94話 日本人、全員集合!っぽい
ちょっと詰め込みすぎたかも
「こうやって、勇志が本気で怒るのも久しぶりだな」
強斎は勇志の攻撃をかわしながら話し始める。
「あの時も、お前を怒らせた原因は俺だったな」
「だから……どうした!」
勇志は距離を全く取らずに、ひたすら剣を振るう。
だが、強斎に当たる様子は全くない。
「本当、なんにも変わってない。そこまで血が昇ってるくせに、俺を殺そうとしないところだってな」
「っ!」
この時、はじめて勇志は距離を取る。
「日本にいた頃はまぁ、しょうがないとしよう。だがな、ここは異世界だ。人間の命なんて金で買えるようなところなんだ。お前も知っているだろう?」
「……もう、30秒経過した。なんで攻撃しない?」
「話をはぐらかそうとしたって無駄だ」
強斎は鞘から刀を抜き、不敵に笑った。
「だいたいわかるぜ? 期待してるんだろ? あの時のように。俺がお前の姉さんを――――『鈴木優華』を殺したわけじゃないって。別の人間が殺ったんだって。だがな、今回は違う。俺は俺の意思でヴェレスをこの世界から……『消した』」
「……ねぇ、強斎。そろそろ……やめにしないか?」
「なに?」
勇志がそう呟くと、今までの怒気が嘘のように消えていった。
「やっぱり、君にはこういう役割は向いていないよ」
「……どういうことだ」
強斎は内心で動揺するが、それを決して表には出さない。
「僕を怒らせて、倒して、神と会うだって……? 何を言っているんだ? 『魔王』の血を引いてもいないのに」
「っ!?」
「今考えてみれば、強斎が本当に戦うべき存在だったら異世界に来た時点で理解してるはずだもんね……。すごいよ、強斎は。敵意と言葉だけで僕を錯覚させるなんて……」
強斎にとって、この展開は完全に計算外だった。
今の勇志は、完全にそうだと確信しているため、言い逃れはできそうになかった。
「ねぇ強斎。なんで僕と戦おうとしたの? それと……ヴェレスをどこにやったの?」
「……はぁ」
強斎は大きなため息を吐いて、刀を鞘に収める。
そして、ふにゃりと頬を緩めた。
「俺の完敗だ。今から俺の考えていること、行動しようとしていること全てを話す。これで許してくれるか?」
「ヴェレスを返す気はない……と?」
「今はまだ……な」
「……無事なんだよね?」
「それは保証する」
勇志は長い沈黙の後、小さく頷いた。
「わかった。僕は強斎を信じるよ」
「助かる。……とりあえず他の皆を呼んできてくれ」
………
……
…
「あぁ……強斎だ……強斎の匂いだ……うふ、うふふふふふ……私の強斎……私の……うふふふふふ……」
「……澪、変な薬でも飲んだのか?」
「うへへ~何にも飲んでないよぉ~」
澪は目覚めて早々に強斎に張り付き、その場から全く離れようとしない。
そんな澪をくっつけながら、強斎は鈴と大地に頭を下げる。
「すまない。いくら目的のためだとは言え、お前らを敵に回してしまった」
「まぁ、私も酷いこと言っちゃったし? おあいこよ」
「俺も、強斎を信じきれていなかった……すまない」
鈴、大地も既に敵意など微塵もなくなっている。
そして――――。
「緋凪……お前もこの世界に来てたのか」
「まぁ、ね。私自身、強斎に久しぶりに会えて嬉しかったりするんだけど」
若干澪を羨ましそうに睨む緋凪。
「あ、あのっ! もしかして……『コトリアソビ』で助けてくださった……」
「ああ、久しぶりだな琴音。あの時しっかりと自己紹介してなかったから今するよ。俺の名前は『小鳥遊強斎』お前と同じ日本人であり、緋凪とは中学の頃の同級生だ」
少しだけ驚いている琴音。
「お前……どこかで会っただろ?」
「ん? お前、帆刈信喜だろ? んで、そっちが佐々木仁。忘れたか? 俺ら、一度ドレット王国で戦ってるんだが」
「「あの時の仮面の魔人!?」」
未だに敵意丸出しの信喜と仁。
これで、日本人組は全員揃ったことになる。
「えっと……何から話したらいい?」
「まず、何故生きているかを聞いてもいいか?」
大地がそう質問すると、一同一斉に頷いた。
「ああ、そっからか。実は――――」
「キョウサイ・タカナシ! 覚悟ぉぉぉぉ!!」
「……はぁ」
上空からそんな叫び声が聞こえ、強斎以外の目線が全てそちらに行く。
「『グラビテーション』」
「っ!?」
だが、強斎のその一言により、声の発生源は勢い良く地に墜落した。
「ヴァルキリー……さん?」
「おお、勇者か……。すまないが、ちょっと助けてくれ」
墜落してきたのは、竜王と戦っていたヴァルキリーだった。
勇志はヴァルキリーを起こそうとするが……。
「重っ!?」
勇志の人間離れしたSTRですら、ヴァルキリーはピクリとも動かすことはできなかった。
そんな勇志に強斎が声をかける。
「当たり前だ。『グラビテーション』は重力操作系の魔術で、ヴァルキリーが自力で立ち上がれないような重力をヴァルキリーのみにかけてあるんだからな」
「えっと……つまり?」
勇志の質問に、強斎はにやりと笑い……。
