王女
「……………」
王の間は、今度こそ静まり返っていた。
「……まさか、あのような姿とは…あれではどちらが魔王かわからないではないか……」
「どうやらあれでも半分程度の変身だったようですが……彼の力はあれが原因だったようですな……」
王は落ち着かないそぶりをした。
「もし彼が我々に牙を向けたら……我々に対抗の術はあるのか……」
秘書は少々遠慮気味に口走った。
「…魔王…ルビーナ様ならば或は……」
「しかしあれはもう手遅れだ!あの娘は既に魔物と一体化してしまった…!」
王は嘆いて手を額に当てた。
「ともあれ勇者…いえ、アディンの帰還を待ちましょう…」
「た…大変だぁ!!!」
突然、城中に響く叫び声が聞こえた。
同時に広間に一人の衛兵が走って来た。
王は頭をあげて、広間に飛び込んだ衛兵を見た。
「何事か!?」
「へ、陛下、魔王が!!」
「な…なんと!?」
秘書も驚きの声をあげた。
「く……護衛隊を出せ!私が出向く!」
「な、なりません王自ら…」
しかし王は従者達を従えると、秘書を振り切って広間を飛び出して行った。
「……懐かしいな」
ルビーナは魔王の黒い格好のまま、仮面だけをつけずに歩いていた。
近くにいる人々は彼女の姿を見て、畏れて近付かなかった。
「ま……魔王だ……」
「何故ここに……!?」
ルビーナは周囲を見た。
見るたびに人々は悲鳴をあげたりして逃げ出した。
ルビーナはただそれを眺めていた。
肩に乗った多尾の魔物がルビーナの鼻を尻尾でくすぐった。
「ふふっ……大丈夫。……大丈夫……」
ルビーナは魔物に笑いかけ、二度そう口にした。
「魔王よ!!そこを動くな!!」
叫び声がし、ルビーナは前を向いた。
百人余りの兵士がルビーナに槍を向けていた。
そのさらに後方には魔道士が控えていた。
「五年前のように、この国を滅ぼしに来たか!だがそうはさせんぞ!!」
「……私は!!」
ルビーナは高い声で叫んだ。
「私は魔王ではない!」
「お前のせいで五年前に俺の家族は死んだ!仇はとらせてもらうぞ!!」
前方にいた兵士の一人が強く叫んだ。
ルビーナは一瞬怯んだが、また叫んだ。
「私は、魔王ではない!!」
「貴様の力はこの国の厄災だ!」
ルビーナは叫んだ。
「私は――」
「魔王を倒せ!!!」
兵士達は槍を真っすぐルビーナに向け、構えた。
ルビーナは叫んだ。
だが声が出なかった。
「私―――わた…」
「待てぇっ!!」
大きな声が場に響き、百人の兵士はピタリと止まった。
その中から、王が兵士を掻き分けて現れた。
「…はぁ……はぁ……」
王はルビーナを見た。
ルビーナは涙を流していた。
「わたし…はっ………っ」
ルビーナは声を震わせ、その先を言えなかった。
多尾の魔物はルビーナの頬を掬った。
ルビーナも自身の涙を拭い、肩の魔物を撫でた。
「…私は魔王じゃない……」
「ルビーナ……か……?」
王は震える声で言った。
「…はい…五年前、魔王にされたルビーナです…」
ルビーナは静かに話した。
「いえ……五年間ずっと魔王にされてきました。…力が強すぎた私をお父様が倒そうとして…その度に私には魔王への恐怖が植え付けられた」
王はルビーナをじっと見ていた。
「けど…私は何もしてない。五年前にあんなことがあったけど、私は何にもしてない。私は魔王なんかじゃない」
「ル…ルビーナ……」
「ふざけるな!!」
また、一人の兵士が叫んだ。
「お前が魔王である証拠などお前のあの力で十分だ!!」
「そうだ!貴様は破滅の力を持っている!」
「貴様は魔物を連れているではないか!」
「お前は魔物だ!」
