私の不憫過ぎる友人
「はぁ? また別れただぁ?」
目の前で苦笑いを浮かべる色男。とてもとてももう30を過ぎているとは到底思えない。
その容姿だけでも女性が放っておく訳もなく、しかも性格も良い上に騎士様と来たもんだ。捨てると言う選択肢が浮かぶのが先ず疑問だし、それを選べるだなんて同じ女としてどうなのかと思う。
いや、勿論世の中には色んな人がいるのは重々承知だし、否定している訳でないのだが思わずそんな考えを抱いてしまう。
「まぁ、今回に関しては僕もあまり相手の事は言えないのだけどね。
ほら、最初に話していたじゃないか。あまり乗り気じゃないって」
「いやいや、でも臨むからには幸せにならないとねとか言ってたじゃないか。
君がどれだけ誠実なのかはこれでも知っているつもりだし、だからこそ不思議で仕方ないよ」
私の本心を慰めと受け取ったのか、更に笑みを深くしてありがとうと言った後クイッと盃をあおる。
色っぽいなぁ……。はっ、うっとりしている場合か私。しっかりしろ!
「……今回はさ、最初から好きな相手がいたみたいでさ。ならばそれを応援しようってなっちゃってさ」
「なるほど、そう言う経緯か。
じゃぁ仕方ないね。でも、それにしちゃぁ報告遅くない?」
お見合いの日から数えれば1年以上も軽く経っているのだ。
無論、普段そこそこ顔を合わせてはいるのだけど、ここ半年程はお互いの仕事の都合が見事に噛み合わなくて遅くなったのは分かるのだけど、その前は時間を作ろうと思えば作れたのにと内心で拗ねてしまう。
ただ、普段彼にはお姉さんぶっているので表に出さないけど。
……出てないよね? 彼優しいから見なかった事にしてくれているだけかも。なんか恥ずかしくなってきちゃった。
「んー。こう言うと呆れられそうだけど、文字通り応援していたからね」
「はぇ?」
彼が言い迷っている間に良い感じに暴走していた為変な声が漏れてしまう。
お、落ち着けぇーい私。
「ごほん。文字通り応援って……まさか!」
わざと咳払いをして考えてみれば、すぐに彼のしそうな事に思い当たる。
うわぁ、本当にどこまでお人よしなんだか。自分で出来る範囲の事はすぐにやっちゃうんだから。
勿論、ちゃんと状況とかも見て対応出来るから……その子、予想だけどその間に彼に惚れちゃってそう。なのに別れた?
なんて疑問に思っているのを呆れたと捉えられてしまったようで、再び苦笑いを浮かべる彼。
「勿論仕事や周りに支障が出たり迷惑を掛けたりはしていないよ。もう僕だっていい年だしそのくらいの分別も出来る。
ただね、1度幸せになろうと思った相手だから初対面の相手よりも親密に対応はしちゃったね」
「やーっぱりクソ真面目で超誠実じゃない」
私が言うと、数少ない取り柄だからねなんて言う彼。
違います。数多にあるうちの取り柄が正解。
「で、結局どうなったの?」
聞けばふっと笑みを消す彼に、こちらも思わず姿勢を正してしまう。
直後気付いて笑みを浮かべてくれるものの、長年の付き合いのお陰で彼が何かに対して憤っている事は分かった。
「まぁ、端折れば上手くいかなかった。って事だね」
「端折りすぎ。貴族の娘の事だから具体的には言えないのだろうけどさ、もう少しちゃんと教えてよ」
少し芝居ががって言えば、ふっと優しく微笑む彼。
え? いや、惚れてるから無意味だけど惚れちゃうよ。ってか惚れ直しちゃったよ。あ、意味あったか。
「本当に毎回色々聞いてくれてありがとうね。言えない事も多くでいつも申し訳なく思っているんだ。
うん、そうだね。もう少しだけ聞いてくれないかい?」
そう、いつもこうやって自然と相手を楽にしちゃうのだ。そして自分が背負っちゃう。
それで全然潰れないからこそやっているのでしょうけど、偶に心配しちゃうのよね。
もっと私には言いたい事言ってくれて良いのに……。
「しょうがないなぁ。聞いてあげよう」
でも、そんな本気で言うと次からこの関係も終わっちゃいそうで……そんな事あるわけないのにそんな事すら怯えてしまう弱い私。
どうりで行き遅れまくっても未だに彼を好きで操を立てちゃってるのよねー、私の好きで。
「ありがとう。
言ってしまえば相手がクズだったって事なんだ。純粋な女の子を騙して、それだけじゃなく色々企んでいたみたいだし。
実は彼女も危険に巻き込まれたんだけど、僕がこっそり護衛に付いたから助けられて良かったよ」
羨ましいと思わず思ってしまう。
彼が守ってくれるだなんて、どんなに素敵なことだろう。
多分彼女の状況やら色々あって影で護衛に付くってなったのでしょうけど、危機的状況に颯爽と現れ解決してくれる騎士様……良かった。本当に別れた報告で良かった。これ絶対相手の子彼の事好きになっちゃってるよね。
そんな事を考えていた所為か、軽はずみな言葉が口をついた。
「流石理想の騎士を地で行く貴方らしいお話ね。
そこだけ聞けば惚れられたんじゃないの? って聞きたくなっちゃうわ」
苦々しく変わった彼の表情にしまったと後悔する。
勿論吐き出した言葉は戻ってこない訳で、後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「……彼女の落ち込みようが酷くてね。まるで昔の僕を見ているようで。
だから、立ち直るまで傍にいたんだよ」
嫌な事を思い出させてしまった。
本当に私って馬鹿な女。彼が振られる度にどれだけ落ち込んできたか知っている癖に、安易な発言から思い出させてしまうだなんて。
「そう……ごめんなさい」
心からの言葉。お願いだから彼に届いてと呟いた言葉は、しっかりと彼は受け取ってくれたようで笑みを浮かべてくれる。
「いや、場を和ませてくれようとしてくれたのは分かっていたんだけどね。
こちらこそごめん。落ち込んでいる彼女の姿を見てきたからついナーバスになっちゃったみたいだよ」
2人の間に沈黙が落ちる。
うー、失敗したなぁ。こんな筈じゃなかったのに。
内心で頭を抱えてしまった私。
だからだろうか、沈黙を先に破ったのは彼だった。
「実はね、ここに来る前に今まで付き合ってきた子達とその彼女が家に押しかけて来たんだ。
何故だか彼女達どうし険悪なムード作るし。正直困ったよ」
だからいつも時間に余裕を持って行動する彼が、珍しくギリギリに待ち合わせ場所に来たのか。
じゃなくて! それ確実に未練持たれているよ!
