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貧の盗みに恋の歌 作者:リラックス@ピロー
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都築京の場合

 翔太君と私の関係は幼馴染のようなものだった。翔太君の普段の態度から、私に幼馴染以上の思いを抱いているとは思えなかったし、誰にでも優しい翔太君は、他の人に向ける笑顔と同じ表情を私に向けるから。それでも、周りにいるどの女の子よりも翔太君に近い位置にいるという自信を私は持っていた。だから本に挟まれた手紙を見つけても、特に何とも思わなかった。

 私がそれを見つけたきっかけは、翔太君が本を読んでいる所を見かけたからだ。ちょっとした悪戯心で、次の巻を私が借りて、続きが気になるだろう翔太君を焦らすつもりだった。しかしいざページをめくると、一枚のルーズリーフが挟まれていることに気が付いた。誰かが挟んだことを忘れてそのまま返却したのだろうと思い、私は何気なく中を開いた。驚くことにそれは誰かが、恐らく翔太君に宛てた手紙だった。整った文字から、書いた人の几帳面さが伺える。今時文通をする男子なんて絶滅危惧種なみに珍しい。何より翔太君は文章を考えるのが嫌いで、メールの返信ですら電話をかけるくらいだ。この手紙に返事を書くとは思えない。


 その思いが揺らいだのは、図書館で勉強を教えてもらう時だった。彼の開いた教科書には、見覚えのあるルーズリーフが挟まれていた。ファイルを普段から持たない翔太君は、手紙が折れないようにあえて挟んだのだろう。丁寧に二つ折りにされ、彼なりに手紙を大事にしているのだと伝わってくる。思わず手紙を凝視してしまう。至って平凡なルーズリーフに、日常的なやり取りが書かれていた。

 信じられないことだが、あの時の手紙に翔太君は返事をしていた。私はあの時、手紙を歯牙にも掛けなかったことを心底後悔した。楽しそうに手紙について話す彼の姿に、初めて嫉妬と言う感情を抱く。翔太君の表情には、手紙の相手への愛情が溢れていた。
 その後の勉強会にはまったく集中できず、分からない文法は分からないままだった。翔太君と別れた後、私は階段を降り件の本の元へと行った。そこには翔太君へ思いを告げる手紙が挟まれていた。
 松下楓。この名前には聞き覚えがある。翔太君との会話の中に出てきたはずだ。以前図書館で偶然会ったと言っていた。名前を明かして面倒な文通するほどだ。二人は両思いなのだろう。でも翔太君はまだこの手紙を見ていないはず。手紙を見なければ、二人が付き合うことはないのではないだろうか。

 この時の私は冷静ではなかった。手紙を両手で掴むと、勢いよく二つに破る。その身を裂かれた紙が高い悲鳴を上げる。それを繰り返し、やがて一枚の紙は桜の花びらほどの大きさになった。片手に納まるほどのそれを階段脇にあるごみ箱へ捨てると、私は階段を上がっていった。
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