次々に周囲の兵士達がルビーナに向かって叫び始めた。
王はそれを止めようとしていたが、誰も止まらなかった。
その時、その場に不気味な声が響いた。
「フハハハ……醜いな人間共よ」
一同が一斉に上を向いた。
「そんな健気な可愛い女の子が魔王な訳無いだろ!」
声と共に、地響きが鳴り響いた。
いつの間にか周囲は薄暗くなり、何かが近づいて来た。
「な……な、なななんだあれは!!!!!」
兵士達がルビーナの背後を指差した。
ルビーナは振り向いた。
「本当の魔王はこの俺だ!俺が魔王!んでその女の子は魔王の俺に捕われていたお姫様だ!!わかったかボケ共!お前ら魔王魔王うるせーんだよ!」
とてつもなく巨大な悪魔の姿でアディンはべらべらと叫んだ。
野太い声が町中に響き渡る。
あちこちから悲鳴が上がり、人々は逃げ惑い始めた。
「な…なんだと…!?」
「あれが魔王…本物の魔王か!?」
兵士達は後退りをしてアディンを見上げた。
「待て…じゃあ五年前のあの事件は……!王女の力はなんだったのだ?!」
ある魔道士がルビーナとアディンを見比べて言った。
一同がハッとしてルビーナを見た。
ルビーナは苦しげに口を開いた。
「…それは」
「――俺が王女を狙った時についでに国を破壊してやろうと思ったのさ!!」
ルビーナは思わずアディンの顔を見上げた。
アディンは不気味に笑いながら続けた。
「なのにお前らときたら、あれを王女の仕業だと勘違いしやがった!お陰でお姫様は魔王呼ばわりだ、この俺っていう魔王がいるにも関わらずにな!」
「お……お前……」
ルビーナが言おうとする前に、後ろから大きな叫び声があがった。
「貴様ーーー!!貴様が俺の家族を殺したのか!!」
「…ハハハハ!その通りだ!」
「な…何と言うことだ!!」
王が声をあげた。
「ルビーナ!こっちへ来るのだ!!」
「えっ……あっ」
ルビーナは王に体を掴まれ、兵士達の中へと引きずり込まれた。
「お、お父様……!?」
「すまなかった……!お前は魔王などではなかった、むしろ魔王に狙われていたというのに、私は何と言うことを!」
ルビーナは咄嗟に口を開こうとした。
「ち……ぁ………」
が、何も言わなかった。
王はルビーナを抱き抱え、アディンを睨み付けた。
「皆の者!王女ルビーナは魔王などではなかった!真に倒すべき魔王はあやつだ!魔王を打ち倒せ!!」
兵士達はルビーナを見て困惑した表情を見せた。
だが、巨大な悪魔のようなアディンと見比べて、叫んだ。
「…何もかも、あの魔王に騙されたということか!?」
「我々は王女に何と言うことをしていたのだ…!」
兵士達は一斉にいきり立った。
「今こそ本当の魔王を打ち倒さねば!!王女をお守りしろ!!!」
ルビーナは何も言えず、その様子を見ていた。
アディンは兵士達を見て魔王らしい笑い声をあげた。
「グハハハハ!!お前らにこの魔王が倒せるものか!見るがいい、魔王のすごい力を!!」
アディンは足元の家を踏み潰そうと巨大な足を上げた。
「…ちょ…早く逃げろよ、ひぇーじゃねぇだろ……!……」
そんな声が聞こえたのは、ルビーナと多尾の魔物だけだった。
ほんの少し間を置き、アディンは家を一つ踏み潰して見せた。
「おぉ…何と非道な!!」
「フハハハハ!!どうだ!恐いか!?俺が魔王だからな、魔王!!」
アディンは高らかに笑って見せた。
「これ以上我らの国を壊されてなるものか!!行くぞおぉぉ!!!」
兵士達は、アディンに向かって一斉に突撃していった。
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