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 ソフィアの過去と少女の過去が重なり、否定されるのは…

アコライト・ソフィア
作:葛城 炯



アコライト・ソフィア 4


 ソフィアは白々しく聞き直した。頭から布団を被ったままで。
『★依頼の内容は瘴気を祓うこと』
「うんうん。そうらしいね」
『☆んでも町で聞いたんは竜の退治や無かったか?』
「そだったね」
『○なんで違うんや?』
「そうね。なんで依頼の内容が違ってるかというと…」
『☆★○…というと?』
「間違えたんじゃない?」
 …ばきっ!
「いったぁ! …すぐ暴力に訴えるのはよくないと思うよ」
『★ボケるんも善し悪しやと思うで』
『☆幾ら何でも竜退治と瘴気祓いは間違えへんで』
「…確かにね」
 依頼文を届けたのは若い女とギルドでは言っていた。この村で若い女といえば…
「ノランさんが瘴気の原因は竜だと考えたんじゃない?」
『○そやろか?』 『★そうやったとしても、なんで竜と思ったんかや』
『☆そや。お爺さんが知らんと言うことはここいらには竜は居ないということやしね』
『○ウチ達が峠で見たんもここいらへんに棲んでそうな竜や無かったしね』
「…それは」
『☆★○それは?』
「女の勘じゃない?」
 したり顔で言うソフィアの言葉に人形達は脱力しコケて転がるしかなかった。

「こんばんわ」
『☆…誰か来たで』
 部屋の戸を開けるとそこにはミクラが枕を抱いて立っていた。
『○ミクラちゃんやん。どないしたん?』
「いっしょに寝ていい?」
「いいけど。どうしたの?」
「さっき、お風呂でね…」
『★お風呂で?』
「おかあさんの事、思い出したの」
『◎…おかあさん?』
 人形達はソフィアの方を振り向き、胸をじぃと見てから、顔を見合わせて深く頷いた。
「なによ〜。もう!」
「…駄目?」
 ソフィアは静かに微笑むと右手をミクラに伸ばして言った。
「いらっしゃい。いっしょに寝ましょ」

 8.夜の話
「おねえちゃん。寝た?」
「うぅん。まだよ」
 実際、ソフィアは昼に微睡んだせいか寝付けないでいた。人形達は枕許や布団の上で寝ていた。と言うより、いびきを立てていた。
「人形のくせにいびきを立てるなんて変だよね」
『◎…立てて無いもん』
「あ、ウェンディちゃん。さっきはごめんね」
『◎…ワタシもすぐ泣いてごめんね』
「はい。仲直り。よかったね」
 ウェンディはにっこりと笑い、ミクラの枕許に潜り込んだ。
「ねぇ。おねえちゃん。おねえちゃんの家族ってどんな人?」
 人形達のいびきが一瞬止まった。
 なによりも吃驚したのはソフィアだったが、ゆっくりと笑って言った。
「…私の家族はね。何処に居るか判らないの」
「えっ?」
「私はね、捨て子だったの。武器屋さんの前でお母さんの来るのを待って居たけど、いつまで待っても来なかったの。それでね、その武器屋さんに拾われてね。『今日からワシ等が家族だ』って言われてね。嬉しかったなぁ。それで…そこにはお姉さんと妹が居たの。よく悪戯して遊んだなぁ」
「お転婆だったんだ?」
「うん。特に妹なんか悪戯の天才だったな。黒魔法なんかで猫の髭焼いたりしてね」
「いけないんだ」
「でもね、おかぁちゃんが白魔法とか薬草とかで癒しては謝ってたかな?」
「ふぅん」
「お父なんかひどいのよ。男の子と喧嘩して帰ったら『勝ってきたんか?』だって」
「きゃはは」
「女の子なんだから勝てる訳ないじゃない。でもね『勝ってくるまで帰ってくるな』だって」
「すごい」
「でもね、妹とか、おねぇちゃんと二人だったら負けないようになっちゃったけどね」
「ひゃあ。すごいんだ」
「妹は黒魔法覚えてたし、おねぇちゃんは武器使ったら下手な大人より強かったしね」
「ひょぇえぇぇぇ」
「私だってね、武術大会の子供の部で優勝したんだから」
「ほんと? お姉さんに勝ったの?」
「うぅん。おねぇちゃんは大人の部に参加してたから。しっかり優勝してたけどね」
「…すごすぎ」
「でも…その優勝がよくなかったな…」
「なんで?」
「大人の優勝者は王宮に招かれて祝福されるんだけど、姉妹で優勝したのは初めてだからって私と妹も一緒に招かれたのよ…それで」
「悪戯したの?」
「ピンポ〜ン。妹がね、飾ってあった杖を落としちゃったの」
「どんな杖?」
「あの杖よ」
 ソフィアは部屋の片隅に立て掛けてある白銀色に輝く杖を指差した。
「そんなにすごい杖なの?」
「昔の偉〜い人が持っていた杖だって。その杖と一緒に妹が落ちて…杖を仕舞ってあった箱の下敷きになりそうになったの。それで瞬間的に…掴んじゃったの。そしたら大騒ぎ」
「どうして?」
「あの杖は普通の人は掴む事もできなかったんだって。掴むとね、火傷しちゃうのよ」
「ふぅん」
「で、杖の継承者だって言われて、家族とも離れ離れになっちゃった…」
「えっ? どうして?」
「杖の継承者としてちゃんと白魔法を極めなさいって修道所に入れられちゃったの…」
「でもお父さんとかの住所は判ってるんでしょ?」
「…わからないの」
「どうして?」
「記憶をね…浄化されちゃったの」
「浄化…?」
「お父の話もおかぁちゃんの料理もおねぇちゃんの武術の腕前も妹の黒魔法も覚えてるわ。いつどんな事をしていたのかも」
「………」
「でもね声は思い出せないの。顔も思い出せないの。名前も住所も…。温もりと思い出のほとんどは思い出せるのに…」
「…かわいそう」
「…いまはね、あの杖とこの袋の中の…刃物が家族と私を繋ぐ絆なの」
 いつの間にか流れ出ていた涙をミクラがそっと拭った。
「ありがと。やさしいのね」
 ソフィアはにっこりと笑ってミクラを抱きしめた。
「…わたしね」
「うん?」
「自分が一番不幸だと思ってた。火事で…一人になっちゃったし。ギゼルとすぐ喧嘩しちゃうし。ノラン姉さんとはなんか馴染めないし。でも、おねえちゃんも不幸だったんだね」
 ミクラの言葉にソフィアは真面目な顔になって応えた。
「わたしは不幸じゃないわよ」
「え?」
 ソフィアはにっこりと笑ってから言葉を続けた。
「一番不幸なのはね、幸せになろうとしない事よ。わたしはいつか絶対、お父ちゃんとお母ちゃんとお姉ちゃんと妹を見つけるんだもの。不幸じゃないわ」
「そか…そうだね。幸せになればいいんだ」
「そうよ。そのとおり」
「あっ、ひょっとして…旅を続けているのもそのため?」
「ピンポォ〜ン。冴えてるわね」
「てへへ」
「さぁ、お話はここまで。もう寝ましょ」
「うん。お休みなさい」
「はい。お休みなさい」
 程なく二人は寝息をたてはじめ、そして、人形達も静かに眠りに付いた。
 …暫くして
 闇の中から伸び出た鱗の付いた腕が杖を掴もうとした。が、その手からじゅっと蒸気が上がり掴む事はできず…やがて闇に消えていった。

