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友人と話して出来た話 幼馴染み編

作者: 出下夕御

 あんなに一緒だったのに。俺は、どうすることも出来なかった。





 期末テストが終わり、夏休みを待つ俺ら第三美空中学校の生徒達は、いつもながら馬鹿やっていた。無論、俺・神谷(かみや) (ゆう)もそのひとり。


「おい侑!」


「どした裕」


 俺に声を掛けてきたのは、昔っからの悪友・眞田(さなだ) (ひろ)。今日も俺を何かに誘うつもりで掛けてきたのだろう。


「なぁなぁ、今日こそ渋先のハゲ頭に落書きしよーぜ!!」


「あぁ。今日こそやってやるぜ!」


「ちょっとやめなさい!また生徒指導室行きにされたいの?」


 口を割って入って来たのは幼なじみ・瀬戸(せと) 絢菜(あやな)。俺の貴重なストッパーでいつも俺に弁当を作ってくれる。

 余談だが、俺の通うこの中学校は弁当をメインとしていて普通に給食は無い。少し田舎な土地だからそうするしか無かったらしい。


「そろそろ夏休みかぁ。侑はどうするんだ?」


「俺か?俺は、まぁ家でゴロゴロと……」


「夏休みの課題、やっとかないと駄目よ」


「ちゃんとやるつもりだ」


「そういえば、裕君は?」


「俺か?特に予定無し」


 暫くすると、帰りのホームルームが終わり、帰り支度を済ました俺は、用事があるらしい裕と絢菜より先に帰った。

 体育館の裏に、何故か絢菜が息を切らせて走ってるのが見えた。用事じゃないのかと俺は考え、気配を殺し後を追った。


「待った?」


「おう、待った待った」


 何なんだ?何で裕が絢菜を待ってたんだ。それに何で絢菜が息を切らせてまでここに?

