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空下幻想談
作:荒也


「悪いな、クラウド。また一休みだ」
そう言ってオレは担いできた友人を岩陰に下ろす。一瞬そのつんつん頭が揺れてオレを見たような気も
したが、多分気のせいだろう。なんだかんだと強がってはいたが、結局寂しいのに違いない。
でも、もうすぐ。
もうすぐだってのによ。
後ろから複数……以上か。足音と車の音、前方からは神羅製の軍用ヘリ。状況もコンディションも最悪
だ。ついでと言っちゃなんだが、空模様も見るに耐えない。それでも不思議と手は剣の柄に掛かる。
アンジール、オレはもうどうなってもいいんだよ。けどさ、こんな終わり方じゃクラウド、あんまりじ
ゃないか。いい奴なんだぜ。
こいつだけでも助けてくれよなと幅広の剣に囁きかけて、額をつける。その間にも目の前には神羅の一
般兵どもが走って集まるが、オレは呑気にアンジールの言葉をなぞりながら、気を落ち着ける。うん、
1stの心構えって奴?そんなのを呟いて前を見据えた。



時々、ふとそう、想うことがある。ううん。いつも、常にそう、想ってる人がいる。
変なひと、だって、屋根突き破って落ちてきたの。おかしいよね。
「おお、やっぱりここに居た!」
後ろから、声。振り返るとたった今まで考えていた人がそこで満面の笑みを湛えている。それをみると、
つられてわたしの顔もほころんだ。さっきまでタークスに追われてたのは、内緒。嫌な気分も吹き飛ん
だから、もうどうでもいい。
彼の空けた穴から降る光が、丁度良く教会の祭壇の前――白や黄色の、花にそそぐ。考えたこと無かっ
たけど、この景色ってなかなか綺麗だ。ザックスが言うみたいに、彼の故郷の花はきっと日の光を一杯
に浴びて、もっと綺麗に違いない。
「なあに?」
「うん、ほら。暇だったからさ」
そう言って照れたように笑う。
「ふーん。暇じゃなかったら、来ないんだ」
「いや来る。それとこれとは全く全然別」
いやにはっきりした口調で即答する彼が、なんだかおかしい。つんつんした黒髪が、何時の間にかわた
しの横で日に当たって輝いていた。
ザックスはよくここに来て、空を見上げる。時には、わたしより早く来てしまって、待っている間ずっ
とそうしてぼけっとしていることがある。わたしは怖くてそんなことできないけど、彼にとっては唯一
故郷とつながっているのが空なのだそうだ。いつも同じ色をしてて、いつも見上げれば故郷の情景が目
に浮かぶ。そう言うのって、なんだか素敵だと思う。わたしが言うとやっぱり照れ笑いしながらエアリ
スも見てみろよと言うのだ。
「今日は、なに?」
「何だと思う?」
「なに?」
「エアリス……実はオレ」
言うなり、真剣な顔が迫ってくる。かっこいい顔してるから思わずどきどきしながらも、わたしは身を
引いた。もしかしてなにかここに来れなくなるとか、そういう話なのかな……。
不安が胸を締めた、直後だった。
「会いたかっただけ!」
嬉しさ半分、悔しさ半分。にっこり笑った彼の頬をわたしが殴り飛ばしたのは、言うまでも無いと思う。
派手にこけたザックスの頬に赤くあとが付いてるのを見たら、ちょっと後悔したけど。首を傾げて「も
しもーし」と声を掛けると、彼はむっと顔をしかめて起き上がった。
板が所々剥げて、土なんかで散らかり放題の床は、本来の教会の神聖さを全く失っていたけど、これは
これでおつなものだ。ザックスはズボンの土を払いながらそんな事を言って笑う。もう何を信仰してい
たとも知れない、前時代的な遺産。わたしのお気に入りの場所だったここは、何時の間にか大切な場所
になっていた。お花、育つし、何より彼に会えるから。
髪型を変えて顔が良く見えるようになったザックスは、あれ以来決してわたしに泣き顔を見せないから、
とても心配ではあるけれど。
「似合ってる、と思うよ」
「へ?何が?」
「髪」
「今更じゃね?やっと見慣れてくれた?」
うん。
笑み。自然と零れた。嬉しいんだと思う、彼が、笑うと。ザックスもまた、そう思ってくれていたら、
きっとわたしいつ死んだって良い。
「戦争、嫌いだけど、ザックスの夢がかなえば良いと、思うよ」
彼の顔が、少しだけ強張った。あの日何があったのか彼は話してくれないけど、なんとなく伝わる、大
切なものを失った痛み。お母さんが死んだときのわたしの痛みによく似ていた。
一杯泣いた、だから多分、強くなれるんだ。
あえて、だから、わたしはもう一度言った。
「夢。叶うと、いいね」
ザックスは少しだけ躊躇い、また、あの眩しい笑顔を作る。
「ああ」
ミッドガル、お花で一杯にして、お財布、お金で一杯にして。いつか一緒にプレートの上に買い物に行
くのだ。それがわたしのささやかな夢。可愛い服を買って彼の腕に抱きついて、いつか一緒に空を見上
げられるくらい、確固として強くなって。
今はまだ、あの穴さえまともに見上げられないけれど。
「ね、もしも、だよ?」
「うん?」
一歩、二歩。彼を置き去りにして歩を進める。花の横を通り過ぎながら。
「もし、ザックス、英雄になって、そのときわたしがまだここに居たら」
振り返る。
日の光を一杯に浴びて。ザックスの目にはいま、どんな風にわたしがうつってるんだろう。光の道を隔
てて、彼の困惑した表情が見えた。
「そのときは、ここからわたし、連れ出してくれる?」
間抜け面、と言うのだろうか。一瞬そんな表情を覗かせた彼は、にっと笑ってわたしに手を差し出した。
「何処行きたい?エアリス」

