93話 イザナミの頼み事っぽい
改めて思いました
……奴隷強い
「ラグナ……ロク?」
ヴェレスは考えこむが、いくら考えてもその『ラグナロク』という言葉に聞き覚えがないので、静かに首を横に振る。
「まぁ、そうじゃろうな。では、そこのエルフ。お主はどうじゃ?」
イザナミはベルクの方に目をやり、ヴェレスと同じ質問をした。
「俺も聞いたことねぇな。少なくともここ300年間はな」
「ふむ、お主だったら知っておると思ったが……役立たずだな」
「ひどくね!?」
そんなベルクを無視して、イザナミはヴェレスに再度質問する。
「ヴェレスよ、お主は魔神の存在は知っておるな?」
「は、はい。ありとあらゆる魔族を強化し、引き連れ、精霊王や神々と同等に戦ったが、最終的には破れて封印されたと……」
「一般的にはそう知られておるな」
「一般的……? 本当は違うのですか?」
イザナミは小さなため息をつき、微笑みながら口を開いた。
「いや、間違ってはおらんよ。違うとするなら、『同等』ではないことぐらいじゃな」
「それって……」
イザナミの微笑みが消え、ヴェレスにただならぬ緊張が走る。
「『圧倒的』じゃったよ、魔神の強さは。精霊王など虫を潰すように蹴散らし、神々も歯が立たなかったらしい」
「で、でも! 結果的にはその魔神を封印したんですよね?」
「そうじゃ。殺さなかったのは、あやつの力が強すぎて封印止まりになったらしいがな」
「……なぁ、神様よ」
今まで黙って聞いていたベルクが口を開いた。
「さっきから『らしい』って……神様、その場にいなかったのか?」
「……そのとおりじゃ」
「なんでだ? 俺が見たところ、神様は相当な実力だろ? 神様なら――――」
「妾が、力を与えたからじゃ」
「……は?」
イザナミは、もう一度力強く真実を言う。
「妾が魔神に力を与えたのじゃ。一つの地獄を終わらせるためにな」
「力を与えた? 地獄を終わらせる? どういうことだ?」
「一人の少女で遊んでおった外道な神に一泡吹かせようと思ってな。まぁ、その話はおいておこう。今話すことはその魔神の結末と、これからのことについてじゃ」
「「……」」
二人は少々戸惑いも見せたが、最終的には頷いた。
「魔神は圧倒的な強さで神々を蹴散らせていった。だが、それも最初のうちだけじゃった。とある上位神が現れてな……その神の姿に動揺したところを封印されたというわけじゃ」
「意外と呆気ないんだな」
ベルクが口を挟むが、イザナミは気にせず話し続ける。
「これにて魔神との戦争は終わり……だったはずなんじゃが、そうもいかなかったのじゃ。神はこの封印が解けるまで力を蓄え、その時が来たらこちらから仕掛けるように動いたのじゃ」
「神々から仕掛ける……? まさか……!」
ヴェレスの反応にイザナミは頷き、その事実を口にした。
「神々はもう一度その大規模な戦争を起こそうとしておるのじゃよ。魔神を……たった一人の少女を殺すために……『ラグナロク』をな」
「「…………」」
二人はしばらくの間無言だった。
イザナミもその沈黙をじっと待っている。
「えっと……一ついいですか?」
「なんじゃ?」
ヴェレスがそっと手を上げてイザナミに質問する。
「なんで……なんで私達にその説明をしたんですか? キョウサイさんがそう言ったんですか?」
「逆じゃよ」
「え?」
「強斎はな、『ラグナロク』を実現させようとしておるのじゃ。だから、お主らに止めて欲しいのじゃ」
「なっ、あいつが戦争を起こそうとしているだと!?」
イザナミはゆっくりと頷き、ベルクの問いに答えた。
「あやつの力は強大じゃ。恐らく、全ての神が束になっても一瞬で消されるじゃろうな」
「……は?」
「だが、あやつには決定的な物が足りん。それがない限り……あやつは弱いままじゃ」
「ちょっと待て、ちょっと待ってくれ」
「……なんじゃ」
ベルクはこめかみを押さえ、ゆっくりと深呼吸をする。
「今、『全ての神が束になっても一瞬で消される』と言ったよな?」
「そうじゃが?」
「あいつ……そこまで強いのか?」
「……お主、本当に役立たずじゃな」
イザナミは大きなため息をつき、話しを続けた。
