第8話 そのココロは、彼の為に。side-アヤネ
「・・・アヤネ。話が、・・・話があるんだ。」
どくん、と脈打つ心臓。
彼は、何を言おうとしているんだろう。
ゆっくりと、アオイくんの方に振り向く。
振り向いたその時に、心臓がより一層高鳴った。
夕暮れ時。
アオイくんの顔が夕陽に照らされ赤く見える。
「・・・どうかした、の?」
私の声が、まるで別の人が喋っているように、私達以外いない、喧騒の中から外れた一角に響いた。
そしてまた、心臓が高鳴る。
アオイくんは、一体何を言うつもりなんだろう。
もしかしたら・・・と、自分が一番望んでいる答えが私の頭をよぎった。
マンガの見すぎ・・・なのかな?
そんな事を思いながら目線をあげると、彼の口が、言葉を紡いでいた。
「アヤネ・・・。僕は、君の事が好きなんだ。・・・ずっと、昔から・・・」
その言葉を聞いた瞬間、私の周りの一切の音が消え去った。
耳鳴りさえする様な静寂。
私と、彼を包むその空間は紅く染まり、ただそこには、私と、彼だけしかいない世界が広がる。
・・・なんで、だろう。
ずっと、ずっと、私が待ちわびていた言葉。
彼の口からは、絶対に聞けないと、そう思っていた言葉。
私から、言ってしまおうとすら思っていた言葉。
・・・すごく、嬉しい。
・・・それなのに、なんで私の視界は、こんなにも霞んでいるの?
目が、熱い。
雫が、こぼれ落ちる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
こんなにも嬉しいのに、私は涙を流している。
「ふっ・・・うぅっ・・・うぁぁ・・・あぁっ・・・ふぇぇ・・・」
意図せず、私の口から漏れ出す嗚咽〈おえつ〉。
紅く染まった空間に、響き、広がり、溶けていく。
「アヤネ!?どうしたの?どこか怪我した!?」
霞んだ視界の中でも鮮明に映るアオイくんの顔。
ふふっ・・・アオイくんが困った顔してる。
頭では笑っている。
でも、涙は溢れ続ける。
「ちっ・・・ちがうの・・・私っ・・・嬉しくてっ・・・」
そう。
これは、「悲しい」涙じゃない。
これは、「嬉しい」涙なんだ。
彼との距離は、2メートル。
少し、走る。
とんっ
アオイくんの胸に飛込む。
アオイくんの体は、男の子の中では小さい方らしい。
・・・でも。
でも、今、アオイくんに包まれている。
今のアオイくんは、・・・とても、大きい。
そして、私も言おうと思っていた事を口に出す。
そう。ずっと、ずっと、伝えたかった言葉。
「あのね?・・・私もっ・・・私も、アオイくんの事が、・・・好きっ・・・」
伝えた・・・
やっと伝えたの。
助けてくれた、あの時から、ずっと言いたかった言葉を。
アオイくんは、私を抱き締めながら言った。
「ありがとう・・・アヤネ。ありがとう・・・」
アオイくんの口から紡がれる、「ありがとう」。
それが、どんな「ありがとう」かは分からない。
けど、その気持ちは、アオイくんの身体を通じて、私の中に流れ込んできた気がした。
言葉で返す代わりに、私はアオイくんを、強く抱き締める。
この気持ちが伝わったかは分からない。
でも、きっと伝わったよね。
アオイくんの温もりを感じていたら、自然とそう思えたんだ・・・
夕陽が、この空間を紅く染めあげる。
ここには、日常の喧騒はなく、切り取られた、私達だけしかいない世界が、確に存在している。
アオイくんのライトブルーのその瞳は、夕陽に照らされ宝石の様に輝いている。
繋がりあっている。
今、この場所、この空間、この世界でーーー
感じられる、鼓動の音。
とくん、とくん、と。
今ここで、いつまでもこうしていたい。
そんな想いを、言葉に表そうとして、顔を上に向けると、アオイくんと目が会う。
なんでだか分からないけど、彼と同じ事を考えている様な気がした。
そして、それぞれの想い、しかし、一つの想いを同時に口にした。
「「これから、ずっと、ずっと、一緒に居ようね。」」
|