 そのあと、俺は信じ難い事実を目撃した。

 嘘だろ。裕が告白して絢菜が了承して、抱き合って接吻(キス)だと……。

 ………そうか。……そういうことか。





 あれから数日経って、明日修業式。いつもの通り、絢菜は俺を起こしに来た。いつもは感じなかった有り難みが、今やっと感じられた。

 しかし、何なんだこの胸糞の悪さは。

 それから登校中の事だ。


「昨日のテレビドラマ見た?」


「………ああ」


「かっこよかったなぁ。私も憧れるなぁ、あの女優さん」


 これ以上彼女と話すと、かえってまたムシャクシャする。


「わりぃ、先行くわ」


「えっ……うん」


 俺は学校まで走った。この胸糞の悪さは未だに俺を怒らせる。

 あの何気ない会話と流れる時間が、あんなにも愛おしい。

 気が付いたら、とっくに学校に着いていた。すると、やけに機嫌がいい裕が俺の目の前に現れる。


「あれ?絢菜とは一緒じゃないのか?」


 嫌みが混じった裕がそういった。


「別に……」


 敢えて俺は素っ気なく答えて教室に行った。

 授業中、俺の隣の絢菜の顔を何故か見てしまう。なのでまともに授業に集中出来ない。

 休み時間になると、絢菜が俺にシャープペンの芯をくれと言い出した。


「二、三本でいいか?」


「うん、ありがとう」


 その光景を見ていた阿呆どもが冷やかしてきたが、俺と彼女は無視して流した。

 昼休み、やっぱり今日も違っていた。

 いつも俺と自分の分の弁当を作って持って来てくれる絢菜だったが、今日は三つも持ってきた。


「よ、おまたせぃ!」


 珍しく、隣のクラスから裕がやってきた。

 あぁ、そういうことか。三つ目の弁当は、裕の分か……。

 いつもは普通だった彼女の弁当も、あの光景を見てから、いつもと違う味だ。というか、味すら感じない。


「あ、裕ったら、ソース口に付いてるよ」


「マジ?」


 絢菜は、ハンカチで裕の付いたソースを拭いた。

 見てらんねぇ。さっき、裕を呼ぶとき君付けじゃなかったから、もうそういう関係なんだな。

 俺は、もう一人ぼっちなんだな。





 もう夏休みだ。いつになく俺は、何故だかいつもはギリギリまでやっていた夏休みの課題も終わらしていた。ただ今日も何かが違った。

 俺の家の隣は絢菜の家で、昔っからの付き合いだった。それに窓を覗けば、彼女の部屋も見え見えである。

 絢菜は誰かとケータイで通話していた。あの喜びようからして、裕だな。あんなに笑った顔の絢菜は初めて見た。

 数分経って、彼女は家を出た。いつもと違う恰好をしていた。

 滅多にしない化粧を薄くして、見たことも無いワンピースを着ていた。

 俺も丁度暇だったし、後を追った。だがこれは決してストーカーではなく、ただ単の通りすがりの男だ。

 途中で裕と絢菜は合流した。裕もいつも見せない普段着だ。

 親父が探偵だったから、俺も尾行術はある。だから俺は二人の後を追った。

 二人のデート先は、市民動物遊園地。動物園と遊園地が合わさった娯楽施設。デートスポットでも有名だ。

 園内に入ると同時に、俺は物影に隠れ親父からのお下がりの変装グッズでバッチリ違う人物に変装した。知り合いから見ても、俺とは分からないだろう。

 しかし、なんだあのイチャイチャぶりは。見てるだけでも腹が立つ。

 つついてはじゃれて、つついてはじゃれて。オープンカフェまで行くと、一カップのジュースを、二人でストロー二本で飲んでやがる。しかし俺は、それに対する怒りを抑えてコーヒーを飲む。


「なぁ絢菜、次お化け屋敷いこーぜ」


「えーっ?!怖いよぉ!」


「大丈夫大丈夫。俺がいるって」


「裕ありがと♪」


「おう、まーかされて」


 俺は無性に腹が立った。あの二人を追うのも、馬鹿らしく思えるからだ。

 そして、俺はそのまま帰った。





 新学期。俺は早々に遅刻してしまった。理由は簡単。とうとう絢菜が起こしに来なかったからである。

 昼食の時間もそうだ。俺の分の弁当は持って来ておらず、ましてや俺の存在にさえも気が付いて無い。


「なぁ、あいつお前の幼なじみだろ?いいのかあれで」


「………別に。俺は関係無い」


 俺と彼女はもう別の世界の人間だ。今はもう関係ない。

 購買で買ったパンで昼飯を済ます俺だった。

 今日一日中耳に入るのは、裕と絢菜のイチャイチャぶりと、絢菜の幼なじみの心境等と色々だ。だから俺は関係ない。





 数年が経ち、俺は地元の高校に入学した。

 俺は新しく真面目に高校生活を送ろうとしたが、絢菜と同じクラスでこれまた隣の席だ。何らかの因果であろうか、俺は分からん。

 何故彼女は裕と違う高校に進学して俺と同じ高校に入学したのだろうか。一年前、彼女がいつもより明るい笑顔をしていた日があった。多分裕とやったのだろうか。しかし、俺は関係ない。

 入学して数日、裕と音信不通になった。と同時に絢菜がますます暗くなっていった。気のせいか、うなじや頬にうっすらとアザがあった。

 今日も彼女は暗い顔をしていた。昼休みに俺は声をかけようとするが、何故か躊躇(ちゅうちょ)してしまう。


「な、なぁ絢菜。俺でよかったら、相談……乗るぞ」


 いきなり俺に、彼女が、絢菜が飛びついて嗚咽を漏らした。

 その光景を見ていたクラスの連中は何を思ったのか、俺を犯人扱いしていた。

 俺は彼女を屋上まで連れていった。ここならあらゆる邪魔は入らないだろう。


「ここなら、邪魔は入らねーな」


「……」


 未だ彼女は沈黙している。


「最近……なんか暗いぞ。どうしたんだ?」


「……」


「……だんまりか」


 すると彼女は重い口を開いた。


「裕に……ぶたれたの………」


「裕が!?何かの冗談だろ?」


 俺がそう言うと彼女は続ける。

 中学も終わりの頃、裕の女癖は悪くなり、絢菜との付き合いを億劫にしていた。それどころか、次第に裕は絢菜に暴力を振る舞う様になっていた。最初は平手打ちだったが、それがエスカレートして殴ったり蹴ったりにまで。


「……」


「そんで、別れたんだな」


「……私達、付き合ってたんだよ」


「知ってる」


「……裕から告白されたんだ」


「それも知ってる」


「侑ったら、何でも知ってるのね。幼なじみだから……かな?」


「……」


 実質覗いていたとは、口が裂けても言えなかった。


「……裕とやったんだな」


「ふぇ?……何を?」


「しらばっくれるな。何で一年前、あんなにも笑顔だったんだ?!本当にやったんだろ!夜の営みってやつを!!」


「そ、そんな!私まだそんな事やって無いわよ!!」


「……信用できねーな」


「そんな……ひどい…!」


 彼女はそう呟き、屋上を去った。

 これでいい。いいんだ!これで!





