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第三王子のお守り騎士団 作者:しろっくま
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10/11

10話

「いつまで寝てるの? 早く起きて準備しないと、病人を待たせちゃうわ」

 ロレーヌさんのキビキビした声にびっくりして飛び起きる。今何時なんだろ、外はまだ日が昇る前みたいだけど。気を取り直して身支度を整えていると、自分の支度より診療室の支度を整えろと怒られた。

 水を汲んできて拭き掃除、包帯用の布の整理などをして、気づいたら診療時間になっていた。合間に朝ご飯を食べるように言われて、テーブルの上のパンをミルクで流し込む。
 ロレーヌさんは、私が部屋を整えてる間に薬草を採りに行ってきたらしく、材料の仕分けを済ませていた。

 午前中に何人か応対したら、もうお昼になっていた。やっと椅子に座れたので、大きく伸びをして、深呼吸してから午前中のことを思い返す。

 診療といっても、あまり大したことはしていないような感じだった。大抵はおじいちゃんおばあちゃんのお話し相手をしながら薬草茶を飲ませて、痛いとこをマッサージしてあげる、というものだ。しかしながら、一人ひとりに親身になってお世話するロレーヌさんを見て、私もこの人のような、人に感謝される仕事ができるようになりたい、と痛切に願った。

「どう? 午前中だけでも結構ハードだったでしょ? お嬢様だからすぐ根をあげると思ったけど、意外と頑張るのね。見直したわ」
「初めてのことばかりなので戸惑いますが、早く慣れてロレーヌさんの役に立ちたいです」
「あら、優等生の答えね。ふふっ、私はニコルちゃんが村の癒しになってくれることを期待してるわ」

 さあ、午後の診療だ、頑張れ私。
 夢中になって働いてると、この診療所の主、ミラー氏が帰ってきた。私はしばらくお世話になる挨拶をしたが、嫌な顔ひとつされず、むしろ歓迎されてしまった。
 こんな自分を必要としてくれることに感謝して、明日も頑張る、と両手を握りしめて気合いを入れた。

 ようやく勝手がわかり、なんとなく動けるようになるのに一週間かかった。
 しかし、騎士団勤めのドキドキ一週間と違って、この一週間はあっという間に過ぎ去った。

 少しずつ薬草も教えてもらい、煎じてお茶を出す係りにしてもらえたのはすごく誇らしかった。
初めて自分の仕事を認めてもらえたような気分で、幸せってこんなことでも感じられるのね、としみじみ思った。

 何日めかの午前中、おばあちゃん相手にお茶を出していたら、若い男性が飛び込んできた。奥さんが産気づいて、今にも産まれそうだ、ということ。

 ロレーヌさんの指示に従い、水汲みやら布の準備に取り掛かる。その間に妊婦さんが汗まみれで運ばれてきた。
 出産どころか、妊婦さんを見るのも初めての私は、震えて立ち尽くすしかない。

 今朝お茶出ししたおばあちゃんが、出産準備の指示を私にしてくれる。震える手をギュッと握り、ニッコリと笑いかけてくれたので、少し安心できた。おばあちゃんたちの方が経験豊富なんだものね、頼りにすれば平気に決まってる。落ち着きを取り戻し、ロレーヌさんを手伝いに側にいく。

 無我夢中という言葉がぴったりなのだろう、びっくりするくらい短い時間に赤ちゃんが生まれ、今は真っ白い布に包まれてスヤスヤ眠っている。

 出産を終えた奥さんは、とても誇らしい顔をしていた。母になるという大仕事は、大変な分、充実感もあるのかもしれない、と感じた。
 周りの皆さんを見てみるとみんな笑顔だ。赤ちゃんって幸せを運んでくれるって、ホントの話しだったのね。

 ミラーさんとロレーヌさんにお茶を淹れ、私が初めて経験した興奮を聞いてもらった。
 ついでに二人から、赤ちゃんが出来てから生まれるまでの状況を教えてもらったりして、目が飛び出すかもっていうくらいの衝撃を受けた。

