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これまで、一話分がかなりの長さで掲載し、読んでいただいた方には
苦労なさった方もいらっしゃったと思います。申し訳ありませんでした。
それで、読者の方には大変ご迷惑をおかけしますが、改めて全部を短く
分けることにしました。連載途中でややこしいことをして申し訳ありません。
更新もマメに頑張りますので、どうかお付き合いお願いいたします。

ロング・ウェイ・ホーム
作:みはる



第三章 その3


    3


 瀕死の重傷を負った杉原信一刑事が鉾流橋のたもとで発見されてから、すでに五日が
過ぎていた。
 もちろん、西天満署員の懸命な努力はずっと続いていたが、残念ながら捜査状況にほとんど
変化はなかった。
 最近の杉原刑事の行動に不審点及び不明点が特に見当たらず、また事件当日は杉原が
非番だったせいもあって、杉原が何らかの偶発的なトラブルに巻き込まれたのではないかとの
考えが捜査員たちの間で主流となり始めていた。しかしこれはあくまで杉原の普段の模範的な
刑事としての印象が彼らをその結果に導いているのであって、プライヴェートの方に目を
向けると、実際まだ何の結論も出ていないのだった。

 金曜の朝七時、鍋島は全身酒漬けで出勤した。
 前日は例の休暇の日だった。進まない捜査の状況から、同僚たちは彼が休暇を返上する
のではないかと一時は期待もしたが、その気配がまるでないと知るや黙って彼を休ませた。
腹が立ったが、同時にこんな労働環境のもとだからこそ彼のその姿勢は貫かれるべきだと
考えていたからだ。鍋島自身もそんな彼らの思いが分かっていないわけではなかったし、
多少の嫌味も黙って聞いた。
 そして休んだ翌日は必ず、こうして早めに出勤することに決めていたのだが、さすがに
今朝はきつかった。

「──巡査部長、昨日はだいぶ飲まれたみたいですね」
 ロッカー室で後輩の刑事に声を掛けられた鍋島は、だらだらとした態度のまま振り返った。
「臭うか。悪いな」
「ずいぶん盛り上がったみたいですね。お祝い事ですか」
「うん、結婚式。昼間からずーっと、夜中の二時まで飲み続けや」
 鍋島は顔をしかめて頭を叩いた。
「芹沢巡査部長も来られてますよ」
「え、もう?」
「ええ。って言うか、ゆうべは泊まりだったみたいですよ。さっきここで会ったとき、うちに
帰って着替えてきたって言うてましたから。それで、射撃練習場に行かれましたけど」
「ふうん」
 生意気な奴だ、と鍋島は心の中で芹沢に毒づきながら後輩を見上げた。
「なあ、悪いけど部屋に上がったら課長に俺らが射撃場にいるって言うといてくれへんか。
またサボってると思われるとうるさいし」
「分かりました」
 鍋島はロッカー室を出ると拳銃を保管室へ取りに行き、それから所轄署としては設置されて
いることがめずらしい射撃練習場に向かった。