 屋上で絢菜と話したその夜、裕から久しぶりにメールが来た。今夜、近所のコンビニで待つ…と。

 待ち合わせ場所に到着すると、そこには裕とは思えない人間がいた。

 茶髪に鼻ピアス。腰履きパンツに耳にもピアス。しかし、ちゃんと裕の面影も残っていた。


「久しぶりだな侑」


「久しぶり。元気そうじゃねーか裕」


「まぁな」


「それで、何なんだ?俺をこんなとこに呼んで」


「実は、俺と絢菜……付き合ってたんだ」


「……はぁ。知ってる、絢菜から聞いた」


 溜め息混じりに俺は答えた。


「なら話は早い。実は俺、絢菜(あいつ)とよりを戻したいんだ」


 何言ってんだこいつは。あほか?


「やなこった。なんとかしてーなら、お前の駄目な所を直すんだ。女癖と暴力を」


 そこまで言って、俺は立ち去る。後ろで裕が何言ったかは聞き取れてない。もはや、あいつと話す口さえ、持っていなかった。

 さらば、我が悪友よ。もう二度と会うことは無いだろう。





 今朝は、いつもと違った。いや、元に戻ったと言うべきか。


「おはよ!侑!」


 絢菜が約二年振りに起こしに来てくれた。有り難い。

 久々の絢菜との登校。何だかわからんが少し複雑だ。これと言って会話がない。

「…あのさ」


「…あのね」


「…あ」


「…う」


 同時だった。しばし沈黙してしまった。するとなぜだか、失笑してしまう二人だった。


「あ〜。もうどうでもいいやっ」


「そうね」


「あ、そうだ。この前はごめんな」


「?…何が?」


「……屋上で、裕とやったかどうかってこと…」


「あぁ、あれね」


 彼女は、笑みを浮かべ言った。

 初夜の時だ。いざ始めようとして、キスした際に俺の顔が彼女の頭の中を過ぎり、キスだけになってしまったという。

 そんな時まで、俺の事を考えていてくれたなんて……。


「じゃあ、何でいつもと違う眩しい笑顔をしたんだ?」


「家にあった昔のアルバムから、二人で撮った中学の思い出の写真が出たの。その時の笑顔がそれよ」


「っかー!心配して損した。俺は馬鹿だねぇ〜」


「ほらほら、早くしないと遅刻しちゃうよ」


「っけね!」


 そういうと同時に、俺は絢菜の腕を握り、走り出した。





 昼休み。俺と絢菜は屋上で弁当を頬張っていた。

 久しぶりに食べる絢菜の卵焼き。砂糖が効いてて美味い。


「久しぶりだな、絢菜の弁当食べんの」


「え?そだっけ?」


「ったりまえだ。ここ最近の昼飯は、菓子パンだったりコンビニの健康弁当だけだった。それに、中学は裕の分が出てから俺の分は無かった」


「……ごめんね。侑の分まで忘れちゃってたなんて」


「気にしねぇよ。仕方なかったろ、あん時はお前ら付き合ってたんだから」


「……仕方……ないよね」


 しばらくは、食を進めていた。噛み締めれば噛み締める程、絢菜の味が俺の舌に蘇る。

 俺は本当に幸福者だ。


「夕べ、裕に会った」


「……裕君に(・・)?」


 もう君付けか。そうとう別れたかったんだな。


「絢菜とよりを戻したいそうだ。どうする?」


「……どう……って言われても…」


「どうしたいかは、絢菜の自由だ。俺にはどうする事は出来ない」


 そこまで俺が言うと、彼女はケータイにある裕のメアドに電話番号等のユーザーを消したのだ。

 吹っ切れたようだな。


「……吹っ切れたか?」


 念のため聞くことにした。


「もう裕君の事は忘れるよ。今は侑しか、私には無いの」


 ……はい?


「……今…なんて?」


「だから、私には侑しかいないの!好きになっちゃったの!!だからもう裕君の事は忘れる!!!」


「……」


 しばしの沈黙。

 ここまでを少し整理しよう。昼飯に、いろいろと話して裕のユーザーを消した絢菜が、俺に告白。冷静に考えろ!

 第一、俺でいいのか?