また私は自分の好きな人から好きな人が出来ただの聞かされなきゃいけないの? ってか、もしかして今日の呼び出しそれ?
「……だから私呼び出したの?」
「え? だからって?」
思わず口に出た言葉を聞かれたようで、逆に問い返されて困ってしまう。
なので、次に口から出す言葉は全然違う事。
「ううん。次のいい人って誰なのよ? 言われた通りこれ作ってきたわよ」
錬金術師の私お手製のアクセサリー。2人が若かりし頃まだまだ荒削りだった私の作品に惚れ込んでくれて、幼馴染にプレゼントするんだと私を落とした笑みを浮かべた時からの付き合い。
今や彼のお陰もあり弟子も取る程には有名な錬金術師になったのだけど、必ず1番好きで大切な相手には私お手製のアクセサリーを贈っている彼。
今回もこのアクセサリーは彼の1番の人の元に行くのだろう。私と同じ誕生石をあしらえた事から、私と同じ月に生まれた相手だとうかがい知れる。
そんな僅かな共通点から、もし私ならとどれだけ一喜一憂した事やら。
しかし、複雑な思いを胸にしている私なんてお構いなし。
彼は満面の笑みで――私の大好きな笑顔でそれを受け取った。
「ああ、やっぱり素敵だね。心に決めた人に贈るなら絶対に君の作品だって決めているんだ」
にこやかに話す彼に心をザクザクと切り刻まれる。
泣くな私。これでもう5回目じゃないか。いつものように家に帰って思いっきり泣けばいい。
お店だって弟子に数日任せれば良いじゃないか。
自分の思いを置き去りに、ポケーと見つめてしまった最初はともかく、2度目から浮かべた笑みを無理矢理貼り付ける。
「ありがとう、お陰で稼がせて貰っているわ」
「いえいえ、それじゃぁ早速プレゼントするね」
何と気の早い。行動力も確かにある彼にしても、私といる時にそんな無責任な発言するだな――え?
「んーっと、これでよし。
うん、滅茶苦茶似合ってるよ」
……意味が分からない。急に立ち上がった彼が目の前に来たかと思ったらいつの間にか首に何かが掛けられたのだけど。
何故か私のアクセサリー――首飾りを私が着けているのだけど。
えっ? えっ? これって何?
半ば放心状態で彼を見つめれば、照れくさそうに頬を染めながらこちらを見据えて口にしてくれる。
「僕は生涯君と共に笑って泣いて行きたいんだけど、一緒に来てくれないかい?」
優しい彼の言葉にようやくこれが現実だと知る事が出来る。
気付いたら目から涙どころか色んな所から体液出てぐちゃぐちゃやら、それなのに彼に抱きついているやら。
でも、しっかりと抱きしめ返してくれた彼に勇気を貰い。今なら口に出来る。
さぁ、しっかり聞いてね!
ご閲覧頂き誠にありがとうございました。
タイトルを5人目の彼女にするか悩みましたが、どちらの方が良かったでしょうか?
連作のタイトルを考える時の参考にしたいと思いますので、教えて頂ければ嬉しく思います。
なお、現在連作の方も今週中には投稿を開始しようと思いますので、よろしければそちらもお楽しみ頂ければと思います。
それと、今回はハッピーエンド版の後日談でしたが、いかがでしたでしょうか? ジレジレエンド版とまだまだ振られるループは続くよエンド版とくらいは考えていましたが、これが一番スッキリ終わりそうでしたのでこれに選ばせて頂きました。
色んなエンドをパラレルシリーズで書いても良いかもしれませんね。ご要望次第で書こうと思いますので、もし万が一こんな感じのエンドが欲しいとあれば挑戦してみます。そうなれば、この作品がパラレルエンドシリーズの1作品目って事になりますが、反響次第でしょうか。
そうそう、今更~が本当に私の予想を遥かに超えるほど評価を頂き、私と同じ趣味の方がこんなにいらっしゃるのかと勝手に喜びの舞を踊っております。
いやはや、本当にありがとうございます。感謝感激です。
それでは、重ね重ねではありますが本当にありがとうございました。