 練習室では芹沢が一人で標的に向かって銃を構えていた。
 鍋島はゆっくりと近づき、彼の後ろまで来るとそばにあった丸椅子に腰を下ろして腕を組んだ。
芹沢も鍋島に気づいていたが、黙って引鉄を引き続けた。射撃の腕にあまり自信はなかった
ので、三発に一発くらいは弾痕は僅かに中心を逸れた。
「ちょっと上向いてる」
 しばらくして鍋島が言った。芹沢の構える銃口のことを言っているのだった。
「そうか。まだ直らねえか」芹沢は前を見たまま答えた。
「続けて撃つとどうしてもな」
 鍋島は立ち上がり、芹沢に並ぶと自分の銃を抜いた。その手をまっすぐに伸ばし、左手を
手首に添えて狙いを定めて撃った。弾丸はほとんど同じ場所に当たり、標的の右肩や頭、
左胸には大きな穴が空いた。
「さすが」と芹沢は嬉しそうに言った。「おまえと組んでる限り、少しくらい俺がへたっぴぃ
でも安心だ」
「俺はおまえの護衛やない」
 鍋島は腕を下ろすと芹沢に向き直った。「……泊まりやなんて、俺に貸しを作ったつもりか」
「何の話だ」
「俺が休んでる分のフォローしたんやろ」
「なんだよ。おまえが休むことがそんなに損失だってのか?」
 芹沢はふんと笑って鍋島に振り返った。「おまえが休もうがどうしようが、その尻拭い
なんて俺の知ったこっちゃねえ。フォローが要ると思うんなら、そりゃあ出て来た後のてめえ自身の仕事だろうが」
「じゃあなんで泊まった」
「新しい仕事があったからさ」
「新しい仕事?」
「ああ。それも、かなり面白ぇ仕事だぜ」
 芹沢は椅子に腰掛けた。「五日経っても状況はほとんど同じだ。杉原さんの容態と同じで、
良くも悪くもなってねえ。高校生カップルが公園で見たリンチの被害者が杉原さんらしいって
ことは、現場と発見場所の位置関係からしてほぼ間違いねえけど、はっきりと面割りできてる
わけじゃねえ。例のマンションの喧嘩騒ぎとの接点もまだ出てきてねえし、ちょっとした
八方塞がりってわけだ」
 鍋島は溜め息をつくと壁に背をつけた。「まあな」
「それでだな。とうとうやらなきゃならなくなっちまった」
「過去問か」
「そう」
 過去問とは、この二人の間だけで通じている隠語のようなもので、容疑者なり被害者なり、
あるいは事件現場周辺で過去に起こった事件について調べる、という意味だ。この作業が、
受験勉強において過去に出題された問題を一つ一つ解き、その出題傾向を見抜いて対策を
練るという勉強方法と地味さの点で通じるものがあるので二人はそう呼んでいるのだ。
今回の場合、杉原が過去に携わった事件について捜査資料をもとに一つ一つ調べていくという
ことである。
「地取り、鑑取り、敷鑑の初動はずっと続いてる。けどまだ何も出てこねえ。もちろん、
結論を出すのはまだ早いけどな。でもさっさと別の可能性にも取りかからねえと、時間が
ねえんだ」
「いつまでも本部に黙ってられへんってことか」
「そう」
「で、その過去問を振ってこられたんか、おまえが」
「俺と北村と湊さんと──今日からはおまえもだぜ」
「……なるほど。確かに面白い仕事やな」
「夜通し汚ねえ字の資料とにらめっこじゃ、こうやって拳銃の二、三発でも撃ちたくもなるだろ」
 そのとき、壁に掛かっている内線電話のベルが鳴った。
 真下に座っていた芹沢が受話器を取った。「はい」
「課長か」と鍋島は声をひそめた。
 芹沢は首を振り、相手の話を聞いている。「鍋島? いるけど」
 その言葉に鍋島は顔をしかめた。すると、思い出したように二日酔いの頭痛が襲ってきた。
「分かった。すぐに行かせるよ」
 そう言うと芹沢は受話器を戻し、鍋島に振り返った。「上にお客さんだってよ」
「誰や、こんな朝早よから」
 芹沢はにやりと笑った。「野々村さん」
「……え」と鍋島は急に不安げな表情になった。「何の用やろ」
「知らねえよ。ほら、早く行ってこいって」
 芹沢は手を振って追い払う仕草をした。鍋島は頼りなく頷くと、拳銃を持った右手を
だらりと下げながらゆっくりと歩き出した。
「鍋島」
「なに」
「おまえ、すっげぇ酒臭ぇぞ」
「へぇ……」と鍋島は心細い声を出した。
「ま、仕方ねえよな」
 鍋島は小さく舌打ちして、疲れたような足取りで出ていった。
 芹沢はその後ろ姿を見届けてから、立ち上がって再び標的に向かった。

 刑事課に着いた鍋島は、植田課長に軽く会釈すると来客用ソファに座っている真澄に視線を
移した。
 真澄は迷子の子供が迎えに来た親を見つけたときのような顔で鍋島を見ていた。
 やがて真澄は立ち上がると弱々しく言った。
「勝……鍋島さん、ごめんね……」
「どないしてん」
 鍋島は溜め息混じりに呟いて、それから穏やかに微笑んだ。