 9.村の墓所
「ここが共同墓地ね」
 寂寥とした草原の片隅。木々に囲まれた墓地には確かに瘴気が漂っている。
『○ここの瘴気はそないに濃ゆくないなぁ』
「瘴気ってなんなの?」
 一緒に道案内としてついてきたミクラとギーゼだが、墓地に入るのは怖いらしくソフィアの後ろ、墓地の入り口あたりから辺りを窺いながら聞いた。
「瘴気って…一言で説明するのは難しいけど、まぁ、簡単に言うと霊魂の一種…要するに単純に言えば幽霊の素ね。特に悪意を持って悪霊となった霊魂がばらばらになったものが瘴気…と言ったら判るかしら?」
「わかった」
『○普通の人間が吸い込んだりしたら病気になったりするんやで』
「おねぇちゃんは大丈夫なの?」
 二人は温泉の湯につけ込んで乾かしたスカーフをマスクにしている。老人によると、これで瘴気をある程度は防げるらしい。
「大丈夫。私は元々、耐性があるし…このネックレスが瘴気を防いでいるから吸い込まずにすんでるわ」
 ソフィアの胸元にはクリスタルのネックレスが輝いていた。
「ふぅん。綺麗なだけじゃないんだ」
「これもそうなのか?」
 ギゼルはスカーフの留め金代わりにしているクリスタルのブローチを指差した。
「そうよ。そのクリスタルはね、特別製なんだから。私の基本法術が封印してあるの。だから、そのスカーフとブローチが在る限り、瘴気にやられることは無いわよ」
 ギゼルは信じられない面持ちでクリスタルのブローチを見つめている。
「じゃ浄化するからちょっと下がっててね」
 二人が木陰に隠れるのを確認してから、ソフィアは左手を高くあげて呪文を唱え始めた。
「光よ。聖なる光よ。聖なる力を持って祓い賜え。ラ・レイ・ラ・ピュア・リィー」
 左手から出た光の宝珠がゆっくりと漂い移動し、ぱっと弾けて光が墓地を包んだ。
 うぅおぉぉぉをぉぅゅゅゅぅぅぅ…
 光の中で亡霊らしき声があたりに響き渡り、光とともに消えていった。
「終わったの?」
「終わったわ。完全じゃないけど…」
 光の宝珠が弾けたあたりを見つめながらソフィアは応えた。ギゼルとミクラは不思議な顔をして見つめあい、そして聞いた。


 読んで下さりありがとうございます。
 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。
 4/30話目です。

 感想などいただけると有り難いです







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