捜査の結果
「それで‥‥‥ どうだったのよ?」
「ほれ新一、早く話してくれんか」
コナンは今、灰原と阿笠博士に質問攻めにされている。場所はもちろん、阿笠邸。
「ああ、今から話すよ。いくつか気になることがあったんだ」
今日は月曜日、コナンは昨日のことを早速、報告する事にした。
気になることというのは、なぜ、昨日に限ってストーカーが現れなかったのか。また、白野艾が指定した待ち合わせ場所について。そして、白野艾という名前。
名前に関しては割とあっさりいった。
「おう、それなら、わしが分かるぞ。白野の白は白ワインの白、艾は苦ヨモギのこと。そして‥‥」
「白ワインをベースに苦ヨモギなど薬種成分を加えたリキュール‥‥ ベルモットの事ね」
「ああ、そうじゃ。そのとおり」
「いかにも博士が好みそうな洒落ね」
二人が楽しげに話すそばで、コナンは少し、うつむいていた。
「どうしたのよ、工藤君」
「新一ぃ?」
コナンはゆっくり顔を上げた。
「どうして、そんな洒落にしたんだろう‥‥ 別に、俺達に知らせる必要なんてないはずなのに‥‥ あいつらには」
コナンは深刻そうな顔をして、つぶやいた。
「そうやって、私達を悩ませ、不安にさせ、焦らせるのが‥‥ あの人達のやり方なのかもね」
灰原が、まるで、自分に言い聞かすかのようにそうつぶやいた。
「そうじゃな、そんなに深刻に考える必要なかろう、新一君。ところで、他にはないのかのう? その、気になることは?」
コナンは、白野艾が指定した待ち合わせ場所について説明した。
「あの公園は分かりやすいから‥‥‥ あの場所を待ち合わせにしたのは分かるんだけどな‥‥ でも、遠すぎると思うんだよ、駅まで。小さい子を連れて来て欲しいならなおさら‥」
「でも、分かりやすくていい待ち合わせ場所だったんじゃろ?」
「ああ‥‥‥」
「他にはないの? 何か気になること」
今まで黙っていた灰原が質問した。
「ああ、実は、来なかったんだ。ストーカーが。いつもなら現れる場所に、いつもの時間で行ったんだけど」
「いつも現れる場所って、駅のこと?」
「ああ、駅でストーカーが待ってて、艾さんが通り過ぎると後を追ってくるらしい」
コナンは艾の台詞を思い出しながら言った。
「公園から駅までの様子を教えてちょうだい」
灰原の目は真剣だった。
「ああ、分かったよ」
コナンは、公園のことや住宅街のこと、それから喫茶店についても説明した。
「艾さんの家はどこにあるの?」
また、灰原の質問だ。
「駅の道を真っ直ぐ行った先にあるらしい。白い壁が綺麗なマンションの一室に住んでるんだって」
「貴方は行かなかったの?」
「行ったのはおっちゃんだけだ。俺と蘭は、さっき言った喫茶店で待ってた。でも、大したことは無かったと思うぜ」
「どうしてそう思うのじゃ?」
今度は博士の質問。
「普通の家だったらしいからな。それに、組織の奴等が、俺達に知られちゃいけない決定的な証拠を残してる訳ないだろ」二人がどれだけこの事に関心を抱いているか理解し、感謝しながら答えたコナン。
「そうか。でも、家へ行けなかったのは、残念なことだったのう」
阿笠博士は残念そう。
「でも、今回の捜査で確実に分かったわね‥‥‥
黒の組織が関係している事が」
灰原がそう言い終えた瞬間、博士とコナンは灰原に注目していた。灰原に注目し過ぎて、辺りの音が聞こえなくなったように思われた。
阿笠邸は数秒間、沈黙していた。
「確実に‥‥‥‥
関係している?」
コナンが少し驚いたような顔で、ささやくように小声で言った。
「どういう事じゃ? あの名前で分かったのかのう?」
「まさか」
コナンが強く否定する。
「名前もその一つだけど、他に、もっと確実な証拠があるんだろ‥‥ 灰原」
コナンは、必死に様々な考えを巡らせながら問い掛けた。
(一体、何なんだ? 俺には分からなかった確実な証拠とは?)
「ええ‥‥ これは確実な証拠ね。組織が関係している事の」
「何なんだ、それは」
「何の事じゃ?」
二人の声がかぶる。
そして、その質問に、灰原はゆっくりと答えた。
「工藤君が話してくれた、公園や駅、住宅街、それに喫茶店。それ全てがあったのよ‥‥‥ かつて組織のアジトがあった場所に‥‥」
灰原は遠い記憶を探るような目で言った。
「組織のアジトって、お前、なんで今まで俺達に何も言わなかったんだよ」
コナンは責めるように強い語尾で問い質した。
「組織のアジトって言っても、私とジン、ウォッカ、そしてベルモットがいただけよ。本部は他の場所にあるの。その場所は分からないわ。貴方達が昨日行った場所にあるアジトは、ほとんど使われていなかったし ───ジンとウォッカは忙しくあちこち働きに行ってたし、私は大体本部にいたわ。ベルモットが何をしてたかはよく分からないわね─── 私の裏切り行為があった後、間違いなく場所を変えたはずだわ」
灰原はそう答えた。
(確かに、裏切り者が出れば場所くらい変えるはずだ。それなら、一体どうして、灰原がシェリーだった頃のアジトに、俺達を連れて行ったんだ?)
「ベルモットが、私をおびき出そうとしているみたいね」
「哀君をか!?」
阿笠博士が驚いて叫ぶ。
「ああ、きっと灰原が狙いだろう。灰原にしか、あの場所が組織に関係しているか分からないんだからな。いいか、だから灰原、大人しくしてるんだぜ」
博士よりも冷静なコナン。
「嫌よ。ベルモットの狙いは私なんだから」
灰原らしからぬ反抗だ。
「なんだよ、いつものお前らしくないぜ」
「そうじゃよ哀君。大人しくしていないと危険じゃよ」
二人が諦めさせようとするが、
「私と組織の問題なのよ」
灰原の決意は固かった。
「今度はいつなの? 白野艾が毛利探偵の予約を取った日は?」
コナンは灰原の熱意を感じとり、答えた。
「次の日曜日のはずだ」
「わかったわ」
灰原はそれだけ答えた。
「おい、でも、もし行くんなら体調を直してからにしろよ」
「哀君、危険じゃよ」
二人は忠告する。
「体調の方なら、もう大丈夫よ。それに、工藤君も行くのに、私だけに危険とは言えないんじゃない?」
「哀君‥‥‥」
博士はそうつぶやいたが、
「私は行くわ」
灰原の目は真剣だった。いつもはクールなその目から、燃えるような眼差しが感じられた。
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