『愛してるぜ!リンダ!
お前がそこにいるから。
くそったれの世界も、
愛してるんだぜ!
まったくおかしな世の中だ!
何が正しいのか、本当にわからない。
おい、誰か説明してくれよ!
醒めた面して笑っているだけなんて、もう、たくさんなんだ。
偉いヤツが手のひらで俺たちを転がしている。
情報世界はデカイ面して流行り廃りを作り出してはブクブク太っている。
自由なんてどこにもありはしない!
俺はもう、こんなところたくさんだ!!
でも、お前がいるから、俺はここにいる。
俺の存在証明は愛ってヤツさ。
確かに存在するが、最も、不確かなものさ。
だけど、それでもいい。
確かに俺はお前を愛してる。
人類がファックしまくったアバズレ(言葉)。
それが『愛してる』だ。
でも、俺はこの言葉しか浮かばない。
もう少し学校で勉強していたら、もっとまともなことが言えたかもしれないけれど』
土砂降りの雨のなか、アパートメントの前でジャックが叫んでいる。
尻ポケットの中にいつもコームを忍ばせて、ヘアスタイルが少しでも崩れたら、すぐさまサイドバックにセットしていたのに。 リンダはそんなことを考えながら、不安げな眼差しで濡れ鼠のような彼を見つめていた。
なにかにとりつかれたようにジャックはリンダに愛の告白をしている。
命の次に大事にしている子牛のライダースがずぶ濡れになっているのも、自慢のリーゼントか崩れているのも気にしていない。
明日は、町のカーニバルの日で、彼はお得意のバップ。
リンダはストロークを踊ってラストはチークで最高の夜にするつもりだったのに。
『ジャック、あたしも愛してるわ、この言葉がアバズレだって、あんたは言うけれど、あんたがその言葉を口にするとあたしの耳には、ヴァージンより綺麗な言葉になって聞こえるわ!』
リンダは叫び返した。
ジャックは額に垂れた漆黒の髪をかきあげると、満足気に微笑んだ。
『忘れないでくれよ、お前を最高にエスコートできるのは、俺しかいない。でも、お前のなめらかなステップを俺は永遠に忘れられない。俺より上手くお前をエスコートできるヤツが現われたら、俺のことは忘れてくれ。本当はこんなことするべきじゃないかもしれなかった。でも、最後に、お前のキスを投げてくれ。どうしても俺にはそれが必要なんだ』
『ねぇ、ジャック、どうしたの?今からなにが起こるの?説明してよ』
リンダはジャックの“最後”という単語が気になった。
『なんてことはない。ただお前のキスが恋しいのさ』
ジャックは叫ぶ。
リンダは戸惑いながら、キスを投げた。
初めてキスを投げる少女のようにぎこちなく、彼に向かって精一杯、指先に乗せたキスを投げる。
ジャックは手のひらでそれを受け取ると、片膝をついた。
まるで騎士の儀式の様に厳かに。
『……じゃあ、リンダ、いい夜を』
ジャックはそういうと、踵を返し、相棒のバイクにまたがった。
ジャックは町の少年ギャング(モブスター)『トランプス』のボスだった。
最近、少年の間で流行している新種のドラッグの源『ブロークン』と抗争中だった。
相手のボス、マーフィーと町外れの断崖でチキン・レースをした。
マーフィーは途中でブレーキをかけ損ねて転倒。
頭をかちわって即死。
ジャックは最後までブレーキをかけなかったと聞いた。
トランプスのナンバー2のエースがジャックの代わりにパーティーの迎えに来たが、リンダは手首を切ったのでパーティーには行けなかった。 |