「今のヴァルキリーの体重はクソ重い」
「それを言うなぁぁぁぁ!!」
「俺が地面を硬化してなかったら今頃こいつは奈落の底だな。自分の体重の重さによって」
「うわぁぁぁぁ!」
既に、強斎によってヴァルキリーの威厳などなくなっていた。
「っと、まぁ、これが生き続けれた理由かな。あの転移先で俺は俺なりのチート入手し、ここまで上がったというところだ」
「チート? あなたがこの勇者たちと同じチートだと言うの? 笑わせないで」
そんな声とともに、鈴の背後から一人の少女が現れた。
「ほう……精霊か。お前、名前は?」
「……っ! ファイ……よ……」
いつもなら堂々としているファイだが、今回は何故か鈴に隠れ気味だった。
「そんなに怖がるんじゃない。お前は鈴の精霊なんだろ? 『命令』はしないから安心しろ」
「……私に拒否権はないと言いたいの?」
「俺は『命令』はしないと言っただけだが?」
「本当に馬鹿げてる……あなたにとって『お願い』だったとしても、私にそれを拒否できる程の力はないって知ってて言ってるんでしょ?」
強斎は鼻で笑うだけで何も答えることはなかった。
「興味本位で顔を出すんじゃなかったわ……これがユウシやリンと同じ『チート』なわけないでしょうが……」
「えっと……ファイ? どういうこと?」
勇志の問いに、ファイはヴァルキリーを見ながら答える。
「重力操作に物質硬化。ユウシはこの二つを同時に発動できる?」
「重力操作は闇系統の魔術で、物質硬化は土系統の魔術で出来ないことは――――あ」
「そう、この時点でおかしいのよ。魔術自体、同時に発動するのは極めて難しい。出来る人もいるけど、基本的に同じ属性のみ……それに加えて……」
ファイはヴァルキリーに手をかけて持ち上げようとするが、やはりピクリとも動かない。
「本当にふざけているわ……ここまでの出力をどうやったら出せるとでもいうの? それを支えている地面の方も……。それを同時に無詠唱で? 必要な魔力があっても、この領域に達するまで何千年かかると思ってるの?」
ファイは小刻みに震えていた。
何故震えているのか、ファイ自身にも理解出来ていない。
そんなファイが、恐る恐るヴァルキリーに質問する。
「ねぇ、ヴァルキリー。あなたのステータス見せてもらってもいいかしら?」
「別にかまわん。私自身、隠蔽系のスキルは持ってないから適当なステータス解析でわかるだろう」
「えっ、でも僕が解析した時は見れませんでしたよ?」
「それはあの鎧の効果だな」
勇志がそんな会話をしている間に、ヴァルキリーのステータス解析が終わったようだ。
ギルドカードにそのステータスが映し出された瞬間、ファイは大きく目を見開き、唇を震わせる。
「何よ……何なのよこのステータスは……!? ふざけるのも大概にしなさいよ!!」
「そんなに怒鳴られても困るだけなんだが」
ヴァルキリーは本当に困った顔をしていた。
勇志たちも気になって、ヴァルキリーのステータスを覗く……覗いてしまった。
#
ヴァルキリー
LV180000
HP 18745390/18745390
MP 10820160/10820160
STR 1120761
DEX 1016223
VIT 1086032
INT 1008892
AGI 1100161
MND 1034962
LUK 180
スキル
剣術LV80
投擲LV75
体術LV80
盾LV80
調教LV90
状態異常耐性LV75
空間把握LV70
火属性LV73
水属性LV75
土属性LV74
風属性LV75
光属性LV88
闇属性LV65
HP自動回復速度上昇LV72
MP自動回復速度上昇LV67
限界突破
超越者
聖騎士
竜殺し
天使の威圧波動LV60
属性
火・水・土・風・光・闇
神々の加護(ユニーク)
最強の天使(???)
#
圧倒的なステータスに一同は唖然とするしかなかった。
そんな状況の中で、いつの間にか澪と離れていた強斎が口を開く。
「ヴァルキリーは竜王ですら倒すんだぞ? しかも戦ったあとのくせしてこの元気。っていうかノーダメじゃねぇか。……まぁ、強いのは当たり前だ」
「でも、これ……強いってレベルじゃ……! 精霊王様レベルじゃない! あなたもあなたよ! なんでこんなでたらめなステータスを持っている人を一瞬で拘束出来るのよ!?」
ファイの言葉に、強斎は小さく笑って答える。
「精霊王……か。残念だが、俺の知る本物の精霊王はこの程度じゃない」
「本物の……?」
「まぁ、その話はいいだろう。今はどうやって俺が生きてきたかの話のはずだ」
強斎は自分のギルドカードを取り出す。
「今から俺のステータスを見せる。それですべて理解するはずだ」
精霊王並みの実力者を一瞬で拘束する実力者。
そのステータスを見るのに、恐怖を感じるものもいた。
ヴァルキリーさん、本当はめちゃくちゃ強いんですよ?
奴隷たちと並ぶレベルで強いんですよ?
次回は遂に強斎のステータス公開……になるといいなぁ