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独立機甲義妹旅団!パンツァー・グレナディア
作:神風



じゅぅさん 記憶










───西暦1945年 1月 18日
フランス北部 アルデンヌ地方


極寒と称するに十分値する寒さだった。
吐く息は真っ白に煙り、二重に着た防寒着も震える体を落ち着かせることは出来なかった。
露出した顔を突き刺すような寒さが襲う。
指先に感覚は無い。中隊は寒空の下、体を寄せ合って夜を越した。

情けなく垂れてきた鼻水をそそる。

今や極限状態に置かれた我が中隊隊員は、たった一人の少女を取り囲むように、雪に埋もれたアルデンヌの森の中を突っ立っていた。

むさ苦しい軍人達に取り囲まれた哀れな少女。ショートヘアーのサラサラな金髪が綺麗な、年端もいかないこの小さな少女が、今となっては壊走寸前の我が中隊に置いて唯一の希望でもあり、不幸を告げる前触れ鳥でもあった。

少女は、10センチは雪が積もった地面に膝を着き、目を閉じ両の手を胸の前で組みながら、まるで神様に祈るかのような姿勢で数分前から黙りこけている。


「中隊長殿、彼女は…」


「フェスラー、今は黙っているんだ。彼女の邪魔になる」


意見を申し立てようとした下士官を、小声で制した。
今はあまり雑談は出来ない。彼女の邪魔になるからだ。
我々の目の前で黙って祈り続けるこの少女は、別に中隊が捕らえた捕虜でもなければ拉致した民間人でもない。

彼女は、まさしく、間違うことなきドイツ第三帝国軍人なのだ。
もう少し言えば、武装親衛隊の正式な隊員でもある。もちろん、彼女の身を包むのは無骨な軍服だ。

彼女が、いや彼女「達」が私の中隊にやって来たのは、今から一ヶ月前のことだった。
フランス北部に突出した連合軍に対する大規模奇襲反撃作戦、ヴァハト・アム・ライン作戦を間近に控えての頃、軍集団本部から「新兵器の実地試験」として私の部隊に彼女達が「配備」されたのだ。

新兵器と聞いていたものだから最初彼女達を見たときは目が点になったし、何かの冗談だと思った。
彼女らと一緒にやって来たシュトライヒャーとか言う大尉の話によれば、彼女達は本物の「兵器」なのだそうだ。
曰く、薬物投与と遺伝操作によって人工的に製造・強化された「新人類」と。

始めそれを聞いた時には耳を疑い、次に彼女達の実力を見たときには目を疑った。
格闘能力も、記憶力も、射撃能力も、体力も、果てには経験に基づく勘さえも、我が中隊の誰よりも一歩、いや二歩以上秀でていたのだ。

私の部下と、彼らを一級品の兵士だと自負していた私自身も、たかが10歳程度の少女に面目を完全につぶされた。シュトライヒャー大尉は勝ち誇った顔で彼女達の頭を撫でていた。

大尉によれば、軍本部では彼女達のことを「戦狼(ヴェーアヴォルフ)」と呼称しているらしい。
なるほど、その実力はまさしく戦いに身を投じる狼と例えるに十分なものだった。


「………」


今祈り続けている彼女、部隊の中では余計な情を持たせない為に彼女達のことを「人形」と呼んでいるが、この祈りを捧げている人形の名前は「ツェツィーリア」
私の部隊に配備された8体の「戦狼」の中で、もっとも索敵能力の秀でた「人形」だった。

どういったことだか分からないが、彼女は姿も音も聞こえない敵の姿を見つけ出すことが出来るのだ。既に過去に二度、敵の陣地とその構成をこと細やかに言い当てたことがある。
彼女はまさしく我が中隊の目であった。

その彼女が今朝、夜が明けて間もない早朝に、私の元にやって来て服の裾をクイクイと引っ張るのだ。
言うには、夢で敵が来るのを感じた、とのこと。

普通なら本気にも気にも留めないことだが、彼女が言うのだ。私は歩哨についていなかった他の兵士をたたき起こし、彼女に索敵を依頼した。

そして、今我々は祈るような姿勢で敵の位置を掴もうと全神経を集中しているツェツィーリアを取り囲んでいるのだ。
広範囲の索敵には強い第六感が必要らしく、極限まで集中力が高められる。
だから、余計な物音は立ててはならないのだ。