「強斎はな、強いという範疇に収まるようなやつじゃないぞ。例えるならそうじゃな……お主らにとって、そこら辺にある紙切れ程度の感覚じゃろうな。大きさに違いはあっても紙は紙。妾たちなんぞ、ちょっと破れにくい紙程度じゃよ………………神だけに」
「マジかよ……あいつ、強い強いとは思っていたがそこまでとは……」
ベルクは深刻な表情で考え込み、とある疑問を見つけた。
「それほど圧倒的なのに弱いってどういうことだ? そもそも、なぜあいつは『ラグナロク』なんて戦争を起こそうとしている?」
「…………はぁ」
「どうした?」
「なんでもないわい。そうじゃな……まず、あやつが戦争を起こそうとしている理由からじゃな。まぁ、言ってしまうと遺伝じゃろうな」
「遺伝?」
「そうじゃ、あやつに流れる血が『ラグナロク』を望んでいるのじゃよ」
そこで反応したのはヴェレスだった。
「ま、待ってください! キョウサイさんは私が別の世界から呼び出した人です! この世界とは何も関わりが――――」
「お主の愛人もそうじゃよ。ヴェレスよ」
「っ!? ユウシさんが!?」
「この二人……いや、『澪』という娘を含めると三人か。こやつらは少なくともこの世界に関係しておるぞ」
「ミオさんまで!?」
イザナミはしっかりと肯定する。
「そして、強斎がまだ弱いと言ったことにも関係するのじゃ」
「「……」」
二人は緊張しながらイザナミの言葉を待つ。
神々を圧倒する強斎がまだ弱い理由。
それは――――。
「あやつが人間であるからじゃよ。強斎が人間である限り、『ラグナロク』を始めさせるわけにはいかぬ」
イザナミは数秒目を瞑って、再度口を開いた。
「あやつの中にはな、人間じゃない何かが眠っておるのじゃ。それが覚醒しない限りは……終わらない」
何が……とまでは言わなかった。
ただ、二人は雰囲気で察した。
このままでは大変なことになると。
「お主たちに頼んだ理由は、強斎がここに送ったという理由が一番大きいが……もうひとつあるのじゃ」
イザナミはヴェレスの方に目配りする。
「ヴェレス。お主の愛人も少なからず関係しておるのじゃよ」
「ユウシさんが?」
「うぬ、勇志に姉がおることは知っておるか?」
「え、まぁ……聞いたことはありますが、詳しくは……」
「あやつはな、小さい頃に姉を亡くしているのじゃよ」
「えっ……」
「そして、その姉こそが――――」
――――ズドォン!!
「がはっ!!!」
大きな爆発音が聞こえたと思ったら、次の瞬間には何かが飛んできてイザナミの背中に直撃した。
「神様!?」
ヴェレスが慌てて駆け寄るが、イザナミは手で制した。
「妾は問題ない……それより」
イザナミはぶつかってきた人を見る。
「おい、妾は客と大事な話をしておる。遊ぶならイザナギと遊んで――――」
イザナミにぶつかってきたのはイザナミの娘であった。
日本人のような少女はゆっくりと顔を上げ――――。
「邪魔……ババアは……どいて」
「っ!?!? どうしたんじゃ!? 一体何があった!?」
イザナミは気付いた。
いつまで経ってもイザナギが現れないこと。
これだけなら娘のイタズラという線を考えただろう。
だが――――。
「うふふ……こんなに強い人……素敵……」
この狂気に近い笑み、そして所々に見える傷。
イザナミは以前にも見たことがあった。
それは、強斎と手合わせをした時――――。
そう考えていると、どこからか声が聞こえてきた。
「その子、あんたの子供? 何よそのでたらめな強さは。加減を間違えたじゃない」
イザナミの娘はゆっくりと立ち上がり、とある方向をずっと見ていた。
三人も釣られてその方向を見ると、人が立っていることに気づく。
声からして女性だろう。イザナミがそう確信した瞬間に目を見開いた。
「ってうわ。私とそっくりじゃない……。あなた、何者?」
「なんで、お主が……ここに?」
そこには今のイザナミと全く同じ容姿をしている『ゼロ・ヴァニタス』だった。
そして、イザナミはそんなゼロを見て……とんでもない事を叫んだ。
「なぜお主がここにおる! 『鈴木優華』!!」
さて、色々と明かされてきましたね。
イザナミ何者だマジで…