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 敵達は互いに…
アコライト・ソフィア
作:葛城 炯



アコライト・ソフィア22


「うぅぬぅぅぅぅ」
「それでは、引き上げますわね」
 悔しがるネダに別れを告げ、十字架の元へ向かうソフィア。その時、ホールに地響きのような声が響き渡った。
『そうは行かぬ』
『★誰や? …ぐむっ』
 サーラに水衣を被せて包み締め付けたのはヌーラ姫とノラン。
『☆何? なんで…ぐふ』
 アェリィ、ノーラ、ウェンディ達も侍女達に水衣に包まれて捕われてしまった。人形達は術を繰り出そうとしたが、水衣は法力を弾いてしまうらしく、ただもがく事しかできない。人形達を掴まえる彼女達の目は虚ろで意思の輝きはそこに無かった。
『くっくっくっ…彼女達は既に私の僕なのだよ…如何かな? 我が呪縛の術は』

 42.黒幕
「どこっ? 姿を見せなさい! デオレマ!」
『…ここじゃよ』
 辺りを見回すソフィアに気絶したままの偽黒法衣が立ち上り、そして前のめりに倒れ…岩壁に映った影がそのまま黒法衣となって顕れた。その足元で呻く偽黒法衣。
『…ふん。御主が領主としてこの地に着た時から目をかけ、不老の術を掛けてやったのに…ここまで無能とは。もう…御主を生かす価値は無い…』
 黒法衣が手をかざすと、偽黒法衣の体から黒い焔が立ち上る。
「う…ぅえっ? や、やめてくれっ! アンタが永遠の命をくれるというから従ったのにっ! 森を焼き、村を焼き、さらに道標を変えて旅人達を…竜退治の餌につられた剣士達を…全部、アンタに差し出したのに…」
 命乞いをする偽黒法衣の身体から燃上がる黒き焔は消えない。
『騒がしい。今、御主に永遠の命を授けよう。我が命の糧となって…永遠に』
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ……」
 叫び声が消えると黒き焔は黒い霧となり、一塊の黒い球になってデオレマの手に収まった。
『…ふん。腹黒い奴は魂まで黒いわ』
 デオレマは黒い球をゆっくりと呑み込んだ。
『…不味い…これ程に不味い魂は食ろうた事が無い…おぇ』
 幽体のくせに吐き気をもよおし、しゃがみ込むデオレマ。
「姫様達、ノランさん。御免っ!」
 その隙にソフィアはヌーラ姫達の元に一気に駆け寄り、杖で鳩尾を打って気絶させた。
『★ふぃぃ。助かったぁ』
 水衣の中からもがき出た人形達は素早くソフィアの肩に登る。
『☆やい。幽霊の出来損ない! 他人を操るんはやめんかい!』
『…くっくっくっ』
 不気味に笑うデオレマにネダが駆け寄って見得を切った。
「はん! このデオレマ様はヒュドラを復活し、この地に我らニクシーの王国を築いてくださるのだ! その為に…うわっち」
 喚くネダの口にサーラの焔の球が放り込まれた。
『★うるさいで。脇役は黙っとき』
 サーラは焔の球を片手で御手玉しながらネダを下目で睨んだ。
「…ふぁい」
 ソフィアはデオレマを上目で睨みつけた。
「つまり…ヒュドラを甦らせる為に形振りかまわず魂を集めたのでしょう? 瘴気を放ち樹や草達の命まで削り集めて…沼に毒を放って動物達の命も…竜退治の依頼を出させて集まった人達を…その前には何の罪も無い村の人達を!」