雪に埋もれたアルデンヌの森の一角が、静寂に包まれる。兵士は皆、早く索敵の結果を知りたがっているようだった。
そりゃ、自分達の命が掛かってるんだから当たり前だが。
そろそろ兵士達も黙っているのが限界だと見えたところ、遂にツェツィーリアの目蓋が開いた。
中隊全員の表情がにわかに変わり、幼いツェツィーリアの顔が、彼女の正面にたたずむ私を見上げた。私の心臓が心拍数を上げるのが分かる。


「…どうだ。敵の存在は分かったか」


私は、出来るだけ落ち着いてツェツィーリアに話しかけた。

彼女は、ツェツィーリアはただ静かにうなずく。


「お前の感じた通り、敵は存在するのか」


「…存在する」


そのツェツィーリアの答えを聞いて、他の兵士達が心の中でため息を着いたのが分かった。
既に私の部隊は度重なる戦闘で疲労が頂点にまで高まりつつあったからだ。
出来ることなら、兵士達はもう少し休んでいるかこのまま戦線から離脱したいに違いない。
彼らはもう十分戦ったし、大勢の仲間と弾薬を失っていた。

しかし、そうも言ってはられないのが戦争だ。
私はツェツィーリアに決定的な質問をした。


「…敵の位置と規模は。接触するまであとどれくらいだ?」


「…街道沿いに800メートル西…戦車3輌を先頭に追随する歩兵が600名…まっすぐこっちに向かってくる…会敵は…およそ8分後」


中隊の間に、なんとも言えない空気が広がったのが分かる。


「…そうか、よくやってくれた。凄いぞ」


私はそう誉めてツェツィーリアの頭を撫でた。そこに存在する強大な敵を知った、なんとも言いがたい自分の気持ちをなだめるように。


「…中隊長殿、どうなさるおつもりで?」


後ろに控えていたフェスラー少尉が小さく口を開いた。


「…愚問だな少尉。我が中隊は連隊本部から友軍撤退までの殿軍(しんがり)を任されている。まさか撤退するワケにも行くまい…ここで奴らを迎え撃つ。それ以外に選択肢は無い」


当たり前の判断だった。約二週間前に発動された奇襲反撃作戦ヴァハト・アム・ライン作戦は既に破綻していた。友軍は各地で敗走し、連合軍は空と陸から包囲殲滅を開始している。
戦局が破滅に向かう中、私の中隊は味方連隊が戦線を離脱するまでここで敵の足止めをすることを命ぜられていた。
これが殿軍。悪く言えば時間稼ぎの捨て駒だった。
もちろん兵士は死にたいとは思っていない。口には出さない(というか出せない)が、不満ありありのようだ。
そんな兵士達の意見を、フェスラー少尉が代弁する。


「しかし我が中隊は今や200名足らずで、半分が怪我人です。片や敵は一個大隊…」


「撤退したいとでも言いたいのか。今我々が連中を止めなければ撤退中の味方が背後から食いつかれることになる。ここで敵の足を止めなければならん。それが我々の任務だ」


つまり我々はここで全滅しかねない戦いを仕掛けなければならないわけだ。どれほど危険かということか重々承知していながらも。

兵士達の顔が、一気に重くなっていた。

皆、あえて地獄に突き進もうとする私を恨むような灰色の瞳で眺めている。

そのなかで、ただ一人ツェツィーリアだけが、なんの淀みのない蒼い瞳で、私を見つめていた。

アルデンヌの森に雪が降る。


「……行こう、ツェツィーリア。戦争だ」








──それから61年後
日本



「………ソファーの下」


「……!!おお、ホントにあったぞ!テレビのリモコンだ!なんで分かるんだ、怜?!」


「ホントに凄いですね、ユキさん。閉まったところを忘れた年代物のお酒から無くした耳かき、今度はリモコンまで。目をつぶってちょっと考えただけで場所が分かるなんて」


「いや、何はともあれ、見つかってよかった!ずっと気になってたんだよ」


「…今度からは…無くしちゃ駄目」


「ああ。よくやってくれた、凄いぞ」


「……!」


「ん?どうした怜」


「ずっと前…同じように…誰かから誉められた気がする…」


「…?デジャブか?」


「…そうかも」












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