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106話 お別れっぽい

「主人ー! ただいまー!」

「ただいまー」

「お、二人共おかえり」


 強斎が自分のステータスを確認していると、突然目の前に闇が生まれ、その中からゼロとヨミが姿を現した。


「いやー、ヨミちゃんの移動魔術、本当に楽よね。というかその能力自体が色々と楽よね」

「……ん」


 ヨミのことツクヨミは特殊能力と完全暗記というユニーク属性により、数回魔術や武術を見るだけでその類をほぼ使えるようになってしまうというチート性能だ。

 先ほどの移動魔術も強斎の魔術だったが、ヨミに見せたところ難なく使えるようになってしまった。


「あれ、主人は何してるの?」

「ん? まぁ、ちょっとステータスの確認かな。で、そっちはどうだった?」


 強斎がそう口にした途端、ゼロの表情が一気に真剣さに満ちた。


「……主人の言ったとおり、龍人たちは精霊と対立しているみたい。ちょっとしたキッカケで戦争が起こってもおかしくないぐらいに……ね」

「ちょっとした……ねぇ」


 強斎は以前、『コトリアソビ』にて龍人と遭遇している。

 その時には既に精霊との戦争は確定しているようなものだったが……。


「……」


 ゼロは辺りを見渡し、この場に他の奴隷がいないことを確認する。


「ヨミちゃん、ちょっとパパと大事な話をするから外に行ってて」

「パ――!?」

「うん、わかった」


 ヨミはそれだけ言うと、闇の中に消えるように去っていった。


「……さて、主人? 説明してもらいましょうか?」

「それよりゼロ、お前ツクヨミを実の娘のように扱ってないか……?」

「私と主人じゃ特殊な方法使わないと子供なんてできないしね……。やっぱり好きな人との子供って欲しいじゃん?」

「……で、俺に説明しろってのは?」

「あら、照れてるの?」


 強斎は何も答えないままゼロからの視線から逃げた。


「ま、今はもうそんな状況でもないか。直球に言うわ。人間と魔族が戦争しようとしている最中、龍人と精霊まで戦争させる気なんでしょ? 主人はこの世界をどうしたいわけ」

「……」


 強斎は何も答えずに踵を返し、そのまま歩いていった。


「ちょっと! 聞いてるの!?」

「ああ、勿論聞いている。だからついてこい」

「え? あー! もう!」


 なんだかんだ言って、ゼロは強斎に従順だった。

 ついでに、ヨミは他の奴隷と遊んでいた。


………

……



「――――って、ここ精霊界じゃない!!」


 ゼロがそう叫ぶと、周りにいた弱い精霊達が膝をつき始めた。

 ゼロは魔神でもあるが、種族的には精霊王に属しており、弱い精霊ならば属性関係なくひれ伏してしまう程の立ち位置でもあるのだ。


「はぁ……。精霊界には嫌な思い出しかないからあまり来たくないのよねぇ……」

「うし、じゃあ適当な精霊王にでも会いにいくか」

「え、ちょっ。私の質問に答えなさいよ!」


 強斎は足取りを止め、ゼロと向き合いにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 そして――――。


「ああ、ゼロの言う通り。俺は精霊と龍人の間でも戦争を起こすつもりだ」

「なっ!? 本気でそんなこと言ってるの!? 流石の私でも怒るわよ!?」

「そうだな。怒られちゃうな、俺」


 ゼロは分からなかった。

 強斎の考えていることが、全く理解することが出来なかったのだ。


「でもな、実際に死人が出るのは殆どないだろう」

「……主人が全世界の敵になるからって? この際だから言うけど、いくら主人が圧倒的な力を持っていたとしても、四世界同時の戦争の矛先を自分に向けることなんて……」

「不可能。とでも?」


 その言葉にしっかりと頷く。


「主人は戦争を甘く見すぎている。戦争は力だけあればいいというものではないわ」

「……そうだな、俺はそんな風に見ているかもしれない」

「なら――――」

「だが、戦争は起こす。魔界と人間界。精霊界と龍人界。そして……ラグナロクをな」

「なっ、まだそんなことを――――」

「言うよ。何度でもな」


 強斎はそれだけを言って、再び足を動かす。

 ゼロはしばらく立ち止まったままだったが……。


――――ズドォォォォン!!


 大陸全体を揺らす程の足踏みをし、強斎の意識をこちらに向けた。

 そして――――。


「主人。あなたは言ったよね? 魔神になるつもりはないって」

「そんなことも言ったな」

「今主人がやろうとしていることは世界の崩壊……。魔神と何も変わらないのだけど?」

「そうかもしれないな」

「私はね、別にこの世界がどうなろうと興味ないのよ。だけど、ミーシャやレイア、ルナもまで泣かすようなことをするなら……」


 ゼロは指を鳴らし、二人の間に小さな球体を浮かばせた。


「俺を倒す……とでも?」

「まさか。私が何度死んでも主人に傷一つ与えられないことぐらいは承知済みよ」

「それで――――」

「私が壊す」


 そう口にした途端、周りの雰囲気が一気に変わった。

 精霊が慌ただしく駆け回り、何かを叫んでいる。


「今、なんて?」

「私が壊すと言ったのよ。この世界を私が壊し、全てをやり直させる」

「……」

「復帰するのに何年かかるんでしょうね……。いえ、もしかしたら復帰すらできないのかも」

「……正気か?」

「それはこっちの言い分よ」


 ゼロは強斎に向けて今までにないものを……敵意を向けていた。

 初めて会った時にも敵意を向けていたが、今のとは比べ物にならない。


「もう一度質問するわ。主人はこの世界をどうしたいわけ?」

「……」

「……そう、答えないのなら――――」

「この世界は、不思議だよな」


 ゼロがほんの少し球体を動かすと同時に、強斎の口が開いた。


「人間や魔族に対し、龍人や精霊とで実力差がありすぎるというのに、龍人も精霊も人間界や魔界に攻める素振りすらしない」

「? 何を言っているの?」

「ステータスが全てを決めるこの世界で、なぜ弱者である人間や魔族が支配されていない? 繁殖もできないのに。なぜだと思う?」

「それは……」


 ゼロは口こもってしまう。

 そんなこと、一度も考えたことはなかった。


「精霊なんて、人間や魔族より多いくせに個々の能力だって高い。龍人だって、数多の竜を飼っている。本来なら力の近い者同士戦うんじゃなく、弱い者から叩くはずだ。領土にしろ資金にしろな」


