第7話 夕暮れの紅に染まる雫。side-アオイ
「・・・アヤネ。話が、・・・話があるんだ。」
思わず呼び止めてしまった・・・
いいのか?僕。
ここで何もかも言ってしまえば、今まで築き上げてきたモノが、全て崩れさってしまうかもしれないんだぞ?
もう、話はおろか、顔を会わせる事すらなくなってしまうかもしれない。
アヤネが、ゆっくりとこちらを振り向く。
血が凄まじいスピードで巡って、全身が痛いように感じる。
その中心にある心臓なんかは、既に破裂しそうだ。
今、自分がどこに立っているのかさえ分からなくなってくる。
夕暮れ、人通りの少なくなった道路の一角に、アヤネの声が響く。
「・・・どうかした、の?」
アヤネ自身、なんで呼び止められたのか分かっていないようだ。
分かられても困るんだけど。
そして僕は言う。
今までの、そしてこれからの、僕とアヤネの、全ての関係を変えてしまう、その言葉を。
「アヤネ・・・。僕は、君の事が好きなんだ。・・・ずっと、昔から・・・」
時が、止まる。
いや、そう感じただけかもしれないけど、僕は確に、感じたんだ。
言うべき言葉を言ったという達成感。
これからどうなるか分からないという、不安感。
僕は、アヤネからの言葉を待った。
長い、永い。
どのくらいたったのだろうか。
数十秒か、数分か、数十分か。
やがて、アヤネの表情を見ようと顔をあげるとーーー
涙を流している、アヤネの姿。
「ふっ・・・うぅっ・・・うぁぁ・・・あぁっ・・・ふぇぇ・・・」
「アヤネっ!?どうしたの?どこか怪我した!?」
普通に考えれば、怪我なんかしてない事はすぐ分かるのだけど、僕はその涙を見て、今まで生きてきた中で一番動揺した。
「ちっ・・・ちがうの・・・私っ・・・嬉しくてっ・・・」
嬉しい?
どういう事なんだ?
とんっ
アヤネの顔が、僕ね肩にもたれかかる。
あぁ、アヤネって、こんなに小さかったんだ・・・
165という低身長よりも更に低いアヤネが、僕に抱きついてくる。
「あのね?・・・私もっ・・・私も、アオイくんの事が、・・・好きっ・・・」
アヤネのその言葉を聞いた瞬間、今まで僕の中に渦巻いていた不安感は、溢れんばかりの幸福感に変わっていた。
「ありがとう・・・アヤネ。ありがとう・・・」
今、僕に言える精一杯の、「ありがとう」。
彼女に、届いたのかな?
きっと、届いたよ。
いま、触れ合っている身体を通して・・・
夕陽が、僕らを紅い空気で包む。
アヤネの瞳からこぼれ落ちるその雫は、夕暮れの紅に染まって、美しく輝き、弾け飛ぶ。
アヤネを抱き締めたその時に、二つの鼓動がちゃんと胸の両側で鳴るのが感じられる。
左は僕ので、右は君の。
左は君ので、右は僕の。
とくん、とくん、と、この鼓動をいつまでも感じていたい。
それを言葉に表そうとして、アヤネの顔を見ると、目が会う。
・・・なんか照れくさい。
アヤネは微笑んで、僕を見る。
そして、僕らは同時に口にした。
「「これから、ずっと、ずっと、一緒に居ようね。」」
|