 真澄を向かいの取調室と同じ並びにある小さな会議室に案内したあと、鍋島は一旦刑事課に
戻って行った。
 真澄は入口のすぐそばで立ったまま、バッグの紐をきつく握り締めてじっと彼を待った。
なぜだか分からなかったが、腰を下ろすと鍋島との距離がずっと開いてしまうように思えて
不安だったのだ。
 眠れぬ一夜を過ごし、朝日が部屋から闇を追い出すと同時に身支度をして京都の家を出て
来た。母親はこんなに早くからどこへ出掛けるのかと心配したが、ゆうべ彼女が従姉の麗子に
会いに行ったのを境に明らかに様子が変わったのを知っていたので、きっと喧嘩か何かをして、
今朝もそれなりの覚悟をして麗子に会いに行くのだろうと思ったらしく、あえて黙って
送り出してくれたのだった。

 真澄はゆうべのことを思い出した。
 もちろん、麗子が自分に言ったことのすべてが彼女の本心だとは思っていなかった。お互い
意地になっていたし、わざとひどい言葉を選んで口にしたのも分かっていた。ただ、真澄に
とって一番腹が立ったのは、帰り際に麗子が投げ掛けてきた言葉だった。

──あんた、本当に勝也のことが好きなの? あたしへの競争心でそう思ってるだけなんじゃない?

 なんてこと言うんだろう。そう、あたしはほんまに勝ちゃんのことが好きなのに。麗子への
競争心なんて言われてカッとなって、すぐには言い返せなかったけど、それからあの言葉が
ずっと心に引っかかって、思い出すごとに腹が立った。あんなことを言った麗子も、ちゃんと
答えられなかった自分にも。

 だから、それをはっきりとさせたくてここへ来たのだ。そして麗子の無神経な言い草を
鍋島にも怒って欲しかった。競争心などからではなく、心の底から想いを寄せる彼には、
自分の寂しさを分かっておいて欲しかったのだ。

 ノックの後ドアが開いて、鍋島が現れた。両手にコーヒーの入った簡易型のカップを持っていた。
「あ、座って」
「あ、ええ」
 真澄はようやくバッグの紐を肩から外し、ぎこちない足取りでロの字型に並べられた机の
手前の一つの席に腰を下ろした。
 鍋島はコーヒーを真澄の前に置くと、もう一つを持って彼女が座っているのとは違う右側の
机の奥の椅子を引いた。そして机の反対側の端に置かれていた灰皿を取って椅子に戻り、
コーヒーのそばに置いた。
「悪いな、こんなとこで。外へ出た方がええんやろうけど」
 鍋島は静かな口調で言った。
「ううん、急に来たこっちが悪いんやし。忙しいんや……ね?」
「まあな」と鍋島は軽く笑った。
 真澄は俯いた。その沈んだ表情を見ながら、鍋島は彼女が何か相談ごとを打ち明けに来た
ことを察した。だからもっと近くに座って話を聞いた方がいいのだろうなと思った。しかし、
彼は自分の酒臭さが気になった。今の彼女の様子では、酒の臭いをプンプンさせている自分を
非難するようなことはないにしても、普段のように笑ってやり過ごしてくれることも期待薄
だった。

