104話 初志貫徹っぽい
ごめんなさい!少しリアルの用事で遅くなりました!
「何から話そうかの……」
イザナミは天を仰ぎ、何かを思い出すように考え始めた。
「そうじゃな……まず、今までお主の姉が召喚していたという話は飛ばすか」
「え、ちょ……えええええ!!??」
「冗談じゃ」
イザナミはヴェレスの絶叫に対してクスリと笑うと、長い髪をなびかせながら表情を変える。
「最初に言っておこう。妾が見てきた中で、お主が勇者召喚に成功した事例は一度たりともない。理由は簡単じゃ。潜在している魔力が圧倒的に足りないのじゃからな」
「で、でもお姉さまは……時空魔術師では――――」
「今の世界では……な。元々、お主は三姉妹の中で最も落ちこぼれじゃった……じゃが、どういうわけか今の世界ではお主が鍵になっているような気もする」
ヴェレスはそこで違和感を感じた。
「……ちょっと待ってください。イザナミ様は今なんと……?」
「ん? お主が鍵になっているような気もする? か?」
「いえ、それも気になりますが……その、三姉妹と……」
「? それがどうしたのじゃ?」
ヴェレスは少しだけ言いにくそうだったが、それも一瞬だった。
「あの……私の血族は……お父様、お母様、お姉さま……そして、私だけなのですが……」
「……は?」
ここで、イザナミは初めて動揺を見せた。
「も、もう一度問うぞ? お主に妹は……」
「いません……ね」
イザナミはゆっくりと深呼吸をして、なにかブツブツ唱え始めた。
暫くすると、目を見開いて机を叩いた。
「そんな……馬鹿な……!?」
「あ、あの……」
「妾の能力がハックされていたとでもいうのか……!? ありえぬ! ありえぬ!!」
ヴェレスにはイザナミの言っていることが全く理解できていない。
ただイザナミの雰囲気からして、何かとんでもないことが起きているんじゃないかと思うだけだった。
少々砕けてはいるが、イザナミは上位神。
その上位神が焦る内容など、ヴェレスには到底理解出来ないと割り切っていたのだ。
暫くすると、イザナミは大きな溜息を吐いた。何かが終わったのだろう。
「これほどの変化……妾は初めてじゃ……。ヴェレス。本当に妹はいないんじゃな?」
「え、あ、はい」
イザナミはじっとヴェレスを見つめ、再び口を開いた。
「今となっては妾の知識が正しいかどうかは知らぬが、お主には妹がおったのじゃ。姉のような魔術は使えなかったが、底知れぬ魔力を持った妹がな。じゃが、今の世界ではその妹はおろか、お主の姉ですら時空魔術師ではない。お主が二人の長所を引き継いでおる」
「私が……?」
「そして、そのことを妾に隠すために誰かがここまでのことをした……。もしかしたら、お主が脱出のキーなのかもしれぬ」
ヴェレスは今まで話されたことを簡単にまとめようと思考をフル回転させる。
まず、この世界は何度か繰り返されていること。
初めは勇者が召喚された時から。このことから、少なくとも勇者に関係していると思われる。
終わりは強斎が澪に殺されるところ。イザナミ曰く、強斎が『人間』である限りそれは免れないらしい。
更に、自分たちは神の血を引いている。しかも、本来の召喚者である姉、存在するはずだった妹の力を一纏めにした力が今の自分とのこと。これも、無関係とは到底思えない。
ヴェレスは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
これはあんまりじゃないか?
いくらなんでも唐突すぎる。
「荷が……重いか?」
「……ええ、重すぎますよ……」
「最後になったが、強斎が『人間』である限り神を倒せない理由を教えよう」
「……」
「理由は簡単。澪を殺せないからじゃ」
「……」
「あやつが『人間』のままでは絶対に澪を殺すことができぬ。じゃから、早急に強斎を神に――――」
「イザナミ様」
ここで、初めてヴェレスはイザナミを睨んだ。
「私が、止めてみせます。この繰り返された世界を……ですから、『神気契約』の抜け道を教えてください」
「……今のお主では信用できん」
「だったら、鍛えてください。いざとなったら、私が皆様を止められるほど強く」
イザナミはヴェレスを鍛えに鍛え抜いた。
その後、条件付きで自身を大人の姿にする魔術を取得。
そして、大人ヴェレスのステータスは……人間を、超えていた。
#
ヴェレス・ドレット
LV 757
HP 59723/59723
MP 84682/84682
STR 6432
DEX 8362
VIT 6801
INT 9284
AGI 7032
MND 9254
LUK 50
スキル
超解析Ⅱ
作法LV30
解読LV16
解析LV15
剣術LV48
体術LV40
料理LV22
威圧LV55
隠蔽LV32
状態異常耐性LV54
時空術LV60
HP自動回復速度上昇LV50
MP自動回復速度上昇LV50
超越者
アイテムボックス
属性
時空魔術(ユニーク)
神の加護(???)
