何時もより早起きをすると、違った世界が見えてくるという。
僕は、眠い目を擦りつつ早朝に目を醒ました。
視界に広がったのは、燃えるような美しい朝日と、有り得ないモノモノだった。
若干五歳、通称
「年長組」
の組長、高杉ノボルの前には、見たこともないよう光景が広がっていた。
この危機を脱するためにまず、やっておかなければならないのは、物理的な証拠の隠滅だった。
四畳半の自分用の個室。その中でもかなりの質量を持っているソレを隠せる場所など限られている。
押し入れ。押し入れると書いて押し入れ。
さらに、直接返り血を浴びたに等しい、この体を今すぐ清める必要があった。
しかし、問題が二つある。
一つは
「音」
だ。
あし音ひとつ立てず、物音を立てずにシャワーのある浴室まで行くのは困難に等しい。
第一、朝からシャワーを浴びるという行為自体が不自然極まりないのだ。
そういった困難を乗り越えたとしても、ひとつでも証拠が見付かれば、どういった事になるのかは想像がつく。
これはプライドと此れからの人生を賭けた試練なのだ。
押し入れを固く閉ざし、窓を開けて風通しを良くする。
少々、遠回りになるが、両親の寝ている寝室の前の廊下を通るよりは、反対側のキッチンを介して行く方が無難だろう。
ただ、気を付けなければならないのはドアの開閉だ。扉は細心の注意を払い開ける。
開ける時はいいのだが、どうしても閉める時には金具の触れ合う音が出る。
それを防ぐには、最後までドアノブを引きながらゆっくりと金具の穴が噛み合う位置に持ってくる必要がある。
大人なら、なんだ簡単だと思うかもしれないが、僕、つまり若干五歳児にとってはかなりの技術を要するのだ。
見上げるセキュリィティロックは高く、手には汗が流れる。
しかし、スムーズにいった。あとは、シャワーを浴びるのに適する言い訳を考える事だ。
以前、聞いた話では文明の力である洗濯機を利用しようとして露見したヤツがいたというのを聞いた。
確にソレは触れてはならないお母さんの聖域であり、露見しやすいだろう。
ならば…。
覚悟を決めた僕はパジャマを着衣したままシャワーを浴びるという作戦に出た。
一見、不自然に見えるこの作戦だが、幼さゆえの過ちとみれば納得できる。
木を隠すなら森の中、水を隠すなら川の中だとNHKの教養アニメでも言っていたではないか。
今や、忌まわしい証拠は清められ排水口に吸い込まれていく、これで疑われる余地は何もない。
「うわ、何やってんのノボル。」
「へぇ?おはようお母さん。」
「おはようじゃないよ、何で服着たままシャワーなんか浴びてるの?」
「ほら、汗をかいたから。あれ、服をきたままだった。」
変な沈黙。
「お前…もしかして」
夏の朝日はすっかり登り、布団はすぐに乾いたが、お母さんの怒りは冷めることはなかった。その話が、幼稚園中に広がるのは時間の問題だろう。
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