 その瞬間、強斎の背後から尋常でない程の威圧を感じ取った。

 だが、その威圧はゼロや強斎に対してなんの意味も持っていない。


「あなた方……私の威圧を受けて何もないとは……何者ですの?」


 背後に立っていたのは、燃え盛る炎のような真っ赤な髪をした女性だった。

 その女性に対し、ゼロは……。


「……なんだ、火の精霊王か」

「なっ!?」


 二人に威圧をかけたのはどうやら精霊王のようだ。


「あなた……精霊ですわよね……? でも……」

「なによ」

「なんで……龍人・・と一緒にいるのですの?」


 ゼロは辺りを見渡す。

 周りには精霊が沢山いるが、龍人の姿などどこにも見当たらない。


「あなた……何を言って――――」


 そこでふと考える。

 精霊の目は魔力の流れを見る事ができる為、ありとあらゆる幻術は通用しない。それが精霊王となると尚更だ。

 だが、その目すら凌ぐ幻術が実際にあるとしたら――――。



「――――あんたが精霊王か」



 ――――この世界で使えるのはただ一人だけであろう。


「――――!!」

(なっ、喋れない!?)


 ゼロは龍人に化けたであろう強斎を静止しようとするが、既に先回りされてしまっていた。


(私にはいつもの主人に見えるからまるで警戒していなかった……! 今の主人に喋らせてしまったら、本当にこの世界が……)


 必死に足掻こうとするが、どうやら声だけでなく行動すら制限されてしまっているらしい。


「龍人が……ここまでなんの用ですの?」

「既に想像ついているんじゃないのか? 宣戦布告だよ」

「……本気?」

「ああ、本気だとも。なんなら、今ここでこの精霊を――――」


 強斎がゼロを見ながら刀をゆっくりと抜くと、その鞘ごと小さな爆発で飛ばされてしまった。


「もういいです。あなたの要件は分かりました」

「それは助かる」

「あなたは相当な力を持っているようですね……。私レベルの精霊の目は、どれだけ離れていようと行動を見ることができますが……さっぱりできませんわ」

「……そうか」


 強斎はそれだけ言うと、この場を立ち去ろうとするが……。


「あら、宣戦布告をしにきた敵国の使者をただで返すと思いで?」


 精霊王は一瞬で強斎の行く手を阻むように立っていた。


「……ここで争うってか?」

「いえ、あなたとここで戦ってしまえば、私であろうとも痛手を負ってしまうのは目に見えています。ですから交渉しましょう。あなたの連れてきた精霊……その精霊を解放してこちらに引き渡しなさい」

(なっ……!)


 ゼロはここで初めて強斎の意図に気がついてしまった。

 強斎は……ここでゼロとの関係を断つつもりなのだ。

 強斎とゼロは精霊契約によって主従となっているためそう簡単に切れるものではないが、相手はあの強斎だ。やろうと思えば簡単にできてしまうだろう。


(嫌だ……! それだけは、絶対に!!)


 必死に声を出そうとするが、声はおろか指先すら動かせない。

 そして――――。


「わかった。それで見逃してくれるなら奴隷契約・・・・から解放するとしよう」


 ゼロは思考を止めてしまった。

 強斎は本当に自分との関係を断つつもりだったのだと、確信してしまったから。

 強斎はゼロと対峙し、ゼロにだけ聞こえる声で話し始める。


「突然だが、これでお別れになるな」

「――!! ――!!」

(なんで……! なんで喋れないのよ!! こんな最後なんて……私は!)


 ゼロは表情すら変えることができない。

 強斎に感情すら伝える手段が何一つないことに、絶望すら感じ始める。


「この世界に来て一年。俺は俺のやるべきことをようやく見つけた。俺はそれを成し遂げてくる。だから、お別れだ。ゼロ」


 強斎は優しく微笑んでから、ゼロの唇に――――自らの唇を重ねた。


「!? 主――」

「『解呪の口付け』だ。精霊契約を解除するためにはこれぐらいしか思いつかなかった」


 そこでゼロは自分が動くことができることに気がついた。

 しかし……。


「頭が……痛い……」


 猛烈な頭痛により、ゼロは膝をついてしまった。


「ゼロにかけられた呪い全て・・を解いている途中だ。ゆっくりと休め」

「主……人……。いかない……で……」


 強斎はそんなゼロを抱きしめ――――。


「今までありがとう。愛しているぞ、ゼロ」


 強斎の泣きそうなその言葉を最後に、ゼロは意識を手放した。


………

……


「離れなさい! この外道!!」


 精霊王は気を失っているゼロを庇うように強斎を引き剥がす。


「契約を解除するかと思えば、接吻だなんて……」

「……これで契約解除することができた。俺は帰る」

「……随分と潔いのですね」


 強斎は気を失っているゼロを一瞥して……。


「ここにいると、辛いからな」


 その言葉を最後に、強斎は姿を消した。


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