勇者と王女
「……………」
「なんだ、さっきからずっと喋らないな」
明るい光が差し込む窓辺に座ったルビーナは言った。
「…あのさ、暇なんよ」
その近くで同じように座るアディンが、膝を揺らしながら答えた。
床で寝ている多尾の魔物が、振動でぴくりと動いた。
ルビーナはくすっと笑った。
「さっきも言ったじゃない、これで5回目だぞ」
「それぐらい暇なんだよ」
アディンはたらたらと返した。
「どっちにしたってまだ何も出来ないだろう。体がまだ治ってないんだから」
「いやいや、俺の再生力なめんなよ?勇者よ俺?流石勇者様ってくらい復帰早いよ?」
アディンはそう言うと踏ん反り返った。
「…本当に助かってよかった」
ルビーナは外を眺めながら言った。
アディンは少しルビーナの横顔を見ていた。
ルビーナはアディンに振り向いた。
「アディンがいなかったら、また不安になってしまいそう」
「……そっか」
アディンは同じように外を向いた。
「正直俺も不安というか、今安心してるからなぁ」
「アディンも?」
アディンは目を細めて遠くを見た。
「世界中行って色んな奴と会ったけどさ。皆俺がちょっと正体ばらすと恐がっちゃうのよ。何にもしなくてもな」
ルビーナはアディンを見つめた。
「勇者に選ばれて来た時も同じだったよ。勇者勇者て騒いだところで、結局化け物は化け物だ」
「……そうだな」
アディンはくるりと体を横にし、顔をルビーナに向けた。
「だから……まぁ、良き理解者が出来たってとこかね」
「それだけ……?」
ルビーナは不意に悲しそうな顔をした。
「ただそれだけで私が欲しくなったの…?」
アディンは少し焦った様子を見せた。
「い…いやんなわけないだろよ、そりゃ女の子のケツ追っかけ回すのは好きだけどそれは今までの欲求不満の現れというか、ルビーナはまた別の意味でだな…」
と、ルビーナの口が途中で緩んだ。
アディンは口を開けたまま停まった。
「ふふっ……」
「…そこんとこは魔王らしいんかよオイ…」
アディンは口を尖らせた。
ルビーナは笑って立ち上がった。
そしてアディンの目の前に立った。
「…魔王の手から勇者に救われたお姫様は、勇者とめでたく結ばれました」
「…………」
アディンは虚を突かれた顔をした。
ルビーナは手を差し延べた。
「…アディンが行くなら私も何処へだってついていくよ」
アディンは静かにルビーナの手を取った。
そして、にやりと笑った。
「……言ったな?」
ルビーナもにっと笑った。
アディンはルビーナを抱き寄せた。
「いやはやなんとも……結果が良かったからというべきなのでしょうか…」
王の広間で、秘書は歯痒い調子で語った。
「憎むべきを間違えていたとは…我々はなんと愚かだったのか……」
「うむ……勇者殿には感謝せねばならん」
王は感慨深く言った。
「彼の望み通り、勇者殿には王女を遣った。いや、ルビーナもそう望んでいた。我々は何も言うまい」
「えぇ…言えるべき立場ではございませんな……」
二人はため息をついた。
「ともあれ、魔王はもういない。そして、これからも現れることもあるまい。勇者殿がいる限り……」
と王がいいかけた瞬間、広間、というより城全体が激しく揺れ動いた。
王城は突如騒然となった。
「な……何事か!?」
その時広間に何人もの兵士が飛び込んで来た。
「へ、陛下、勇者殿が!」
「な……何と!?」
アディンは街並みを見渡した。
「ハーハッハッハ!!やっぱりこの眺めがイイね!」
「すごーい!!」
アディンの肩に乗ったルビーナも街を見下ろした。
ルビーナの肩には多尾の魔物が乗っている。
「ゆ、勇者殿ーーッ!?」
「オ?」
アディンは崩れた城の一部を見下ろした。
割れ目から王が叫んでいた。
「ななな何をなさっておられるか!」
「あーすみませんお父さん、やっぱり俺勇者とか向いてないみたいなんで。転職してきますわ」
アディンは爪の生えた巨大な手を振った。
「そ、そんな!勇者殿にはこの国を……」
「国はいらん!俺が欲しいのは可愛い王女だ!!王女ルビーナな!魔王じゃないぞ」
ルビーナはそれを聞いて少し顔を赤くした。
「てわけだからお父さん頑張ってなー!気が向いたら帰るからさ」
アディンはずんずんと巨大な体を動かし始めた。
大きな脚が山を歩いた。
王がまだ叫んでいた。
「ゆ…勇者殿……ルビーナーー」
ルビーナは振り返った。
そして笑って王に手を振って見せた。
「さて、どこ行ってみるよ?」
アディンは肩のルビーナに話しかけた。
「そうだな……アディンの生まれた場所は?」
「ベタなリクエストだなぁ。まぁいいけど。すっごい深い森だぞ?」
多尾の魔物が、ルビーナの口元を尻尾でくすぐった。
それを見て、ルビーナは答えた。
「じゃあそこへ行くぞ!」
「オッケ。よし、んじゃ落ちないようにしろよ?」
「うん!!」
魔王のような姿をしたアディンは、ずんずんと大地を進んで行った。
ルビーナは、幸せな顔で笑っていた。
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