン!!」

「!?」


 強斎が『デバック』という言葉に気を取られている隙に更に距離を取り、再度ステータスを見直す。

 今までのステータス画面とは違い、レベル、数値、スキル、属性全てに詳細文が加わっていた。そして、加わったのはそれだけではなく……。


(あった……。デバッグモードが切れる5分間……その間に決着をつける……!)


 ゼロは移動していた足を止め、大きく息を吸い――――。


「強斎君、チート級の特殊能力を持っているのが自分だけだと思ったら……大間違いだよ」


 ありったけの魔力を周囲に撒き散らした。


「残念だけど、常時発動の特殊能力じゃさっきの攻防が限界だからね。ちょっと本気を出させてもらっちゃった」

「お前が本気……ね。俺は、そこまで強くなれたのか」

「ええ、強くなりすぎってぐらいにね。別に性格まで曲げなくても良かったのに」

「お前が死んだ後、色々とあったんだ……よ!」


 強斎は一瞬で距離を詰め、ゼロに蹴りを入れようとするが……。


「遅いよ」


 蹴ろうとした足は既に抑えられており、逆に接近されていた。

 ゼロの顔は微かな息遣いが聞こえるほどに近い。


「ふふっ、驚いちゃって……可愛い。んっ」

「っっ!?」


 そのままキスをされ、強斎は驚愕のあまり目を見開く。


「私は鈴木優華であってゼロ・ヴァニタスでもあるんだよ? だから、私はあなたが大好きなのよ。主人」


 そして、強斎が何もできないままゼロは強斎の肩に手を当てて――――。


「壊れちゃダメだよ?」


 その瞬間、強斎は今まで受けたことのない強い衝撃を肩に受けた。


「が……あ……!?」

「吹っ飛びなさい」


 同じように腹部に手を当て、軽く押された。

 それだけで、気を失うような衝撃が伝わってくる。

 強斎はその衝撃に抗えないまま、はるか後方に飛ばされてしまった。


(なんだ……? 今のは……?)


 辛うじて意識はあるが、それでも満身創痍だ。

 こみ上げてくる熱を吐き捨てるように咳をすると、同時に血も吐き捨てられた。


(内臓が幾らかやられたか……それに、肩も複雑骨折ってところだな……)


 強斎は回復魔術を全力で自分にかけ、何とか損傷を治し、立ち上がった。


「流石強斎君ね。意識まで刈り取れなかったわ」

「流石……じゃ、ねえだろ。俺のHPが見えるレベルで減ったんだぞ? どうやったらステータスをそこまで上げれるんだ」

「うーん、実はこれ、ステータスを上げる系の特殊能力じゃないんだよねー」


 ゼロはニッコリと微笑み、自らの手に魔力を集中させる。


「この特殊能力は『無敵』。自分の種族以下の種族に対しては無類の強さを誇るのよ。だから、人間である強斎君は精霊である私には歯が立ちませーん」

「マジかよ……」

「マジマジ」


 強斎は苦笑いと共に一歩後ろに下がるが……。


「さーて強斎君。この絶望的な状況でどう覆してくれるのかな?」


 先ほどと同様に接近され、簡単に胸に手を当てられてしまった。


「んじゃ、さっきの10倍の衝撃。食らってみよっか」


 無邪気なゼロの笑顔に、強斎は引きつった笑顔で答えるしかなかった。

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