#
神気契約の抜け道は案外簡単だった。
別の質問をいくつかして、そこから答えに結びつけるというもの。
イザナミはヴェレスを見送り、自分の能力に異常がないかをチェック。
案の定……異常は見つかった。
「……ここまでするのか? お主は優華の時に身に染みて理解したと思ったのじゃが?」
イザナミの独り言に対する反応は全くない。
だが、話すのをやめるつもりもなさそうだ。
「ふん。背後には気をつけるんじゃな。それに、ヴェレス……いや、『ヴェルダンディ』にもしものことがあったらオーディンが黙ってはおらぬぞ?」
小さく鼻で笑い、一度だけ頷く。
「そうじゃな、今のヴェレスは『ヴェルダンディ』なんかではない……強いて言うならば、『ノルン』と言うべきか? 貴様の定めた『運命』と運命の女神が作ろうとしている『運命』。どちらが強いのじゃろうな? ――――ゼウスよ」
それだけ言うと、イザナミは踵を返す。
「まぁよい。ゼウス、貴様を殺すのは妾たちじゃ。何億、何兆回運命をやり直そうが、妾の記憶だけは消せぬ。それだけは覚えておくんじゃな」
そして、イザナミは姿を消した。
………
……
…
「主人ー! 今戻ったよー!」
「おお、ゼロ。おかえ――――ってなんでヨミがいるんだ!?」
「ただいま……パパ」
「お、おう……?」
強斎たちは久しぶりに『コトリアソビ』に滞在していた。
龍人がいないのかチェックするという目的もあったが、それ以外にも――――。
「ご主人様! できました! 『光槍』です! 私にも作ることができました!!」
「レイア……さっきから大人しいと思ったらそんなことしてたのか……?」
「そんなこととは酷いじゃないですか! 私はあの時、ご主人様の『光槍』を持てなかったことがどれだけ悔しかったか……!」
「ああー……そんなこともあったな」
強斎は半年以上前、シッカ王国で初めて『光槍』を生成した。
その時、レイアに持たせようとしたがレイアは『光槍』に弾かれてしまったのだ。
と、そんなこと考えているうちに、ツクヨミとレイアが対峙していた。
「……」
「……」
「……デカチチ」
ピキッ。
そんな音が聞こえた気がした。
「はぁ……」
強斎の溜息も聞こえた。
「ご主人様? このクソガキは?」
「ガキじゃない……」
「じゃあクソチビ」
「……幼女と言ってくれ」
「自分で言うことか!?」
暫く言い合いが続くと踏んだ強斎は、諦めて天を仰ぐ。
そんな強斎に声がかかった。
「ねぇ、主人?」
「……ゼロか。どうした?」
「主人はさ、私が元々は人間だったって言ったら……私に何かする?」
「なんだ唐突に。特に何もしない……あ、いや。襲うかもしれんな」
「ふふっ、主人は本当にえっちね。私はいいけど、ヨミちゃんにはだめよ?」
ゼロは強斎の肩にもたれ掛かる。
「私はどこまでもあなたについていくわ。何度死んだって……必ず」
「不気味な事を言うんじゃない。俺たちは……絶対に死なないさ」
「初志貫徹……私、そういうあなたに惹かれたんだね……」
「ゼロ……?」
「……あれ? 私、なんか言った?」
「……いや、何も言ってない。少しボーッとしてたから声をかけただけだ」
強斎はゼロの頭を優しく撫でながら、先ほどの言葉の意味を考えていた。
(初志貫徹……初めに心に決めた志を最後まで貫き通すこと……だっけか? これ、四字熟語だよな……? しかも、使い方からして、ずっと前から俺がそういう志を持っていたということになるんだが……)
今はまだ知らない。
いや、知る日が来るのかもわからない。
小鳥遊強斎が、ゼロ・ヴァニタスの正体に気付く時は――――。
ヴェレスのステータスの時、感覚が麻痺していると自覚しました。
ヴェレスのステータスって、魔王クラスなんですよ、ええ。
レベルを見ると、魔王より全然強いですけどね