「何てこと……キスだけじゃ赤ちゃんって産まれないの? リボンを枕元に結んでるのを見たら赤ちゃんが出来るってお話しを読んだんだけど……」

 ロレーヌさんは大爆笑、ミラーさんも涙を滲ませながら吹き出し笑いをしてる。

「あなた最高だわ。ニコルちゃんったら箱入りのお嬢様だと思ったけど、かなりの筋金入りね。笑えるわぁ、誰も教えてくれなかったの? その歳になるまで?」

 コクコクと首を縦に振るだけで、まだ衝撃は去ってくれない。旅に出ようと決心した日の、あの心細さは何だったんだろう。
 全くの勘違いだったと解って、嬉しいやら情けないやら……

 手元のお茶をグイッと飲み干した後には、勉強になりました、とニッコリ笑える余裕ができたけど。気持ちの不安も解消されたことだし、あとは、お給料をもらえるくらいお仕事頑張って、お家に帰るとしよう。

 早起きがまたまだ辛いが、薬草の仕分けに少しは慣れてきたな、と感じる頃、ミラーさんのお供で隣村まで往診について行けることになった。

 嬉しくて、ロレーヌさんとミラーさんに抱きついてから、早速出かける準備を始めた。
 薬草とお茶用のポットと茶碗、包帯少しをカゴに入れ準備完了。ロレーヌさんに手を振ってミラーさんと一緒に歩く。隣村まではすぐに着いた。老人がいる家を個別訪問、薬草茶とマッサージで今日の仕事は終了。

 帰り支度をしていると、早いうちから酔っ払った変なおじさん二人が誰かに絡んでいた。みんな助けようとするのだが、酔っ払いの迫力に押されて、なかなか事態が収束しない。

 しょうがないので私が割って入った。案の定、酔っ払いが私に焦点を切り替える。後ろ手で逃げるように指示して、その場を収めようとした。が、やはり無理だったようだ。ナイフを取り出し、私を脅しにかかってきた。

 前にもこんなピンチあったけど、今度は平気。ナイフ野郎への対処法はスレイ君から伝授されていたからね。あの時は女性が撃退する方法を教わったから、ちょうど実戦で試せるわ。

 事前に近くの家から火かき棒をお借りしてた。チラつくナイフの方が有利と思っているのか、私めがけて何度か振りかざしてくる。

 よし、今だっ!
 最初に目潰し、長い棒で鳩尾、関節をガンガン攻めて、最後に急所を蹴り上げる。

 綺麗に決まったところで酔っ払いは失神していたから、後は村の方々にお任せしても大丈夫でしょ。
 まばらな拍手に手を振って、診療所に帰りついた。

 疲れてぐっすり眠った次の日から、診療所の女の子は見かけによらず豪傑、と噂されるようになってたってのは、ここを離れる時に初めて聞かされた。

 実は、その日から、若い男性はみんなキッチリ両足を揃えて診療所に来てくれるようになってたのだ。
 礼儀正しい作法を覚えたのね、と感心してたんだけど、理由があったなんて最後まで知らなかったわ。

 そんな騒動があってから何日か経った日。
 毎朝の日課になった水汲みを終えてひと息ついたところだった。

 少し遠くから、もの凄い勢いで駆けてくる馬が三頭、旅人を乗せてこちらに向かっているように見受けられた。

 急ぎの病人がいるのかと考え、ロレーヌさんに連絡、病室の準備を急いで済ませ、入り口で待機した。
 馬から降りて来た人を確認してビックリ、そこにはなぜか、不機嫌丸出しの団長の顔があった。
 あんぐりと口を開けて固まっていると、その顔がどんどんこちらに向かってくる。
 引きつりながらも何か言わなければ、と考えて絞り出した言葉がこれだった。

「いい、いらっしゃいませ……ほ、ほ、本日はお日柄もよく……」

 ビキリっとこめかみに青筋を立てた団長から、その瞬間に大音声の怒号が響き渡った。

「この馬鹿者がーーーーっ!」

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