山を彩っていた葉っぱの半分が地面に落ちて、風に冬の気配が感じられる頃、一匹の猫が山道を登っていました。
白と茶色のまだら模様で薄汚れた、お世辞にもきれいとは言えないみすぼらしい猫でした。
地面が見えないくらいに敷き詰められた枯葉の上を、小さな乾いた音を立てて、ふらふらしながらゆっくり進みます。その歩みが今にも止まってしまいそうで、そうなったらもう二度と進めないことを、この猫はよくわかっていました。
時折風が吹いては、すがる様、枝に残っている枯葉を地面に落とします。
山は、驚くほど静かでした。
やがて、猫は導かれるように2本の大きな樹の間を通り抜けました。通り抜けた先は開けた広場のようになっていて、樹々が柵のように周りを囲っています。
その中央に人間の女の子が立っていました。
真っ白なワンピースと、腰まである黒くて長い髪が風で揺れています。
「ようこそ」
女の子らしくない、落ち着いた口調でそう言いました。
すると、猫は後ろ足を折り曲げて、その場に腰を下ろしました。果たして、人間の言葉を理解したのかどうかはわかりません。
女の子は猫の前まで歩いて行き、膝を曲げて屈みました、そして、そっと手を伸ばて猫の頭を撫でます。
初めて触れる人間の手の感触に、猫は目を細めます。
「では、こちらへ」
手を離し、立ち上がった女の子が促します。
それはこの猫にとって非常に酷な言葉でしたが、猫は何とか立ち上がり女の子の後を追います。
突然、猫はなにか薄い膜のような物を顔で突き破った感触に目を閉じます。再び目を開けると、そこは山の中ではありませんでした。
見渡す限りの草原でした。そこには、樹の枝で作ってある十字架、手のひら大の、平べったい石をいくつか重ねたもの、やたらと大きな石、それらが不規則にたくさん並んでいました。
一目で、それが数えられないくらいというのがわかります。
一番遠くで、真っ赤な夕日がそれらを真っ赤に染め上げています。
猫は、ついに自分がたどり着いたのだと知りました。
穏やかな風に自分の毛が揺れてりるのを感じながら、猫はその場でぱたんと、横に倒れてしまいました。それっきり、起きることはありませんでした。
女の子が動かなくなった猫の隣にやってきて、再び頭を撫でてやります。ごくろうさま、と一言声をかけました。
誰も行ったことのなくて、誰も知らないどこかに、死期を悟っていなくなった猫たちが集まる場所があるそうです。猫は誰に言われるでもなく、そこで最後の眠りに尽きます。
そこに一人の女の子の墓守がいて、猫の最後を看取ってあげるそうです。
数え切れないくらいたくさんあるお墓に、今日も一つお墓が増えました。 |