 ぴくんと肩を震わせるノラン。
 無意識ながらも自分の罪の深さに怯えているようだった。

『…そういうことだ。全ては神の力を…この私が神になった事を証明する為…神獣の中でも神に近いヒュドラを甦らせる…その為に大量の魂が必要だったのじゃよ』
 デオレマは片手で懐から黒水晶の数珠を取り出した。
「…生きている人間のみならずニクシー達のような精霊に近い亜人類をも自由に操れるとは敬服致しますわ。かなり研究なされたのでしょう? 元司教様?」
『★なんやて?』
『☆コイツが元司教やて?』
『○司教のくせに黒魔術…しかもえげつない死霊系の術を使うんか?』
「操る術は…噂に聞く『人形遣い』達が使う術に幾らかの手を加えた物。その術の根本は白魔術にある治癒の術の基本スペル。ならばアナタは元来は白魔術の使い手。つまりはこの村の元司教。違います?」
『くっくっくっ…確かにワシはこの村の司教じゃった…庭先に湧く霊泉の水を研究しているうちに気付いたのじゃよ。命の…生命の真理と言う奴にな…』
 数珠を両手の指に絡ませるデオレマ。
 静かに身構えるソフィア。
『…暫くの間は有頂天じゃった…あらん限りの法力を使い、法術の真理を追求し、そして極めた。極めた後に残ったのは…ただの虚無じゃった…』
 デオレマはゆっくりと祭壇に向かって歩き出した。
『いかに術を極めんとも人の…ワシの命には限りが在る。そして、それを…真理を書物に記述しても…次にそれを、その総てを理解し、さらに極められる人間が顕れるかどうか…』
「判らないじゃない」
『いいや、顕れる筈が無い! このデオレマ・ダッド・ゲバードを越える者なぞ顕れるわけがないのじゃ!』
『○…結局、ただの自慢かいな』
『黙れ! ミダル』
 振り向きざまに黒い焔を投げつけたが、それはソフィアの光の盾に阻まれた。
 デオレマはにやりと笑い、そしてゆっくりと祭壇の階段を上り始めた。
『そしてワシは神になることにした。ヒュドラを復活させ、その力を我が物とし、神界へ移り住むのじゃ…そこのニクシーがヒュドラの復活を頼みに来た時に理解したのじゃよ。ワシは神となる運命だと言う事を』
「…なにぃ?」
 デオレマの後に従い歩き、祭壇の階段の途中のネダはデオレマに問い質した。
「…ちょっとまて、お前がヒュドラの力を我が物とする? …つまり、そうなるとヒュドラが導くスキュラは…そしてスキュラが実現すると言う我が王国はどうなる?」
 その答は…ネダも気付いているらしい。既にデオレマを『お前』呼ばわりしている。
「ヒュドラがスキュラを導くのならば、その時、神界への扉が開く…その道を通って神界へ行くと言ってた…だから俺は協力したんだ…違うのか?」
『神界へ入るには資格が居る。つまり、神の力を手に入れる必要があるのじゃよ…その為にヒュドラの力を我が物とするのじゃ。その後の事はこの世での事。神界へと赴くワシには関係無い事じゃ…そうじゃろ?』
「つまり…つまり、スキュラの復活は…どうなるのだ?」
『ワシが興味があるのはヒュドラの復活とその力だけじゃよ…』
「つまり、スキュラの復活には興味が無いと言う事でしょ?」 ソフィアが先を促した。
『そのとおり。御主達の御伽話には興味が無い』
「なんだって? じゃ何の為に俺は沼に毒の宝珠を投げ入れたんだ? 何の為にアンタのいうことを…」
『自分がニクシーの王と成りたかったからだろう? 高望みじゃよ…御主のような輩には』
 心の底を侮辱されてネダは逆上した。
「おのれぇ!」
 ネダは三叉槍をデオレマに突き刺した。が、槍は何事も無く通り抜ける。
『我が幽体の体にそのような物は何の意味も無い…』
 デオレマはネダに片手を向けると短い呪文を唱えた。
 バチッ
「ぐわぁ!」
 階段を転げ落ちるネダ。それを取り囲むのは…気絶から目覚めた半魚人達。
「皆の者。アイツを倒せ。アイツは我が神を侮辱した…どうした?」
「『どうした?』だと? さっきなんと言った?」
「沼に毒の宝珠を投げ入れたのは貴様か? 瘴気も貴様が放っていたのか?」
 仲間達の鬼気迫る追求に言葉がつまるネダ。
「貴様が毒を投げ込んだのは人間だと言った」
「瘴気も人間共が居なくなったら無くなると言ったな」
「全部、嘘だったのか…」
 じわりと迫る半魚人達にネダは汗を浮かべて立ちつくすだけだった。

 43.攻防
「…うぅ…うわあぁぁぁ」
 思わず逃げ出すネダ。後を追う半魚人達。
「待てぇぇぇ!」
「貴様を八つ裂きにしてやるぅぅぅ」
「逃がすなぁ…」

 後に残ったのは、ソフィアと人形達、そしてノラン、ミクラ、ギゼル、ヌーラ姫と侍女達と…まだ縛られているネゼ。そして、何人かの半魚人達。
 そしてデオレマと動きを止めている骸骨達。
「貴方達は追いかけないの?」
 ソフィアが残った半魚人達に声をかけた。
「裏切り者を捕まえるのは追いかけて行った者達で充分だろう」
「我らは姫様の近衛兵。裏切り者に騙されたとはいえ、姫様を裏切った罪はこの場で晴らす」
「…貴方達への借りもある」
 半魚人達は凛々しかった。が、やせ我慢を張っているような声の細さが感じられた。
「悪いけど、貴方達の歯が立つ相手ではないわ。姫様達を連れてこの場を離れて…」
 その言葉の先を遮ったのはデオレマの声。
『…時は満ちた。いま、この時よりヒュドラの召喚を行う…』
「させないわっ!」
 薄笑いを浮かべながら、デオレマは両手を広げた。糸が切れて飛び散る数珠の黒水晶。
『出でよ。我が眷族!』
 黒水晶が割れ、黒い霧が吹き出す。霧の中にゆらりと顕れる赤黒く光る眼。
「え? そんな…」


 読んで下さりありがとうございます。
 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。
 22/30話目です。

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