 鍋島は煙草に火を点け、足を組んだ。
「で……今日はなんや?」
「実は……」と真澄は上目遣いで鍋島を見た。
「言うてみ」
「あたし……麗子とちょっと、もめてしもて」
「もめたって、喧嘩か?」
「うん、まあ」
「喧嘩って言うても、二人ともええ大人なんやから、そのうち元に戻るやろ」
「あたし、ひどいこと言われたのよ」
「ひどいこと?」鍋島は顔を上げた。「何て?」
「──いろいろ」
 鍋島はちょっと呆れていた。そんなことでこんなに朝早く、わざわざ京都から来たのか。
「何を言われたんか知らんけど、いちいち気にすんな。何でも遠慮なしに言うのがあいつの
性分やし、かと言ってあいつが本気でひどいこと言うような奴やないってことぐらい、真澄が
一番よう分かってるのと違うんか?」
「麗子は……!」
 と真澄は思わず声を上げたが、すぐにそのトーンを抑えて言った。
「……麗子は、勝ちゃんが思ってるような人と違うわ」
「なんやそれ」
「あの人、つき合ってた彼氏がいたんよ」
「ああ」
「知ってたの?」真澄は鍋島を見た。
「何となくな」
「それで、その人が浮気してたってことが分かって……別れることになったの」
「……まあ、そうなるか」
 鍋島は煙を吐いた。この前、部屋にやってきた麗子の様子から、そのくらいのことはとうに
想像がついていたし、特に今さらどうとも思わなかった。でもそれが何で従姉妹同志の喧嘩に
なるんや。姉妹同然に育ってきた従姉のこととはいえ、人の別れ話を躊躇いもなく話す真澄に
いささか抵抗を感じたが、鍋島はとりあえずは彼女の話を聞くことにした。

「──麗子はね。その人に一緒にいても安らげへんって言われてフラれたのよ。それでも、
たかが恋愛に自分を変えるなんてことできひんって言うの」
「ふうん」──あいつらしいと言えばあいつらしいが、きっと本心やないな。
「そんなことやから他の女に取られるのよ」
 鍋島は僅かに眉をひそめた。
「おまけに、そのこと麗子は知ってたみたいやわ。それで尾行みたいなことしたらしいけど、
結局何も言えへんままに、向こうから別れようって言われたのよ。カッコつけてるうちに、
愛想尽かされたんやて」
「……あいつがおまえにそう言うたんか」
「そうよ。そう言う愚痴、あたしに聞いて欲しかったんやと思うわ」
 真澄は僅かに軽蔑しているようなニュアンスを含ませて、妙にさばさばした言い方をした。
それから澄まし顔でコーヒーを飲む真澄を、鍋島は黙って煙草を吹かしながら見つめていた。
「最初はすっかり落ち込んでたから話を聞いてあげたのに、最後にはたかが恋愛なんて言うん
やもん。あたしが人を好きになることって大切よって言うたら、綺麗ごとしか言わへん
ガチガチの箱入り娘さんなんかには分からへんって」
「へえ」と、鍋島は微かに笑った。
「ひどいと思わへん? あたし、麗子にそんな風にしか見られてなかったんかと思たら、
情けなくなって。がっかりしたわ」
 真澄はもっともらしく首を振り、そして鍋島を見た。
「勝ちゃんなら……あたしの気持ち、分かってくれるでしょ?」
 その問い掛けには答えず、鍋島は煙草を灰皿で潰すと大きく息を吐いた。
「真澄、話はそれだけか」
「えっ……」
「それをわざわざ言いに来たんか」
「わざわざって……」
「おまえ、あいつの従妹やろ?」鍋島は真澄を見た。「あいつがどういう気持ちでおまえに
その話をしたんか、それを考えへんのか?」
 真澄は黙り込んだ。明らかに戸惑っていたのだ。
「おまえにしか言えへんことやったって、考えられへんのか?」
「あたし……」
「正義感の強いおまえのことや、そんな言い方する麗子のことが気に食わへんのはよう分かる。
けどそれをあいつに諭す前に、従妹として友達として、あいつに掛けてやる言葉があったんと
違うか」
 鍋島はいくぶん強く言った。「俺はそう思うけど」
 そして煙草をもう一本取り出した。
「確かにあいつが言うた言葉もひどかったやろう。うん、言い過ぎやと思うよ。けどおまえは
そのことだけに腹を立てて、その前にあいつが受けた傷のことは知らん顔か」
 鍋島は火を点けたライターを机に放り出した。「おまえの正義感てそんなもんか」
 真澄は自分の期待とは正反対の鍋島の反応に大きく動揺していた。何とかしなくてはと
必死で考えを巡らせたが、こうなってしまうと適切な言葉が見つけられないでいた。