「俺で、その………いいのか?」


「私に何度言わせるの?」


 頬を膨らませて、可愛く怒る絢菜。


「……侑がいいのに…」


「分かった!もう何も言うな!俺が全部受け止めてやるよ!」


「……ばか。率直過ぎるよぉ…」


 絢菜の顔が、俺の胸に突っ込んだ。俺は優しく受け止めるように抱きしめる。腕の中で、彼女は啜り泣いていた。


「侑のにおい……」


「本人から香るから当たり前だろ?」


 その後、チャイムが鳴るのを確認した俺達は、教室に向かう。





 ある土曜日。俺は目一杯洒落込んで家を出た。


「侑坊、何処さいくだ?」


「じっちゃん、ちょいと出掛けるんだよ」


 玄関でスニーカーを履いてる最中に、じっちゃんが声をかけた。何故かつられてお袋と親父が顔を出す。


「まぁまぁ。どうせ絢菜ちゃんとお出かけじゃないの?」

「息子よ、はやまるな」


 お袋と親父の言うことを無視して、俺は玄関を飛び出す。





「わりぃ!待ったか?」


「ううん。今来たとこ」


 俺は今日、彼女といわゆるデートだ。俺としては初デートなのだが…お互い同士が初ではない。しかし今日は、目の前の彼女にだけ集中しよう。


「ねね、映画行こうよ!アンコール上映の日だよ」


「?何の映画?」


「【ヘブンズノートTheラストネーム】だよ」


「あ、あれね」


 ヘブンズノートとは、主人公の高校生が、名前を書かれた死人が生き返るというノートを拾い、天使界から現れた落とし主の天使と共に、誰一人も死なせない世界を創るという映画だ。原作本(マンガ)も数百万部売れていて、これから見に行く映画はそれの実写版の後編だ。

 因みに俺は、原作本コンプリートしてる程のファン。絢菜は、アニメの方のDVDをコンプリートするほどのファンだ。


「俺見たかったんだけど、期間過ぎちまったからなぁ」


「ネットで調べたんだよ。感謝しなさい」


「ありがとうございます絢菜様」


 小芝居をしたあと劇場に入り、上映する映画を観た。

 客入りは少ない方だった。隣同士に座った俺達は手を握りあい、映画を観た。




 昼飯を終えて、買い物を楽しんだ俺達は夕日をバックに歩いていた。俺の手には、言うまでもなく、絢菜の買った服や小物が多い。


「ごめんね、こんなに沢山持たせてもらちゃって」


「あ〜、あんまし気にすんな。俺ってこんな事しかできねーし。また呼んでくれよ、今度も荷物持ちやったるからよ」


「ありがとうね」


 彼女の家の前に着いた時に、俺は彼女に誘われ部屋まで通された。

 俺は彼女の買った物を部屋に置いた。


「じゃあ、俺帰るわ」


「えーっ?泊まってってよー」


 はい?


「……何で?」


「だって、パパとママが丁度明後日までいないし、侑のとこのパパとママとおじいちゃんから、明後日まで預けるって」


 あぁ。親父達、何か企んでやがる。そうまでして、俺達の子供の顔が見たいのか?まぁいい。


「着替えとってくる」


「早くねー」





 晩飯時に、絢菜が腕を振るって俺の好物一式を揃えてくれた。

 あれ?ちょっと待て。俺、あんまし自分の好みとか滅多に話さない方だぞ。それも飯の方なんてあんま他人(ひと)に言ったこと無いぞ。

 もしかして……。


「お袋から聞いたのか?」


「(ギクッ!)や、やだなー。そそ、そんな事無いよー」


 目が泳いでやがる。


「じゃ何も聞かない」


 一口食べてみた。美味(うま)い。

 やっぱりお袋から聞いたんだな。


「美味いよ、これ」


「よかったぁ!」


 喜んでる喜んでる。





 オヤ?オヤオヤー?何で俺、絢菜と同じベッドで寝てるのかなぁ?

 えーっと。事態を整理しよう。

 晩飯食べ終わりましたー、学校から出された課題をやりましたー、テレビゲームやりましたー、PSPのモンキーハンターやりましたー、別々にお風呂入りましたー、絢菜が怖いと言いましたー。あぁ、そこからか。

 ふと、隣で寝てる絢菜を見る。幼げな寝顔がとてもかわいい。下心丸出しに、胸の方を見た。あ、全く何も無い。平らだ。

 さぁてっと、俺も寝るかな。


「……ぅん……侑……」


 ん?寝言か?


「……らめらってぇ……何もないよぉ……」


 忘れよ。





「……きな……よ…」


 んー。後5分。


「……おき……いよ…」


 んー。後10分。


「起きなさいよ!!」


「ほんげっ!」


 俺の腹に、彼女が勢いよく飛び乗った。すっげぇ痛てぇ。


「……もうちょい優しい起こし方は無いもんかねぇ?」


「侑が起きないからでしょ(怒)」


「ゴメン、まだ眠い」


「………馬鹿」










 改めて、俺は彼女の有り難みが分かった。

 そう感じるのに、分かるのに時間は掛かった。掛かっていい。人はそうなって人と分かり合える。

 俺と彼女は、これからも、ゆっくりと幸せに生きる。


 これからも…


 ずっと





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