ささやかな願いは、23個。でも今は、本当に1個だけなの。



「ささやかな願いは23個。だけどきっとザックスは覚えられないから、一つに纏めます」

彼女の声が、隣で聞こえた気がした。……わかってるよ。クラウドだけなんてかっこいいこと、ほんと
は考えてねえんだ。死ぬのも覚悟して戦っているこの体は、それでも膝を折ろうとはしない。それって
さ、多分まだ生きていたいからなんだ。最後の手紙ってどういう意味だ?まだ聞いてない。
血で濡れた柄を握りなおす。
4年って何だよ?早く行かなくちゃ。
渾身の力で重くなったバスターソードを振り上げ。
約束を果たしに、エアリスのとこへ。

―――もっと、一緒に居たいです

オレもだよ畜生ッ!
振り下ろした剣は地面に刺さり、抜こうとして時間をかける腕に、足に、背中に銃弾の雨が降る。まっ
たく用意がいいことだ。
いつかはそう、オレもゼフィロスたちに混じって祝杯を上げて、堂々とエアリスを迎えに行く予定だっ
たんだ。ことごとく狂ったのはいつからだ?なあ、クラウド。お前だってこんなこと望んだはず無い。
力なく仰向けに倒れていたオレは、ふと岩陰においてきた親友の名を呼んでみようとする。せめてお前
が会ってくれよ。
銃声が続くが、痛みなんてとっくに無いしこんなぐだぐだ考えるのはオレらしくない。だから。
目を閉じる。
ちょっとだけ我侭を言えば、せめてクラウドだけは生き残って、んで、まだオレの息があるうちに剣を
託させて欲しい。アンジール、こんなとこであんたの誇りと夢、消すわけにいかないから。
この剣と一緒に、エアリスとの約束もあいつが受け取ってくれるかな、なんて、多分思ってるんだ。
多分。な。



通り過ぎる人波の中に彼の姿を見た気がした。
ぶつかって倒れたわたしを助け起こしてくれたのは全然別の人だった。彼はむっと顔をしかめていたが、
籠の中にある花を見て、珍しいなと呟いた。今となってはもう、これも夢のあとになってしまったけど。
「お兄さん、買わない?たったの1ギルよ」
彼は少し考えてから、相変わらずのしかめっ面で頷いた。
本当は、知っていた。
それを見たわたしの胸に、ずっしりと重かった何かが消えていく感覚が、した。
本当は、知ってたの。
――あのひとは、抱いてた大志と一緒に飛んでいったんだってこと。
わたしの手には夢のあと。教会には二度と直らない花売りワゴン。
走り去った彼の背負っているそれを見て、ああ、あんなとこに居たのかと、納得した自分に気がついて
おかしくなった。約束、果たしに来てくれた。

初めて見た空は、何処までも青かった。初めて出来た仲間といっしょに、わたしはミッドガルをあとに
して。


ザクエア的なものがかけたので個人的に満足してます(ぇ













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