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放課後のプリズム
作:徳次郎



【5】自意識過剰?


 黄昏雲が浮かぶ頭上には銀色の三日月。
 西の空は茜色に染まり、雲の波間に太陽は深く沈みかけていた。
 最近空港まで開通したモノレールの高架が、黒い影となって田んぼを横切り新しい地平線のように何処までも伸びている。
 暮色の景色の中、住宅街の明かりはゆっくりと流れてゆく。
「サツキ、本当にメガネ止めるの?」
 買い物帰りの電車の中で、ドア脇の手すりに寄りかかったハルカが言った。
「判んないよ。でも……」
「ツカサ君でしょ?」
 サツキは小さく頷く。
「ホントにツカサ君は、サツキのメガネが嫌いなのかなぁ?」
 ハルカは携帯のメールをチェックして、それをポケットにしまう。
「だって、全然あたしの顔みてくれないよ」
「だからってさ……」
 ハルカは身体の向きを変えて、窓の外を眺める。
「ていうかさ、サツキの事気に入ってる奴、けっこういるんだよ。そっちの方がよくない?」
「けっこうって、何よ。誰よ」
 サツキは少し怪訝に尋ねる。
「ほら、3組の田島とか、1組の松川とか」
「全然知らない人じゃん」
 サツキの言葉にハルカはちょっと息をついて間を置くと
「あと……藤木……とか」
「藤木?」
 サツキは驚いて、思わず復唱する。
 誰とでも親しくする藤木は、ある意味異性として捉え所が無いといってもいい。
 気に入った娘がいるのかいないのか? そんな事は微塵も覗えないのだ。
「ウソでしょ? 藤木って、藤木悠介?」
「アイツ、入学当初からアンタに気があったみたいだよ。言うなって言われてたから、黙ってたけど」
 サツキは正直、悪い気はしなかった。
 カッコイイというキャラとはちょっと違うけど、みんなに慕われ、男女共に好感度が高い彼に特別な感情を抱かれている。
 今までだって、確かに男の子を意識はしてきた。
 ただ、自分の事を気に入っている男子がいると明確に名指しで言われたのは初めてだった。
「そ、そう……」
 サツキは呟くように言って、外の風景に視線を向けた。
「一応さ、あたしに聞いたって言わないでね」
 ハルカは目を細めて嘆願する。
「う、うん。大丈夫」
 でも、こんな事聞いちゃうと明日からどんな風に彼と接すればいいのか困ってしまう。
 サツキは、どうせなら聞かない方がよかったのかとも思った。


 サツキはハルカに手を振って電車を降りる。
 イズミもそうだが、ハルカももうひとつ先の駅の方が自宅に近いのだ。
 ひとり駅を出たサツキは、後ろから駆け寄る誰かに声をかけられた。
「サツキ、久しぶり」
 中学の同級生、春日弥宵かすがやよいだった。
 まるでOLのようなスリットの無い短めのスカートは、成華女子高の制服だ。
 成和第一高校と並んで、トップレベルの進学校。
「ああ、ヤヨイ。どうしたの? 制服着て……学校?」
「うん、部活」
「ずいぶん帰りが遅いんだね」
 ヤヨイは勉強もスポーツも好く出来た娘だ。
 中学二年の時にこの町に越して来たのだが、いきなり中間試験で女子のトップを飾ってみんなは度肝を抜かれたものだ。
 同じくメガネをかけた娘だったので、サツキは何となく親近感が湧いた記憶がある。
 しかし……
「ヤヨイ、メガネやめたの?」
 サツキは彼女の以前とは違う顔の一部に気付いていた。
「うん。ソフトボール続けるのに、やっぱり邪魔でさ」
 彼女は中学からソフトボール部に入り、ピッチャーをやっていた。
「コンタクト?」
「ううん、レーシック」
「レーシック?」
 サツキは初めて聞いたような気がした。
 コンタクトレンズの一種なのだろうか……彼女はそう思った。
「知らない? 瞳のレンズをレーザーで修正するんだよ」
「れーざー? って、レーザー光線?」
「そうそう」
 ヤヨイは笑った「なんか、光線って付けるとSF映画の武器みたいだよ」
「痛くないの?」
「麻酔するよ」
「怖くなかった?」
「ちょっとね」
 ヤヨイは短い前髪を少し摘んで
「でも、あっと言う間に終わって、それでもう両目1,5だよ」
「入院は?」
「そんなのしないよ。日帰りで充分だよ。東京まで行ったからホテルに一泊したけど」
「東京まで?」
 サツキにはビックリする事ばかりだ。
「この辺でもやってる所はあるけど、やっぱり怖いからさ。評判のいい病院に行ったよ。部活の顧問の先生が紹介してくれたんだ」
「なんか、凄いね」
 サツキは微かな溜息と共に言葉を発した。
 どちらとも無く何となく二人共歩き出して、少し先の交差点まで行くと手を振って分かれた。
 サツキは一度だけ振り返って、ヤヨイの後姿を見つめた。
 街路灯に浮かんだその姿は、なんだか大人に見えた。





次回【6】ラストチャンス?
は、3/9夜半過ぎ更新予定です。






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