「それと、もう一つ言うとくけど」
 鍋島は静かに、しかし強い口調で言った。
「え……」
「人の、それも女の失恋話をぺらぺらと他人に喋るな。聞いた人間がそいつのことどう思うか
なんて分かるわけでもないのに。従妹やからというて、そんな勝手が許されるんか?」
 真澄は突然胸が痛むのを感じた。まさに自分がそれを目的にここへ来たのだと気づいた
からだ。
「まあ別に、俺は何とも思わへんけどな」
 鍋島に強く言われたショックと意地の悪い自分への恥ずかしさで泣き出したい気持ちに
なりながら、真澄は唇を噛んだ。
「悪いけど俺、仕事があるから」
 と鍋島は壁の時計を見ると立ち上がった。「お嬢さんらの口喧嘩につき合う暇があったら、
早よ捕まえなあかん奴らがぎょうさんいてるんや」
「ごめん……」
 真澄はふらりと立ち上がると、鍋島を見ることなく虚ろな足取りで出ていった。

 ドアが閉まった瞬間に鍋島は顔をしかめて俯いた。明らかに言い過ぎたのだった。そして
目の前の椅子を蹴り飛ばした。

 部屋を出た真澄は、二、三歩進んでその場に立ち尽くした。
 鍋島が怒ってしまった。自分が怒らせてしまった。何が悪かったのだろうと、そんな疑問が
頭を駆けめぐっていた。
 朝早くにここまで来て、自分はなぜこんな気持ちにならなければいけないのか。何を期待
していたのか。
 ……分かっていたはずなのに。
 ぼんやりした頭のままで顔を上げた。すると、向かいの刑事課のデスクにいる一人の男が
自分を見つめているのに気づいた。鍋島と組んでいる、芹沢という刑事だ。
 芹沢は頬杖をついたまま、自分に気づいた真澄にゆっくりと首を振って見せた。
 真澄ははっとした。涙が頬を伝っているのに気づき、慌てて両手でそれを拭った。
 泣くなよ、と彼は教えてくれたのだ。
 真澄は小さく頷いた。これ以上ここにいるべきではないことが分かって、小走りで廊下を
駆けていった。

 やがて鍋島が刑事部屋に戻ってきた。係長のデスクにある出勤簿に判を押し、自分の席に
着く。上着を脱いで椅子に掛け、肩に着けていた拳銃の入ったホルスターを外していると、
隣の芹沢が報告書を書きながら言った。
「いい歳こいて、女を泣かすなよ」
「そうか……泣いてたか」
「そうかじゃねえだろ」芹沢は鍋島に視線を移した。「こんな朝っぱらからわざわざおまえの
ところに来てんだ、よほどの話があったんだろう?」
「たいしたことやないて」
「おまえのそういう考えが、あの娘を泣かせてんじゃねえか」
 芹沢は腕を組んで椅子に背を預けた。「おまえ、あっちの気持ちは分かってるんだろ?」
 鍋島は答えなかった。黙って煙草に火を点けている。
「おまえのことが好きなんだぜ」
「……分かってるよ」
「だったらそれなりの接し方ってもんがあるだろうが」
「それなりって?」
 鍋島のとぼけた言い方に、芹沢は思わず舌打ちした。
「優しくしてやれってことさ。おまえに甘えてるんだよ」
「そんな言うんやったらおまえがしてやれ。そういうの得意やろ」
 鍋島は苛立ったように言った。
「いいのか?」
「え」
「俺が優しくしていいのかって訊いてるんだ」
 芹沢は言うと口の端だけで笑った。「おまえがそう言うんなら、俺は遠慮しないぜ。
とことん優しくしちゃうよ?」
「……冗談や」
 そう言って俯く鍋島を見て、芹沢はふんと鼻を鳴らした。
「思ってもいねえこと言うんじゃねえぞ。おまえもあっちと同じ気持ちなんだろ?」
「………………」
「なんだよ、またとぼけんのかよ」
 鍋島は煙草の煙をふうっと吐くと、それから独り言のような小声で言った。「分からん」
「分からねえ?」と芹沢は片眉を歪めた。「てめえの気持ちだろ」
 鍋島は呆れ顔の芹沢を見て、自分も情けなさそうに笑って言った。
「……どうなんやろ?」
「知るか」
 芹沢は言い捨てると報告書に戻った。












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